命をつなぐ「福祉避難所」 避難者受け入れられない施設相次ぐ(2024年2月11日『NHKニュース』)

災害弱者といわれる人たちの命をつなぐ重要な場所ですが、今回の能登半島地震では施設や職員が被災して開設できなかったり、開設しても避難者を受け入れられなかったりする施設が相次ぎ、そのあり方が課題となっています。

39施設と協定も開設は15か所

 

石川県の輪島市珠洲市、それに能登町穴水町の4つの市と町では、地震の前から、高齢者施設や障害者支援施設など設備が整っているあわせて39か所の施設と協定を結び、福祉避難所に指定していましたが、NHKが取材したところ、2月7日時点で開設できたのは15か所と4割に届いていません。

輪島市では福祉避難所として老人ホームなど20か所以上と協定を結んでいましたが、建物の被災や断水、被災した職員の離職などの影響で、開設できたのは8か所にとどまっています。

人手不足で運営できなくなっているケースも

 

この中には、入所者を市外や県外の系列の施設などに避難させ避難者を受け入れている施設もありますが、避難所は開設したものの受け入れ希望が相次ぎ10件以上断ったケースや、職員の離職が続き深刻な人手不足で事実上、運営できなくなっているケースもありました。

輪島市は急きょ、かほく市七尾市の施設とも協定を結び受け入れを進める方針ですが、本来、2次避難先などに向かう前に一時的に身を寄せる場所であるはずの福祉避難所に、避難者が長くとどまることで負担が大きくなっている施設もあり、そのあり方をめぐって課題が浮き彫りになっています。

輪島市の特養 職員約120人→約40人に

 

輪島市特別養護老人ホーム地震の直後に福祉避難所を開設しましたが、長引く断水や人手不足の影響で、今は避難者を受け入れられなくなっています。

輪島市門前町特別養護老人ホーム「ゆきわりそう」は、地震の直後に市との協定に基づいて福祉避難所を開設しました。

しかし、120人近くいた職員が避難などを理由に相次いで離職し、今は40人ほどで対応に当たっています。

臨時託児所を設けるも深刻な人手不足続く

 

子どものいる職員が出勤できるよう、臨時の託児所を設けるなどしてなんとか職員を確保していますが、深刻な人手不足が続いています。

このため地震直後にはおよそ10人の避難者を受け入れましたが、今は地震前からの入所者らおよそ90人への対応だけで精いっぱいで、新規の受け入れはできていません

断水が続く中、特殊な浴槽を必要とする寝たきりの入所者が1か月以上入浴できず、床ずれの症状が悪化する懸念があるため、水を使わないシャンプーでしのぐなど目の前の対応に追われ、受け入れを再開できるめどは立っていないということです。

事務長「避難者受け入れたいが職員が潰れてしまう」

 

施設の事務長の小泉純一さんは「その日その日の対応で精いっぱいで、今は先が全く見えない。本当は避難者を受け入れたいが、職員が潰れてしまうので今は止めさせてもらっている。次の行き先が決まらない人が多ければ新たな受け入れは難しく、今いる入所者を今いる職員で守っていきたい」と話していました。

ボランティアに支えられ運営

輪島市にあるグループホームは、ほかの県からのボランティアに支えられながら福祉避難所の運営を続けていますが、新たな避難者を受け入れる余裕はありません。

施設側は、開設にあたって福祉避難所としての役割を果たせる施設なのか見極められるよう、判断基準を明確にする必要があるとしています。

輪島市門前町で福祉避難所を設けているグループホーム「もんぜん楓の家」では、施設の利用者33人に加え、高齢者など合わせて20人余りが避難生活を送っています。

避難所の運営はほかの県から交代で駆けつけるボランティアなどに支えられていて、施設の職員と合わせて20人余りの態勢で支援を続けています。

ボランティアの介護士「被災した職員が休息でれば」

 

大阪からボランティアで来た介護士の男性は「入所者が明るい気持ちになれたり、被災した職員が少しでも休息できたりすればと、ボランティアに来ました」と話していました。

別のボランティアの男性は「介護の現場は人手不足なので1つの施設から何人も抜けることはできませんが、複数の施設で協力し合って人を出せば、数か月の持続的な支援ができると思います」と話していました。

避難者の受け入れ希望の電話 断らざるをえない

 

一方、施設には地域を見守るケアマネージャーや近隣の病院などからも避難者の受け入れ希望の電話がほぼ毎日かかってきていますが、受け入れは今の人数が限度で、断らざるをえないといいます。

避難者が2次避難先に移れば余裕が生まれますが、住み慣れた土地を離れたくないという人も多く、中には避難中に施設のサービスの利用を申し込んだ人もいたということです。

管理者補佐「私たちだけではどうにもならない」

 

施設の管理者補佐をつとめる山岸丈哲さんは「避難者を待たせていて心苦しく、本当は受け入れたいが、今いる避難者がこの町から離れたくないという気持ちもわかる。私たちだけではどうにもならない」と歯がゆい思いを口にしていました。

そのうえで山岸さんは福祉避難所のあり方について、「建物が使えるのかどうか、電気が通っているのかなど、開設にあたっては明確な区分けが必要だ。避難者がどこにいてどんな支援を必要としているのか、関係機関との情報共有も今後さらに必要になると思う」と話していました。