弱い立場につけ込んだハラスメントは許されないにもかかわらず、就職活動中の学生を守る仕組みは不十分だ。被害に遭っても声を上げにくく、企業に対応を委ねるだけでは限界がある。国際的な基準を踏まえて法整備を進め、抑止力強化を図るべきだ。
学生ら求職者が、志望先企業の社員などから性的被害を受ける「就活セクハラ」について、厚生労働省は企業の防止対策を法的に義務付ける検討に入った。来年の通常国会に関連法の改正案を提出することを目指す。
対策が一歩進むことは評価したい。男女雇用機会均等法は企業に相談窓口設置などのセクハラ対策を義務付けるが、学生は雇用関係がなく、保護の対象外となっている。厚労省は関連法を改正し、「雇用管理の延長」と位置付ける方針だ。学生へのパワハラ防止についても、義務化の可否を検討中という。
厚労省の2023年度調査によると、インターンシップ先の企業でセクハラを受けた学生は30・1%、ほかの就活中のセクハラは31・9%。「性的な冗談やからかい」「食事やデートの執拗(しつよう)な誘い」「不必要な身体接触」などを「複数回経験した」と回答した割合は20年度の前回調査より増えた。対策は急務だ。
就活セクハラに関し、厚労省は指針で「相談体制などの整備が望ましい」と定める。企業や大学への啓発にも取り組むが、何らかの対策をする企業は47・0%。前回調査より増えたものの、半数程度にとどまる。防止が義務となれば、企業や社員の意識向上などにつながるだろう。
一方、国際基準を踏まえれば、日本のハラスメント規制は緩い。就活セクハラ対策が「労働者並み」になるとしても、実効性に疑問符が付く。
企業の防止措置を強化する女性活躍・ハラスメント規制法(20年施行)に、ハラスメント行為の直接的な禁止規定はない。法整備時に経営者側が「指導との線引きが難しい」などと懸念を示したためで、制裁規定もない。
仕事上のあらゆるハラスメントを全面禁止する国際労働機関(ILO)の条約が21年に発効した。保護対象は労働者のほか、ボランティアや求職者など幅広い。
批准国は、国内法に民事、刑事上の制裁を設け、監視の仕組みや被害者救済策をつくる必要がある。今年5月時点で39カ国が批准したが、日本は慎重姿勢を崩していない。
厚労省の有識者検討会は、8月にまとめた報告書で「ハラスメントは許されないとの趣旨を法律で明確にすれば、条約批准に向けた環境整備に資する」と指摘し、引き続きの批准検討を求めた。
若者が安心して就活に取り組み、働ける社会とするには、セクハラを含めたハラスメントに厳しく対処する必要がある。政府は条約批准を視野に規制を強めるべきだ。