成人式(2005年)に関する社説・コラム(2025年1月12・13日)

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成人の日 非効率な遠回りも楽しみたい(2025年1月13日『読売新聞』-「社説」
 
 変化のスピードが速く効率が重視される時代に大切なものは何なのか。これからの日本を支える若い世代が思い巡らせる一日になってほしい。
 きょうは「成人の日」である。2006年生まれの18歳、109万人が晴れて新成人となった。
 18歳は大学受験を控えた人も多く、大半の自治体は、主催する成人式の参加対象者を従来の20歳としている。18歳を対象に式典を開いてきた三重県伊賀市大分県国東市も市民らの要望を受け、今後は20歳を対象に戻すという。
 このため18歳は大人の仲間入りだとの実感を持ちにくいかもしれないが、様々な契約を結ぶことが可能となり、クレジットカードも作れるようになる。
 その分、多重債務などのトラブルに巻き込まれるリスクが高まる点にも注意が必要となる。
 高額な報酬を誘い文句に若者を犯罪に加担させる「闇バイト」が横行している。手っ取り早くお金を稼げる話などない。遠回りに見えても、地道な努力を積み重ねることが将来につながるはずだ。
 最近は若者を中心に、費やした時間に対する効果を重視する「タイムパフォーマンス」という価値観が広がり、「タイパ」という言葉が定着している。
 情報を瞬時に分析する生成AI(人工知能)の発達が、効率重視の風潮に拍車をかけたとされる。映画を倍速で視聴する若者の姿を紹介した新書も話題となった。
 こうした若者の行動の背景には情報過多の社会で友達との話題に乗り遅れたくないための処世術や、余計な時間を使うことを過度に嫌う気質もあるようだ。
 時間を有効に使いたいという考え方自体は否定すべきものではない。日本の国力が低下し、希望の持ちづらい社会で、効率的に目的を達成するための行動が広がるのは、ある意味では必然だろう。
 だが、タイパ主義が行き過ぎると、回り道をすることが「無駄」や「失敗」とみなされ、挑戦する心が失われないだろうか。
 科学や産業の歴史を見ても、革新的な発見や発明は、無数の失敗や、一見無駄に見えるような遠回りの過程で生まれることが多い。教育現場では読解力向上のため、1冊の本を長期間かけて読む「精読」を取り入れる学校もある。
 今の若い世代は、真面目でボランティア精神なども旺盛だと言われる。そうした美点を生かしつつ、未知の世界に飛び込む気概や回り道を楽しむ心の余裕も持ってみてはどうだろうか。

成人の日 雪間の「春」を見つけよう(2025年1月13日『産経新聞』-「主張」)
 
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石川県珠洲市で開かれる、令和5年度の「二十歳のつどい」の会場に向かう参加者
 成人の日を迎えた皆さん、おめでとう。
 寒波到来の影響はいかばかりか。大学入試を控えて勉強中の人も多かろう。
 総務省によると新たに成人となった18歳人口は1日現在で109万人である。昨年よりは3万人増えたものの、第2次ベビーブーム世代のピークだった平成6年の207万人に比べ半分近い。
 今後の日本を背負う新成人にとっては厳しい現実だが、嘆いていても始まらない。社会を変える時間は若者にこそある。よりよい未来へ、勇気を持って歩んでほしい。
 成人年齢が引き下げられて約3年、選挙権はあるが飲酒や喫煙は20歳からと「大人の年」については多くの意見があるところだ。博報堂シンクタンク「100年生活者研究所」が発表したこんな調査がある。
 18歳から80代の男女に尋ねたところ「18歳は大人だ」と感じている人は全体の半数以上に上った。18歳から20歳の「新成人層」では7割以上が「大人だと思う」と答え、18歳が大人という意識は定着しつつある。
 そこで「人生100年時代」といわれる昨今、「100歳まで生きたいと思うか」と尋ねた。すると「そう思う」と答えた人が、全体では31%だったのに対し、新成人層では51%に上った。同研究所では「新成人層は人生100年時代を好意的に受け止めていることが示唆される」と分析している。
 こうした背景には、日本が長く世界トップクラスの長寿国であることが影響しているのだろう。若者にとって祖父母世代は若く元気だ。曽祖父母が健在という人も増えている。長寿を当たり前のこととして受け入れる環境があるのではないか。
 一方で少子高齢化は進み、円安にインフレと、日本の若者を取り巻く環境は必ずしも前途洋々とはいえない。それでもより可能性を秘めているのも若者たちだ。まず大人への着実な一歩を踏み出すことである。
 「花をのみ待つらん人に山里の雪間の草の春を見せばや」(藤原家隆)という鎌倉時代の和歌がある。花が咲くことばかりを待ち望む人に、雪間にのぞく若草の芽を見せたいという意味だ。厳しい冬でも必ず足元に明るい兆しが見えてくる。
 新成人こそ、自身の雪間の春を見つけてもらいたい。

