出生数の減少に関する社説・コラム(2024年11月10日)

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出生数の減少 次代が希望持てる社会か(2024年11月10日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 次の世代を担う若者が、自分らしく生きられるという希望を持てる社会なのか。そう問いかけられていると受け止めるべきだ。
 今年1年間に生まれる赤ちゃんの数は、初の70万人割れとなる公算が大きい。厚生労働省の人口動態統計(概数)によると、上半期(1~6月)の出生数が前年同期比6・3%減の33万人弱にとどまった。
 出生数は第2次ベビーブームの1973年(約209万人)をピークに減少傾向となり、2016年に100万人を割った。その後のペースが尋常ではない。22年には80万人を割り込み、昨年は過去最少の72万7千人余となった。
 ここ数年の急減は、新型コロナウイルス禍による将来不安の影響が大きい。より長い目で見ると、若い世代の価値観の多様化によって、独身や晩婚に加えて子どもを持つことを希望しない人が増える傾向にある。
 国立社会保障・人口問題研究所が21年6月に実施した出生動向基本調査によると、将来結婚の意思がある18~34歳の人が希望する子どもの数は男性が平均1・82人、女性が1・79人。いずれも過去最低で、女性の希望が2人未満となったのは初だ。将来結婚の意思がある人も、男女ともに減った。
 長野県内も同様の傾向にある。県が県内の男女を対象に毎年度実施している結婚・出産・子育ての意識調査で、独身者は「結婚するつもりはない」人の割合が年々増えている。既婚者が理想とする子どもの数も減る傾向にある。
 結婚や出産を望む人たちには、それがかなうよう支援する。同時に、結婚や出産を望まない生き方を支える。価値観の変容を受け止め、個々が最善の選択をできるよう環境を整えることが、若い世代が将来に希望を見いだせる社会へとつながるのではないか。
 経済的な不安が、結婚や出産の壁となっていることは確かだ。県の本年度の意識調査では、結婚を考えたとき気になることとして「十分な収入が確保できるか」が最も多かった。既婚者の理想の子どもの数は平均2・22人で、持つ予定は1・72人と開きがあった。理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多だった。
 政府の少子化対策は、子育て世帯が中心だ。視野を広げて、独身も含めた若年層全体の経済的基盤の底上げが求められる。
 夫婦や家族を巡る価値観は多様さを増している。選択的夫婦別姓の導入も、個人の選択を保障する点で重要な次世代支援策である。