出生率最低 婚姻数の減少は重い課題だ(2024年6月8日『読売新聞』-「社説」)

 出生数の減少に歯止めがかからない。このままでは経済や社会の担い手は減り、社会保障制度も危うくなりかねない。国難を克服するには、社会全体での取り組みが不可欠だ。
 厚生労働省が2023年の人口動態統計を発表した。
 日本人の出生数は72万7277人で、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は1・20だった。出生数、出生率ともに8年連続で減少し、いずれも過去最低だった。
 15年までは、出生数が100万人を超えていた。それから8年で3割近くも減ったことになる。
 婚姻数の減少も極めて深刻だ。昨年は戦後初めて50万組を割り、47万組まで減少した。
 結婚するかしないかは個人の自由だが、結婚したくても経済的な理由であきらめてしまっている人がいるとすれば問題だ。
 非正規雇用で働いている若者は多い。非正規では十分な収入を得るのは難しいだろう。
 政府は民間企業に対し、若者の正社員化や賃上げを一層強く働きかけ、待遇の改善を後押しすべきだ。良質な住宅の提供などにも取り組んでいきたい。
 一方、国会では、岸田内閣が「異次元」と称していた少子化対策を盛り込んだ改正子ども・子育て支援法が成立した。
 子育て世帯への経済的支援として、児童手当の所得制限を撤廃するとともに、現行の「中学生まで」を「高校生年代まで」へと延長する。第3子以降は年齢に関係なく手当を月3万円に増額する。
 子供を持つ家庭の経済的負担を軽減する狙いがある。
 だが、経済的支援の充実だけでは少子化を克服できまい。
 近年は晩婚化・晩産化が進み、第2子、第3子を産みたくても産めない家庭も少なくない。
 また、若い人の中には、経済的理由で子供を持てない人のほかに、私は子供はいらない、といった人も増えているようだ。
 事情はそれぞれあるだろうが、子供はいらないという人も高齢者になれば、年金を受け取ったり、介護サービスを受けたりする可能性がある。世代間で支え合う仕組みの大切さを、感じることになるのではないか。
 人口減少がもたらす課題は多い。政府は、より多くの人が問題意識を共有できるよう、啓発に努めることが大切だ。結婚や出産をためらっている若者の事情や背景を見極め、総合的な対策を講じていく必要がある。