災害の福祉支援 事前の準備が鍵を握る(2024年3月5日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 「DWAT(ディーワット)」とは「災害派遣福祉チーム」の略称だ。全ての都道府県が設置している。

 社会福祉協議会社協)や福祉施設の関係団体とネットワークを構築。災害が起きると介護や障害福祉、保育などの専門職がチームを組み、避難所などで高齢者や障害者のケアに当たるシステムだ。

 大規模災害になると、広域的な応援体制が必要になる。しかし全国のおよそ半数の都道府県は、他県からDWATの応援を受け入れる手順などを具体的に検討していない―。昨年1月時点の厚生労働省の調査による。

 応援の受け入れを想定している43都府県のうち、連携や情報共有の方法を「検討済み」なのは3府県のみ。長野を含む17都県は「検討中」で、石川など23府県は「未検討」だった。

 あらかじめ準備しないで、いざというとき機動的に連携できるはずがない。能登半島地震では、まさにその点を突かれた。

 長野県のDWATは1月8日から県社協職員ら3人を能登町に派遣。全社協によると石川、群馬、静岡、京都の4府県も8日に現地で活動を始めた。厚労省が調整役を担い各県から応援が入っている。ただ、事前に連携の検討が十分ではなかったため、活動が軌道に乗るまでに時間がかかった。

 地震からひと月ほどの時点で、被災した石川の7市町では福祉避難所の開設が想定の3割弱にとどまった。施設の損壊も一因だが、準備不足の面が大きい。

 高齢化の進む地域ほど、災害時にどれだけ早く福祉の支援を得られるかが、その後の鍵を握る。

 避難所を開いた時からケアの支援が入れば、高齢者の身体機能の低下を防げたり、認知症の人の混乱を和らげたりすることができる。災害関連死を防ぎ、結果として医療の負担も減らせる。

 DWATは都道府県を単位としている。必ずしも市町村にその役割が理解されているとは限らない点に、注意が要る。

 地域全体が壊滅的な被害を受けたとき、外からの応援とも連携しながら、どのように福祉を立て直していくか。県と市町村は具体的に業務継続計画(BCP)を描いておかなくてはならない。

 例えば、長野県内でも災害時、福祉施設など700カ所近くに福祉避難所が開設される想定だ。

 市町村が避難所を指定しただけで終わっていないだろうか。開設から運営まで実際に訓練し、課題を洗い出すことが欠かせない。