成人の日に考える 未来を「築く」人たちへ(2025年1月13日『東京新聞』-「社説」
 
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 観測史上最高の暑さになった昨年の夏、北海道から九州まで、中学生から29歳の若者たち16人が、大手電力事業者10社に対し、地球温暖化の要因となる二酸化炭素(CO2)の排出削減を求めて、名古屋地裁に提訴しました。「明日を生きるための若者気候訴訟」=写真(上)=と銘打って。
 「産業革命後の世界の平均気温の上昇を1・5度までに抑える」-。国連が国際社会に求める世界共通の目標です。さもなくば異常気象が激化して、何が起きるかわかりません。
 訴状などによると、被告10社が日本のエネルギー関連のCO2排出量に占める割合は約3割に達するのに、排出量が多く国際社会では廃止の流れにある石炭火力をこの先も長く使い続けようとしているなど、対策が不十分-というのが「明日を生きる若者」たちの主張です。このままでは深刻さが加速する気候危機を回避できない。国連が示す1・5度目標実現への道筋に沿い、すみやかにCO2を減らして、と訴えているのです。
 原告の一人、九州大学土木工学科3年の高田陽平さん(21)=福岡市=が気候問題に関心を持ったのは高校2年の時、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんのスピーチを動画投稿サイトのユーチューブで見たのがきっかけでした。
 2018年の暮れにポーランドで開かれた国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)。当時15歳だったグレタさんは、居並ぶ世界のリーダーたちに、次のように訴えました。
 「例えば2078年に、私は75歳の誕生日を迎えます。その時私の子どもや孫たちが一緒に過ごしていれば、彼らは今のあなた方について、私に尋ねるかもしれません。まだ行動できる時間があるうちに、なぜ何もしてくれなかったのだろうかと」
◆今できることをする
 同年代のグレタさんが抱く危機感と未来へのまなざしに共感し、高田さんは複数の環境NGOに関わって気候危機の実相を学び、訴える活動を始めます。昨年11月には、アゼルバイジャンで開かれたCOP29にも参加しました。
 「正直、訴訟の当事者になることに抵抗感がなかったわけではありません。でも『自分なんかがいくら動いても、世界は何も変わらないよ』とあきらめてしまえば、結局被害を受けるのは自分自身ですからね。今できることを希望を持ってやっていこうと思っています」と、高田さんは話します。
 自らの将来に不安を感じ、政府や電力事業者に、要求を突きつけるだけではありません。原告の多くは「その次の世代」が生きる未来への責任感を口にします。
 高田さんは言いました。
 「今の小学生は、夏休みの天気のよい日に、外でのびのびと遊べない。まるで戦時のように警報に追い立てられたりしています。なぜこの子たちは…と、大人になったばかりの自分も責任を感じてしまうんです」
 大人とは、成人とは、未来を「壊す人」ではなく、自分自身とその次の世代がより良く暮らす環境を「築く人」、今できることをする人だと思うから。
 「おかしいと声をあげた人の声は決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日がきっと来る」。24年度前期のNHK朝ドラ「虎に翼」のヒロイン、佐田寅(とも)子のセリフを思い出しました。
◆学びつつ、気づきつつ
 さて、新成人のみなさん、おめでとうございます。ことしも書家でタレントの矢野きよ実さんに、贈る言葉=写真(下)=をしたためていただきました。
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 <後悔は持ち去る わたしが あなたよ輝け>
 「私たち世代が残した後悔は、私たちが持ち去ります。あなたたちは、自分と子孫の輝かしい未来のために、今、なすべきことをなしてほしい」と。
 大人としての成長の階段を今のぼっていくみなさんへ、「その前」を生きてきた世代から、自戒も込めたエールです。

若い世代とともに 人口減社会を生き抜こう(2025年1月13日『福井新聞』-「論説」)
 
 13日は「成人の日」。祝日法によると、「大人になったことを自覚し、自ら生き抜こうとする青年を祝い励ます」ことを趣旨としている。若い世代が人口減少と少子高齢化の社会を生き抜き、新たな活力を生み出すことを後押しするための地域の在り方をともに考えていきたい。
 2022年施行の改正民法成人年齢が20歳から18歳に変わって以降も、県内全市町が20歳を節目とした記念行事を継続している。敦賀市など11市町が1月に、福井、あわら市など6市町が3月に開催。県教委によると、本年度の対象者は前年度比92人増の7645人(24年12月1日現在)で、統計が残る1982年以降で2番目に少ない。
 対象者の多くは2004年に生まれた。その後、日本は人口減少の局面に入り、08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災東京電力福島第1原発事故、20年以降の新型コロナウイルス禍と社会や経済は難局が続いた。そんな時代に育った若者たちは、右肩上がりの成長を前提とはしない。従来とは異なる、それぞれにとっての豊かさや幸せを思考している。
 20歳を迎えた人たちが社会の中心を担う2050年、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると、福井県の人口は57万2885人となり、20年時点(76万6863人)に比べ25・3%減る。
 0~4歳は20年の約2万8千人から約1万7千人に減少。生産年齢人口の15~64歳は20年の約43万6千人から約28万5千人と3割以上減り、全体に占める割合は56・9%から49・8%となる。一方で、65歳以上が40・3%を占め、全国平均の37・1%を上回る水準で高齢化が進む。民間組織「人口戦略会議」は24年4月に公表した報告書で、県内8市町が将来的に「消滅の可能性がある」とした。
 鳥取県知事、総務相を務めた片山善博さんは福井新聞のインタビューに対し、人口減少社会の地域づくりのポイントに「行政や住民が地域本位で物事を考えられるかどうか」を挙げた。行政と議会、住民とが地域を守ろうという意思統一ができるかが問われる。
 人口が約4分の3になり、年齢構成も様変わりする。これまでの在り方を維持しようとすれば、きしみが生じる。若い世代の挑戦を支えながら、女性や高齢者、障害のある人ら多様な担い手が支える地域につくり替えることが必要だ。自分たちが暮らす地域が25年後も、その先も持続可能であるために、行動を始めたい。

