水俣病「全面解決」には深い溝…被害者ら「実態を無視している」、国やチッソ「被害者救済法が最終解決」(2025年1月19日『読売新聞』)

 5月1日に公式確認69年となる水俣病問題。衆議院で与党が過半数割れし、野党は新たな救済法案を提出する構えだが、国や熊本県、原因企業チッソは2009年の被害者救済法が「最終解決」との立場だ。救済を求める集団訴訟は今も続いており、様々な課題が未解決の中、関係者には「第3の政治決着」を期待する声もある。しかし、全面解決の道筋はまだ見えない。
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悲痛な思い訴え
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水俣病問題について様々な意見を交わした集会
 「被害に即した全面解決を」。熊本県水俣市で11、12日に開かれた第19回水俣病事件研究交流集会。患者・被害者や支援者、研究者ら約120人が出席し、当事者が悲痛な思いを訴えた。
 集会は、胎児性患者の存在を明らかにした原田正純医師(故人)らの提唱で始まった。例年1月に行われ、「水俣病問題の現在地」を確認する意味を持つ。
 昨年5月には、伊藤信太郎環境相(当時)と患者・被害者団体との懇談で、団体側のマイクが切られる問題が起きた。水俣病が今も続く事案として注目された。集会では、参加者から「水俣を中心にした公害資料館のネットワーク化を」「重度訪問介護の費用は環境省が負担すべきだ」などと課題が指摘された。
医療費以外は適用外
 「訪問入浴は1回1万3000円、1か月で11万7000円支払ったこともある」。訪問介護事業所を運営する水俣市NPO法人、はまちどりの管理者、永野いつ香さんは胎児性患者で重篤な症状がある市内に住む男性の事例を挙げた。
 チッソが協定に基づいて負担するのは医療費で、訪問入浴は適用外となっている。男性は介護保険に移行しておらず自費で負担している。永野さんは高齢化が進む患者や被害者の補償、福祉の改善は喫緊の課題だと指摘した。
 2023年から24年にかけ、大阪、熊本、新潟地裁で国などを相手取った訴訟の判決があり、多数の原告が水俣病の症状に苦しむ実態が明らかになった。いずれも控訴審へ移り、和解の兆候はない。
 「新潟水俣病訴訟を支援する会」の萩野直路さんは過去の判例を分析。司法が水俣病と認めた原告は7割以上に上ると主張した上で、法律や過去の政治決着などで水俣病の症状があると認められた人は少なくとも7万2300人として、「環境省が実態を無視していることが最大の問題だ」と追及した。

水俣病「研究目録の作成、共有を」 研究交流集会で参加者が提言(2025年1月15日『西日本新聞』)
 
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集会で事例発表をする研究者
 水俣病研究の第一人者で医師の故原田正純氏らが始めた勉強会を引き継ぎ、全国の研究者や医師、市民らが議論する「水俣病事件研究交流集会」が11、12の両日、熊本県水俣市であった。熊本学園水俣学研究センターなどでつくる実行委員会が毎年開いている。19回目の今回は患者や被害者を含む約120人が参加。11組が水俣病問題の現状や課題を発表した。
 研究センターの花田昌宣シニア客員教授は、水俣病に関する行政機関や各大学の医学・社会科学的研究や、学生らによる患者らへの聞き取り記録が、一部しか活用されていない現状を報告。「公表されていない資料を含めて調査研究リストや目録を作成し、将来的に共有できるようにするべきだ」と水俣病の記録の伝承を呼びかけた。
 原田医師の長女の原田利恵・国立水俣病総合研究センター主任研究員は、胎児性水俣病患者と同世代の1955年に生まれた未認定患者の女性から生活史を聞き取ったことを紹介した。「幼少期から原因不明の不調や体の不自由に悩まされながら、自分がメチル水銀の影響を受けていると思わず、周りからも健常者として扱われ、不当な評価やいじめを受けてきた」と指摘。「認定患者の生きづらさとは別の意味で困難な半生だった。(胎児性患者と同世代の未認定患者への)新しい支援の在り方が求められている」と訴えた。
 熊本や大阪、東京で国などに損害賠償請求訴訟を起こしている「ノーモア・ミナマタ第2次国賠訴訟」弁護団の報告もあった。高峰真弁護士は、最高裁が昨年7月、旧優生保護法下の強制不妊手術の国家賠償訴訟判決で、不法行為から20年たつと賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用しなかった判例変更を解説。「行政と企業が被害を拡大させた悪質性や、被害の重大性を踏まえ、水俣病問題にも除斥期間を適用すべきではない」と強調した。

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