顧客らが従業員に理不尽な要求をしたり、暴言を浴びせたりする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)について、厚生労働省の有識者検討会が対策強化に関する報告書をまとめた。カスハラ対策を「労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当だ」と明記し、具体策として対応マニュアルの整備などを挙げた。
カスハラに遭った従業員が心身の不調を訴えたり、退職に追い込まれたりするなど社会問題になっている。サービス業などで人手不足が深刻化する中、従業員が安心して働ける職場の実現へ、カスハラ対策が急がれる。
厚労省が5月に公表した実態調査によると、2割強の企業が過去3年間に従業員からのカスハラの相談が増えたと回答し、減ったとの回答の2倍以上になった。パワハラやセクハラは減少が増加を上回っており、カスハラ対応の遅れが浮き彫りになっている。
帝国データバンクが6月、被害の有無を約1万1千の企業に尋ねた調査では、直近1年間に被害があった企業は全体の16%に上った。業種別では、小売りが34%と最多で、金融30%、不動産24%、サービス20%と続いた。個人を取引の対象とする業界での被害が目立っている。
有識者検討会の報告書は、カスハラの定義として(1)顧客や取引先、公共施設の利用者らが行う(2)言動が社会通念上相当な範囲を超える(3)労働者の就業環境が害される―の3要素を挙げた。身体的や精神的に強い苦痛を与える言動は1回でも該当すると指摘。企業に義務付ける対策として、被害を受けた従業員への相談対応や、対応マニュアルの整備などを例示した。
実際、相談体制の整備などの企業側の対策は、必ずしも進んでいない。先の厚労省の調査によると「特に対応していない」とする企業は従業員千人以上で37%、99人以下では74%に及ぶ。企業規模にかかわらず、マニュアル作りや従業員向けの研修といった対策の推進が求められる。研修を指導する専門人材の派遣などの支援策が必要だ。
カスハラ対策を巡っては、社員の休職や離職が相次ぐ全日本空輸と日本航空が6月、共同で対処方針を策定した。カスハラ行為を「過剰な要求」などに分類して具体的な行為を例示。被害を受けたかどうかを判断しやすくした。
大手2社の連携を契機に、他の航空会社でも対処方針の策定が進めば、航空業界全体で働く人に安心な職場環境となることが期待される。同業他社同士の連携は、その業界に特有の事案に対処しやすくなる利点もあろう。顧客との接点が多い小売業など他業界でも参考になるはずだ。