「成人」のあなたに SNS情報、ひと呼吸置いて(2025年1月13日『京都新聞』-「社説」
 
 ♪信じれる何かが欲しい 解(ほど)けない絆が欲しい そうすればきっと僕らは 呆(あき)れないで居られる―
 3人組の人気ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」(ミセス・グリーン・アップル)が昨年11月の音楽イベントで、18歳の若者たち千人と一緒に歌うため作ったオリジナル曲です。聴いた人も多いでしょう。
 きょうは「成人の日」。18歳以上を「成人」とする改正民法の施行から3年となり、全国で109万人を数えます。少子化で、過去2番目の少なさだそうです。式典を開く市町村の大半は20歳が対象で、京都府は約2万6600人、滋賀県は約1万4800人といいます。
 皆さんの節目、社会を担う大人としての門出を歓迎します。
 多感な時期を新型コロナウイルス禍に直面し、社会や人とのつながりが阻まれる中で育ってきましたね。上の世代より、コミュニケーションツールで交流サイト(SNS)を多彩に使いこなすでしょう。
 昨年の衆院選や東京都、兵庫県の両知事選では、政党や候補者がライブ配信するなど、SNSの活用に若い世代も加わり、投票行動につながったとの指摘があります。自らの1票で従来の政治を変えられると、実感した人もいたのでは。
 本来、政治は身近なものなのです。
 世界最速の高齢化で社会保障費が膨らみ、現役世代の負担が増しています。国や自治体は少子化対策に力を入れます。
 でも一番大事なのは、皆さんが結婚、出産したいと思える社会かどうかではないですか。
 2016年に選挙権年齢が18歳に下げられましたが、10代、20代の投票率は3割台と低いです。今夏は参院選が行われ、京滋でも首長選を控える市町があります。ぜひ1票を投じ、思いを社会に伝えましょう。
 ただ、SNSで真偽不明な情報や誹謗(ひぼう)中傷が激しく飛び交っているのは、知っての通りです。自分でネット情報を探したつもりでも、根拠は信頼できるものなのか、ひと呼吸置いて考えてみましょう。
 身近な人と直接言葉を交わしたり、この新聞を役立ててもらったりしてはどうでしょうか。
 深刻化する「闇バイト」の問題も同じ。SNSやネットの掲示板で「ホワイト案件」「高額報酬」とうたい、応募すると個人情報を知られ、犯罪の実行役として加担してしまいます。
 気になるのは、SNSでたくさんの人とつながっていても、孤独を感じる若者が多いことです。10代、20代で自ら命を絶つ人も少なくありません。
 一人で悩まず、声を上げてください。大人の一員として、誰もが将来に不安を抱えないような社会づくりを考えていきませんか。

成人の日 SNSの情報 十分吟味を(2025年1月13日『山陽新聞』-「社説」)
 
 きょうは「成人の日」だ。今月1日時点で新成人(18歳)は全国で109万人。新たなステージに踏み出した皆さんに祝意を表したい。
 成人年齢は3年前に20歳から18歳に引き下げられた一方、記念式典は従来通り20歳を祝う市町村が大半のようだ。きのう各地で開かれたイベントでは、若者たちがスマートフォンで写真を撮り合う姿があった。
 現代の若者は、子どもの頃から身近にスマホやインターネット環境がある「デジタルネーティブ」だ。通話だけでなく、動画の視聴や投稿、ゲーム、ネット通販など暮らしのさまざまな場面でスマホを使いこなす。
 近年、存在感を増しているのが、スマホのSNS(交流サイト)である。今年は国政や地方の選挙でSNSの影響力がクローズアップされた。
 昨年11月の兵庫県知事選では、県議会で全会一致の不信任決議を受けて失職した前職が、SNSを駆使した戦略で熱狂的な支持を急拡大して若者らの票を取り込み、再選を果たした。7月の東京都知事選でも、前安芸高田市長が関連動画などで支持を広げたほか、10月の衆院選で動画を重視した国民民主党が躍進したのも記憶に新しい。
 憂慮されるのは、兵庫県知事選で真偽不明の情報や誹謗(ひぼう)中傷が飛び交い、異様な選挙戦となったことだ。
 選挙とSNSを巡っては、共同通信社が12月に実施した全国電世論調査によると、選挙期間中にSNSを通じて真偽不明の情報や誹謗中傷が拡散する懸念について「大いに感じる」「ある程度感じる」とした回答は計85・5%に上った。年齢を問わず、危惧している実態が浮き彫りになっている。
 SNSに関しては、自分の好みに合った情報ばかりに囲まれてしまう「フィルターバブル」と呼ばれる現象が起きやすいことが指摘される。
 利用者が好む情報を閲覧履歴などから予測し優先的に表示する機能によって、利用者はまるでバブル(泡)の中にいるように同じ考え方や価値観の情報に包まれる現象だ。こうして自分と同じ考えの人たちと閉鎖的に交流を繰り返すうちに、特定の信念が増幅されたり考えが偏ったりする状況に陥る可能性もある。
 SNSで見る投稿は、あくまで一部の人の考え方だと意識することも必要だろう。そうした投稿ばかりにとらわれるのではなく、多様な意見や情報にバランス良く接し、中立的に考えてみることを心がけたい。
 上智大の佐藤卓己教授は著書「あいまいさに耐える」の中で、SNSにあふれる曖昧な情報を「必要以上に読み込まず(やり過ごし)、不用意に書き込まない(反応しない)だけの忍耐力」を養うことを呼びかける。新たに選挙権を得る若者に限らず、SNSの時代を生きるわれわれが備えるべき能力なのだろう。

