全市区町村を対象にした内閣府の調査(2022年末時点)で、子どもの離乳食を備蓄していたのは14・3%、妊産婦用の衣類は0・5%などと、20品目のうち16品目で3割を下回った。女性用の「おりものシート」は下着を取り換えられない場合に役立つが、備蓄は6・8%にとどまった。
市区町村側には予算や保管場所の制約から単独では備蓄が難しいといった事情もあるだろう。近隣の市区町村や都道府県、民間企業と連携して備えを進めてもらいたい。
女性や妊婦、乳幼児は特に、災害関連死の恐れがある「エコノミークラス症候群」の発症リスクが高い。備蓄を含めて避難生活で必要な配慮がなされなければ、体調の悪化や精神的な負担のほか、性暴力の危険もある。全ての関係者が、女性の視点に立って安全な避難環境を確保する必要性を改めて認識し、対応を急ぐ必要がある。
災害対応に女性の視点を取り入れることは、2011年の東日本大震災や16年の熊本地震でも重ねて指摘されてきた。内閣府は20年に男女共同参画の視点を組み込んだ防災・復興ガイドラインを策定。性別で異なるニーズに対応するための「備蓄チェックシート」や、避難所運営の留意点を列挙した「避難所チェックシート」を示して準備を促してきた。
だが、能登半島地震の避難所では実際に女性が困難に直面している。40代の女性は女性用下着の備蓄がなかったため、しばらく紙パンツを着用していた。
「更衣室を設けてほしい」という女性の要望を男性の責任者が聞き入れない事例もあったという。避難所チェックシートには、管理責任者に男女両方を配置するとの項目がある。実行できていればこうした不都合を減らせたはずだ。
内閣府の調査では、災害対応に当たる防災・危機管理部局に女性職員が一人もいない市区町村が、22年末時点で61・1%に上ることも分かった。熊本県内は45市町村のうち8市と20町村が「女性ゼロ」だった。
人事配置に当たって「防災業務は宿直を伴う緊急対応が多く、男性がするべき」といった無意識の思い込みが影響していないか、点検が必要だ。職員数が少なく女性を配置できない自治体でも、避難計画の策定や見直しには福祉や子育てなどの担当職員が参画し、多様なニーズをくみ取ってほしい。
多様な視点から災害対応を見直すことは、子どもや若者、LGBTなど性的少数者や外国人といった人々への配慮にもつながる。熊本は市町村の防災会議の女性委員登用でも全国に後れを取っている。人材の掘り起こしと育成でも一層の取り組みを求めたい。