能登半島地震でも… “女性の視点”入れた防災・災害支援を(2024年3月7日『NHKニュース』)

「避難所に仕切りがなくて、布団の中で着替えていた」
「下着や、おりものシートのニーズは後回しにされた」

能登半島地震の被災地の女性から、聞かれた声です。
3月8日は国連が定める「国際女性デー」。
災害時、女性の視点を取り入れた支援について考えてみませんか。

きる場所もない” 支援続ける女性は 

女性たちに話を聞く小山内さん

女性防災リーダーの育成などに取り組んでいる小山内世喜子さんは、石川県穴水町の避難所で支援を続けています。

支援した避難所の中学校は、一時は200人以上が避難していましたが、性別にかかわらず空き教室などに多くの人が寝泊まりして、着替えができる場所もなくプライバシーへの配慮がされていない状況だったということです。

自宅が全壊し、この避難所で生活している橋詰里美さんに、発災直後の状況を聞きました。

橋詰里美さん
「仕切りもないし、あってものぞいたら見える高さで、布団の中で着替えていた。食料の確保が優先され、下着やおりものシート、尿取りパッドなど、衛生用品のニーズは後回しにされた。女性ならではの体調の変化もあり、避難所の運営には女性が関わることが必要だと感じた」

こうした状況を聞き取った小山内さんは、避難している人たちとともに、プライバシーを守れるようパーティションを設置したほか、食事の準備や掃除などの避難所で必要な仕事を書き出し、一部の人の負担にならないよう当番制にするなどの環境づくりを進めたということです。

一般社団法人「男女共同参画地域みらいねっと」 小山内世喜子 代表理事

「女性の場合、清潔を保たなければ膀胱炎などになったりするおそれがあるが、声を上げにくい。また、炊き出しは女性が作るのが当たり前となってきて、それが1か月2か月続くと女性が疲弊してしまう。自主防災会などで話し合うときには、女性が入って意見を言うことが大事だ」

“女性職員ゼロ”の自治体が半数以上

災害時には男女でニーズや影響に違いが出やすいとして、国は自治体に対し、防災を担当する部署に女性職員を配置するなどして災害対応を進めるよう呼びかけています。

しかし、内閣府が去年12月にまとめた調査では、全国1741の市区町村で、防災や危機管理の担当部局に配置されている女性職員の割合は、去年4月の時点で平均で12.2%にとどまり、女性職員が全くいない自治体は900を超え、半数以上にのぼっています。

生理用品の種類増 更衣室や授乳室も 群馬 渋川

群馬県渋川市では5年前の台風被害をきっかけに防災対策に女性の視点を盛り込む取り組みを進めています。

防災の担当部局である危機管理室にこれまで配置されていなかった女性職員を3人配置したほか、地域防災計画に関わる女性メンバーを6割まで増やしました。

また、女性の意見を踏まえて備蓄品を見直して女性用の生理用品の種類を増やすなどしたほか、避難所を設営する際には更衣室や授乳室を設けるレイアウトを作成して、プライバシーを確保するパーティションを設置する訓練を実施したり、高齢者などが避難しやすいよう自主避難所にも毛布や食料などの備蓄を設置したりしたということです。

渋川市 危機管理室 野中文子室長

「これまで防災の仕事は男性の仕事という考えが強く、女性が参加しにくい状況だった。女性の視点を取り入れることで特に避難所の対策の見直しにつながった。男性も女性もともに取り組むことで、地域の防災力の向上にもつなげたい」

計画に理想的なことを書いていても 

災害とジェンダーの問題に詳しい静岡大学池田恵子教授は、防災対策に女性の視点を盛り込むことの必要性を指摘しています。

静岡大学 池田恵子教授
「女性のニーズや男性のニーズ、子育て世代のニーズなどそれぞれの被災者に違うニーズがある中で、男性の目線だけで支援をするのには無理がある。実際に女性職員が配置された自治体では職員がいない自治体に比べ、女性用品の備蓄のほか避難所運営の指針に女性への支援などの項目を盛り込むことが進んできている」

内閣府が去年に公表した男女共同参画の視点での防災などの取り組み状況を調べた結果によりますと、東日本大震災のあと、全国1651の市区町村が地域防災計画や避難所運営の指針を作ったり修正したりしたとしています。

このうち▼プライバシーの確保を盛り込んだと答えたのがおよそ82%、▼妊産婦や乳幼児がいる女性への支援がおよそ71%、それに▼避難所運営への女性の参画の推進がおよそ59%となっています。

能登半島地震での避難所の様子

池田教授はこうした動きを一定程度評価する一方、実際に災害が起きた際には避難所で女性だけが炊き出しを担い、議論や行政との調整の場には男性しかいない状況がみられるなど、計画に書かれた通りに実行されているかどうかには課題があるとして「計画に理想的なことを書いていても、災害時にはふだんの社会の姿が現れ、日常の『性別役割分担』がより顕著になる」と指摘しました。

こうした課題を解決するために、防災訓練で男性が炊き出しを担い、女性が全体への指示やテントの設営を行うなど、ふだんみられる役割を入れ替えて行った地域もあるということです。

池田教授
「地域の女性防災リーダーを育成し、ふだんから地域で男性も女性も防災の担い手になることを実体化してくことが必要だ。リーダー層に多様性があった方が一人ひとりに必要な支援が届きやすくなる」