成人の日に(2025年1月13日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 きょうは成人の日。この連休は多くの自治体で式典が催される。社会の一員としてうんぬん…と、お祝いの言葉を贈られた人も多いだろう
▼選挙権年齢の18歳や節目の20歳を迎えたからといって、では、どう振る舞えばいいかと問われると、これが案外難しい。米国文化やミュージアムが専門の研究者・小森真樹さんが新著で勧めるのは「楽しい政治」だ
▼小森さんの定義によると、政治は「いろいろな意見や立場の人々が共存するためのツール」。日常のあらゆる場面にあり、うまく使えば「社会」と「私」の関わりをもっと近しく、居心地のよいものにしていけるという
▼自らは政治との接触を感じる一例に「人気映画の続編で主人公のキャラクター設定が変わったとき」を挙げた。古い家族観などが現代仕様に改まる過程には、違和感を伝える声との対話が欠かせないからだ
▼まずは社会の成り立ちを知る。今ある課題を知る。そして自分以外の異なる考えを知ったり、考えを知ってもらったりする。「大人になる」とは、この世を知るためにしっかり目を凝らすことと言えるのかもしれない
▼付け加えると、この本の表紙は美術家・下道基行さんの代表作で、21世紀の風景にも溶け込む戦争遺構を捉えた写真だ。2人はともに岡山県出身の40代。実にさっそうとした、大人の先輩たちである。

成人式(2025年1月13日『中国新聞』-「天風録」
 
 「多くの人を支えられるように」「地元のために仕事を」。ハレの日に決意を語る若者が被災地には頼もしく、まぶしいだろう。能登半島地震の影響で延期されていた石川県の3市町の成人式がおととい、1年遅れであった
▲昨年、式典を目前に打ちのめされた若者。進学や就職で県外に出ていた人も多い。地元に残った同級生が少なく、「地域を支えられるか」と不安を抱く人も。それぞれに傷ついた故郷を考え、過ごした1年だったろう
▲「忙し過ぎて実感がない」と、振り返るのは振り袖姿の輪島市職員。自宅が損壊し、家族で身を寄せた避難所で、そこの運営を任された。食事の準備、トイレ掃除、急病人の対応…。マニュアルにない事態が続出したものの、自らの判断で動き続けた
▲地元を思う気持ちと逆境が、若者を強くしたのかもしれない。この被災3市町ではきのう、2024年度に20歳となる人の成人式も開かれた。1年先輩ともちろん同じ思いだろう。能登復興の力となってくれるはずだ
▲成人の日のきょう、広島市などは式典を開く。高齢化が進み、地域は若者への期待を高める。とはいえ期待するからには、既に大人の私たちもしっかりしなくては。

胸の中の一本の木(2025年1月13日『高知新聞』-「小社会」)
 
 「大人」という言葉が似合う人は大勢いるが、筆頭格は作家の伊集院静さんではないか。渋い立ち振る舞いはもちろん、やはり国民的エッセー「大人の流儀」の存在が大きい。
 20歳の時に弟を、35歳の時に妻を亡くした。酒とギャンブルへの傾倒、東日本大震災での被災…。人生の悲喜と機微を知り尽くした美文家が、厳しくも愛を込めて語る大人論の奥深さは、シリーズ累計230万部超の発刊部数が物語る。筆者の手元にも数冊ある。
 その伊集院さん、サントリーが毎年「成人の日」に出す新聞広告で新成人にメッセージを贈ってきたことでも知られ、これも珠玉の作品群と称される。「連(つる)むな。逃げるな。孤独に慣れろ」「孤独を知ることは、他人を知ること」…。一貫するのは、主体的に生きてもらうことだ。夢を「若木」に見立てながら「君の胸の中に一本の木はあるか」とも問うた。
 今年の成人の日はきょう。昨日の高知市の式典をのぞき、若者たちの熱気に圧倒された。世相は不透明感を増す。それに負けない「一本の木」を、これから彼、彼女たちが育てられますように。
 伊集院さんは一昨年11月に逝去。もう新しい作品にであえないのが残念でならない。
 かつて、新成人向けの広告は「大人になったつもりでも、いまだに迷っている大人たち」への言葉だともしていた。読み返し、自分の「木」を確かめる。成人の日は、迷う大人が試される日だったりもする。

新成人の若者に 政治を諦めず行動しよう(2025年1月13日『西日本新聞』-「社説」)
 
 成人の日のきょう、各地で新成人を祝福する行事が開かれる。
 多くは20歳を対象としているが、成人年齢は3年前に18歳に引き下げられた。春秋に富む18歳、20歳の門出を祝いたい。
 2006年生まれの新成人は109万人で、過去2番目に少ない。この春から本格的に社会へ踏み出す人がたくさんいるだろう。
 18歳になると、クレジットカードの作成、1人暮らしをする部屋の賃貸契約などは、保護者の同意が不要になる。さまざまな行為や権利に大人としての責任が伴う。
 選挙権もその一つだ。ちょうど今年は普通選挙法施行から100年の節目に当たる。
 選挙権年齢になれば投票できるのは、今でこそ当たり前だが、多くの人々の労苦と長い時間が費やされた。
 日本初の国政選挙となった1890年の衆院選で投票できたのは、25歳以上の男性で高額納税者に限られた。総人口のわずか1%程度だった。
 納税要件が撤廃され、25歳以上の全ての男性が投票できるようになったのが1925年である。有権者は人口の約20%に増えた。
 女性が選挙権を得たのは戦後になってからだ。45年に20歳以上の男女の完全普通選挙制度が確立された。戦前の女性参政権運動が礎になっていることを覚えておきたい。
 選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのは2016年で、記憶に新しい。高校生も投票できるようになり、主権者教育や模擬投票に取り組む学校が増えた。有権者は総人口の80%を超える。
 先人が拡大してきた投票の権利は、残念ながら十分に生かされていない。
 昨年10月の衆院選小選挙区)の投票率は戦後3番目に低い53・85%で、18、19歳は速報値で43・06%だった。福岡県では70代の68・67%が最も高く、18、19歳は39・87%にとどまる。
 政治に対する若者の関心が低く、無力さを感じていることは日本財団が昨年実施した国際調査からもうかがえる。
 米国、中国など6カ国の17~19歳が「政治や選挙、社会問題について関心がある」「自分の行動で国や社会を変えられると思う」と答えた割合は、日本が最も低かった。
 一方で高齢者と若者の支援の差を感じる割合は、日本が他国より格段に高かった。
 不満があればもっと声を上げてほしい。疑問を持ったら調べ、考え、行動しよう。諦めては何も変わらない。
 今年は夏に参院選がある。北九州市議選、福岡県知事選など身近な選挙も多い。一票一票の積み重ねで社会は動かせる。政治に参加する機会を自ら放棄しないでほしい。
 人口は少なくとも、若い世代が社会を担う時代はすぐに訪れる。若いからこそ見える課題、解決策もあるだろう。国会は被選挙権年齢の引き下げを検討すべきだ。

20歳おめでとう(2025年1月13日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 戦没画学生の遺作を展示する「無言館」(長野県上田市)は毎年春に成人式を開いている。志半ばで亡くなった学生の思いに触れ、決意を新たにしてもらう狙い。著名人を招くのが特徴で、そのゲストから若者たちへのメッセージが心に響く
◆例えば、作家の澤地久枝さんは「私たちが生きている現在はいくさの日、やけるほど熱く生きたいと望み、その願いのかなわなかった死者たちの夢の明日・未来である」とし、誰かの分まで生き抜く覚悟を説いた
◆きょうは成人の日。本年度の20歳はコロナ禍に突入した2020年3月に中学校を卒業した。その卒業式は在校生不在など規模縮小を余儀なくされた。高校時代もさまざまな制約を受けた。「コロナがなかったら」という思いがひときわ強い世代だろう
◆人生を振り返った時、失敗より挑戦しなかったことに悔いを残す人が多いといわれる。コロナで挑戦の機会を奪われた無念は想像に難くない。でもその分、互いを思いやる気持ちも強いはず。支え合い、励まし合い、工夫し合って楽しみを見いだした世代でもあるはずだ。だからこそ無言館の作品が語りかける思いも分かるのではなかろうか
◆これから先、誰かの無念を背負って進むことがあるかもしれない。命があるって当たり前ではない。自分を信じて強く生きて。20歳おめでとう。(義)

もしも、もしかして(2025年1月13日『長崎新聞』-「水や空」)
 
「もしかして」を漢字で書いたら「若しかして」。可能性を表す一語に「若」の字が当てられていることに、言葉の妙味をいつも感じる
▲きょうは成人の日で、きのう二十歳のつどい、成人式があった自治体も多い。長崎市の会場近くをたまたま通ると、式典を終えたばかりの笑顔が誰も彼もまぶしかった
▲「もしも」「もしかしたら」と未来像を思い描いた人もいるだろう。博報堂の「100年生活者研究所」が昨年12月、全国の18歳以上の800人に「あなたは100歳まで生きたいですか?」と尋ねたところ、「とてもそう思う」「そう思う」という答えは全体では31%だったという
▲これが、18~20歳の新成人層に限ると51%に上る。20歳以下の半数は、人生100年の未来を肯定的に受け止めているらしい
▲その世代は人生100年の大人像として「いろんなことに挑戦する人」「長い人生で楽しみを見つけ続けられる人」を思い描く傾向が強い。探求心、楽しみを見つける心をどうぞお忘れなく
▲若い成人への祝辞に代えて、かつて手帳メーカーが募った“いい言葉”の優秀作を。〈「幸せ」って字、逆さにしても幸せなんだね〉。「幸」という字は逆立ちしても「幸」のまんまで、転んで逆さになっても幸せは幸せ。幸せは逃げたりしないよ。そう告げている。(徹)

きょう成人の日 自ら道を切り開く挑戦を(2025年1月13日『琉球新報』-「社説」)
 
 きょう13日は「成人の日」だ。大人への仲間入りを果たした新成人の皆さん、おめでとう。進学や就職などさまざまな道に進んでいくことだろう。これまで支えてくれた家族や学校、地域への感謝を忘れず、「社会の一員」としての自覚と責任をもち、それぞれの目標に向かって、ひるむことなく挑戦してほしい。
 これから多くの試練が待ち受けているだろう。ことしの新成人は、新型コロナウイルスの感染拡大で、学校生活をはじめさまざまな制限を受けた経験を持つ。学校行事の中止などで悔しい思いもしただろう。だが困難な時期を乗り越え、成人を迎えたことに自信をもってほしい。その経験はきっと人生の糧になるはずだ。
 社会は大きな転換期を迎えている。それは人口減と急速な少子高齢化だ。
 総務省が公表した2025年1月1日時点の人口推計によると、06年生まれの新成人は109万人。24年より3万人増えたものの、過去2番目に少ないという。新成人の人口は第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)が成人した90年代前半は200万人超だったが、その後は減少傾向が続いている。
 日本の総人口は2024年1月1日時点で1億2488万5175人、日本人は前年に比べ約86万1千人減で、最大の減少幅となった。出生率は低下傾向にある一方、40年には65歳以上が全人口の35%を占め、高齢者1人を支える現役世代(15歳~64歳)は1・6人となる。
 出生率の高い沖縄でも、少子高齢化は避けられない。沖縄県の人口は20年前後にピークを迎え、その後は減少に進むと推計されている。
 人口減、少子高齢化が加速し現役世代の比率が低下すれば、社会の活力が失われる。社会保障制度の持続も危うくなり、過疎の市町村は「消滅する可能性」も指摘されている。
 これまで誰も経験したことのない大きな社会の転換期だ。ややもすれば将来への希望を見失ってしまうこともあるだろう。しかし、社会をよりよい方向にしていくには、若者の情熱と行動が必要だ。目覚ましく進歩する情報技術を活用するなどして、変革へ挑戦してほしい。その挑戦を支える環境づくりが社会全体に求められている。
 また、政治への関心も高めてほしい。沖縄を含め各選挙で低投票率が続いている。将来を担う若者たち自らが将来を築き上げていくためにも、投票行動で自らの意思を示していくことが大切だ。
 皆さんが成人を迎えた25年は「戦後80年」という節目の年であることを、心に留めてほしい。戦争を生き抜き、いくつもの困難を乗り越えてきた県民の歩みの延長に、皆さんの歩みが続くのだ。過去の歴史を学びながら自らを信じ、一歩ずつ歩めば、必ず希望にあふれる道を切り開くことができるはずだ。

あす成人の日 未来への希望、育める社会に(2025年1月12日『河北新報』-「社説」
 
 あすは「成人の日」。東北でも多くの自治体が2004年度生まれの若者を招き、20歳の節目を祝う催しをこの連休中に開く。
 子ども時代に災禍を経験した世代だ。小学校入学直前の11年3月、東日本大震災東京電力福島第1原発事故が起きた。被災地は深く傷つき、社会全体が不安に包まれる中、学校生活がスタートした。
 中学校卒業を控えた20年3月には、新型コロナウイルス感染症の大流行が始まった。高校生活は休校や行事の自粛が相次ぎ、学びの機会だけでなく、友人と気軽に過ごす時間も奪われた。不自由な青春を強いられたことだろう。
 「日本の将来は暗い」。そう考える子どもや若者は61・1%に上るという。「明るい」は23・1%。13~29歳を対象にした、こども家庭庁の23年度調査の結果だ。
 米独仏とスウェーデンの4カ国で自国の将来展望を尋ねると、約5、6割が「明るい」と答え、「暗い」は約3、4割。「暗い」の割合が「明るい」を上回ったのは、日本だけだった。
 憂慮すべき事態だ。物価高騰などの影響で国民生活は苦しい。人口減少と高齢化が進み、経済成長や社会保障制度の持続性への不安は膨らむ。価値観が揺らぎ、先行きが不透明な時代だからこそ、新たな一歩を踏み出す若者たちが未来に希望を持てる社会にしなくてはなるまい。
 日本は1994年、子どもの権利を包括的に定めた国連の「子どもの権利条約」を批准した。だが、条約の趣旨を反映した「こども基本法」が成立したのは約30年後の2022年だった。
 この間、虐待やいじめ、不登校、貧困などが深刻化したのは、子どもの権利保障の視点が欠けた政府の姿勢が大きく影響したのではないか。
 経済協力開発機構OECD)の加盟諸国に比べ、日本は対国内総生産(GDP)比で、教育への公財政支出の割合が低い。教育費の家計負担は重く、教育の質向上に直結する公立学校教員の処遇改善も緒に就いたばかりだ。
 23年度の私立大授業料は平均約96万円と、30年間で約1・4倍になった。国立大でも授業料増額の動きが出ている。奨学金の多くは貸与型で、保護者の経済状況に関係なく、学びたい人が存分に学べる環境の実現には程遠い。
 政府は23年、「異次元の少子化対策」を掲げ、児童手当や育休給付の拡充など子育て世帯への支援強化を打ち出した。対策は必要としても、国力維持を念頭にした施策は「子どもの数を増やすこと」に目を向けがちだ。
 子どもの健やかな成長を支え、若者の挑戦を後押しする社会を目指すなら、子育て環境や教育の質向上に重点を置く必要がある。裏付けとなる財源の確保は難題だが、人材育成への大胆な投資をためらうべきではない。
新成人の皆さんへ/自ら学ぶ力を身に付けよう(2025年1月12日『福島民友新聞』-「社説」)
 あすは成人の日だ。新成人の皆さんは、もう少しで長い勉強の日々から解放されると考えているかもしれない。それは大きな間違いだ。幸か不幸か、皆さんにとって学ぶことが大切となるのは、これからである。
 学力とは何だろうか。学校で教えられたことを覚えることと考えがちだが、実はそれは学力のほんの一部に過ぎない。例えば、心理学者の今井むつみさんは「自分で問題を発見し、考え、解決策を自分で見つける」能力こそが学力であると定義している(「学びとは何か」岩波新書)。
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「学び」とは,あくなき探究のプロセスだ.たんなる知識の習得でなく,新しい知識を生み出す「発見と創造」こそ本質なのだ.本書は認知科学の視点から,生きた知識の学びについて考える.古い知識観──知識のドネルケバブ・モデル──を脱却し,自ら学ぶ力を呼び起こす,画期的な一冊
 日本の学校教育が、今井さんの言う課題を発見し、解決する力を重視しているには違いない。ただ、実際には入試などで良い点を取るため知識を覚えることの方に、より多く時間と労力を割いているのは否めない。
 社会で生きていく上で、難しい数学の問題や、歴史の年号が役立つという人は、ほんの一部である。学力とは記憶力と同じ意味であると考える人は、多くの人が口にする「学校での勉強が社会に出てから、何の役に立つのか」との言葉は正しいと感じるに違いない。それでも皆さんが学校で勉強するのは、学ぶ方法を身に付けるためだろう。
 社会に出てからの学びに科目はない。自分の仕事や家庭での暮らしをより良いものとするためには、何が必要で、それを得るには何をしなければならないのかを論理的に考えることが重要となる。
 学校の勉強が嫌いだ、嫌いだったという人は多いだろう。しかし、自ら課題を見つけて、その解決に必要な考え方や知識を集めていくのは、意外と楽しいものだ。
 学校にいるのに、知識だけを習得するのではもったいない。社会に出てから自ら学ぶのを助けてくれるノウハウを獲得することにも力を注いでもらいたい。
 皆さんがこれから生きていくのは、人工知能(AI)が発達した社会だ。これまで人が行ってきた仕事の多くをAIが担うとみられている。そのAIに欠けているのは、現段階で何をするべきかを自ら見つける力だ。それができるのは、やはり人以外にない。
 国際社会は混迷し、これまで通りに発展し続けていけるのかを不安視する声は多い。AI以外にも私たちの社会を変える要素は山ほどある。変化に対応するだけではなく、社会をどのようなものとしていきたいのかをしっかりと描ける力がより重要になる。自ら学び続けることで、より良い未来をつくっていこう。

人生仮免許(2025年1月12日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 作家山口瞳さんのエッセーは、「成人の日」のサントリーの新聞広告に十数年にわたって掲載された。〈諸君! この人生、大変なんだ〉。こんな言葉で締められることもあり、20歳の門出を迎えた若者を叱咤[しった]激励した
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「人生の達人」による、大人になるための体験的人生読本。品性を大切にしっかり背筋を伸ばして生きていきたいあなたに。生き方の様々なヒントに満ちたエッセイ集。
▼「大人の世界」とタイトルを付けた年がある。子どもは成長するにつれ、家庭内で寡黙になり、親を無視するようになる。〈それじゃあ駄目だ〉と一喝。これからは、同じ世界の一員としてきちんと向き合い、自分の本心や意見を伝えられる間柄になるよう説いた
▼〈酒を飲むことについて勉強する資格を得ただけなのだ。仮免許なのだ〉と、別の年にはくぎを刺した。酒で憂さを晴らすな、酒席での約束を守れ…と教えを連ねた。グラスを重ねる際の忠告にとどまらず、一人前を気取るのはまだ早いと、自らを戒めるよう伝えたかったのだろう
成人年齢は18歳に引き下げられても、やはり20歳は大きな節目。あす13日の「成人の日」を前に、新たな出発を祝う式典がきょう、県内41市町村で催される。出席する諸君。人生の達人の助言を胸に、まずは朝のうちに、親に感謝のあいさつを。式後の宴は、まだ「路上教習中」だとの自覚をくれぐれもお忘れなく。
今日から新成人になった諸君、おめでとう。
これで一人前だ。
酒も飲める。
大いにやろうじゃないか。

   (中略)
ただし、ひとつだけお願いがある。
酒場では静かに飲んでくれ。
一気飲みなんかで騒いだり暴れたりしないでもらいたい。
一日の疲れを癒すために
一杯のハイボールを飲みにきている
大人のサラリーマンもいるんだから・・・。
それがわかったら、まあいいや。
乾盃しよう。
今日は一日大いに飲んでくれ給え。
1995年成人式(山口瞳
 

大人になるということ(2025年1月12日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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歌手の岩崎宏美さん(萩原悠久人撮影)
 レコーディングに臨んだのは高校を卒業して間もない頃だった。歌手の岩崎宏美さんは、『思秋期』(昭和52年)の歌い出しで何度も嗚咽(おえつ)した。♪足音もなく行き過ぎた/季節をひとり見送って/はらはら涙あふれる/私十八…
▼出会いと別れを通し、少女から大人の女性へと階段を上る。揺れ動く思いがつづられた歌詞に涙を誘われ、録音初日は歌にならなかった。デビューから2年余り。すでに人気歌手の仲間入りをしていたものの、多感な年頃だ。心を乱さずに歌い通すのは、時間がかかったという。
▼18歳。成人年齢が20歳から引き下げられたいまも、子供と大人の間を心が行き来する微妙な時期には違いない。恋愛に、周囲との折り合いに思い悩む時期かもしれない。社会にどう関わり、自分の夢をどうかなえるか。自問が続く季節でもあろう。
▼感情を揺さぶられ、涙を流す経験も避けては通れない。能登の被災地では寒さに耐えて復興へと歩み続ける人がいる。ウクライナでは国土と同胞を守るために戦い続ける人がいる。何をすべきか。何ができるか。最後に答えを出すのは自分である。
▼『思秋期』を作詞した阿久悠さんは、歌に込めた願いをこう語った。「岩崎宏美をどうやって『成人』させようか、ずっと考えていた。その答えがこれだ」。曲は大ヒットし、岩崎さんは実力派としての評価を高めた。「歌手・岩崎宏美」を〝大人〟にした歌でもあるのだろう。
▼誰かを思う。誰かの思いに応える。人はそうやって人生の山坂を上る。成人式に臨む人たちを歓迎しつつ、あまり駆け足にならぬよう願ってもいる。「青春」とは、過ぎてから気がつくものだと『思秋期』の歌詞にある。かけがえのない季節を、どうか大切に。

【あす成人の日】声上げて社会変える力に(2025年1月12日『高知新聞』-「社説」)
 
 猛暑や豪雨といった気象災害が頻発し、暮らしや健康を脅かしている。そんな中、全国各地の若者が昨年夏、足元の危機に声を上げた。
 10~20代の16人が国内の主要な火力発電事業者10社を相手取り、二酸化炭素(CO2)の排出削減を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。
 国際社会は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1・5度以下に抑えるとする目標を掲げる。訴えによると、10社はこの目標に沿った排出削減義務を負うと指摘。2019年度比で30年度に52%、35年度に35%を超えて排出してはならないと主張している。
 原告の1人、北海道の高校3年生はこう訴えた。「雪不足で地元のスキー場が開かれず、スキーやスノーボードもできなくなった。日本の司法が将来世代の声に耳を傾けることを期待し、今できることをすべてやりたい」
 あす13日は「成人の日」。新年を18歳で迎えた全国の約109万人が大人の仲間入りをすることになる。
 気候変動の影響がより重くのしかかるのは若い世代である。共に考え、声を上げ、社会を変える力としていきたい。
 近年、日本列島の夏の暑さは「災害級」といわれるほど厳しい。昨年の平均気温は2年連続で過去最高となった。
 高知県内でも7~9月の猛暑日はここ10年で最多を記録。熱中症による救急搬送が相次いだほか、農作物に被害が広がった。影響はさまざまな分野に及ぶ。
 暑さだけではない。人命に関わる豪雨も各地で起きた。昨年1月に大地震に襲われた石川県能登地方では9月、記録的豪雨が発生し、犠牲者が出た。
 世界でも記録的な大雨や洪水、熱波などの災害が多発。異常気象は日常のものになっている。
 背景には地球温暖化の影響も指摘される。温室効果ガスの削減は待ったなしだ。しかし、世界の排出量は増加を続ける。国際目標の達成は極めて困難になっている。
 日本は50年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げる。ただ、達成できるかは不透明な状況にある。火力発電を当面は使い続ける方針で、再生可能エネルギーへの転換も道半ばだ。
 政府や産業界の責任は重い。若い世代にとってより切実な課題を先送りし、将来にツケを回すようなことがあってはならない。大人は若い世代の危機感を共有し、対策を考える必要がある。
 声を上げる方法は他にもある。政治への参加だ。しかし、若い世代の投票率は低迷する。総務省によると、18歳選挙権が導入された16年以降の国政選挙で、有権者全体の投票率が50%前後だったのに対し、10代は30~40%台にとどまる。
 政治は遠い存在かもしれない。だが気候変動と同様に、教育や子育てなど自分たちの暮らしと直結する。
 夏には参院選が控える。思いをしっかりと届けたい。