10人以上が出馬意欲を示す自民党総裁選の一つの見どころは、「日本初の女性首相」が誕生するか否かだ。高市早苗経済安保相は、党内の「『日本のチカラ』勉強会」や「保守団結の会」を中心に支持を集め、出馬に必要な推薦人20人を確保しつつあるようだ。
上川陽子外相も25日午後、「20人というものをはるかに超える支持をいただいている」と、自信たっぷりに記者団に答えている。この意気盛んな上川氏に、麻生太郎副総裁が困惑しているらしい。上川氏が総裁候補として注目されたきっかけは麻生氏だ。
「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」
福岡県での講演で1月、上川氏をこう持ち上げた麻生氏は当初、本当に〝その気〟だったらしい。だが、「上川はどうだい」と周囲に評価を聞くうち、「空気を読めない」などと反応を聞き、関心は徐々に冷めていったようだ。
もともと、麻生氏の本命は河野太郎デジタル相だ。麻生派の源流は河野氏の父、洋平氏を中心に結成されたグループで、河野氏は「麻生派のプリンス」といえる立場だ。麻生氏は14日、茂木敏充幹事長に総裁選の支援を依頼されたときも、「うちには河野がいる」と断ったとされる。
その河野氏がさえないのは、同じ神奈川県連から小泉進次郎元環境相が出馬するからだろう。小泉氏を支える菅義偉元首相と麻生氏は、派閥に関する考え方など、政治的意見や立場が大きく異なる。菅政権末期の2021年、河野氏を党要職に抜擢(ばってき)して政権延命を図ろうとした菅氏の要請を、麻生氏が断ったとされる。
河野氏を評価し、近い関係だった菅氏は「麻生派を離脱しろ」と何度も助言した。だが、河野氏はそれを聞き入れなかった。54人の国会議員が所属する麻生派にいれば、総裁選で有利になると判断したのかもしれないが、それも「幻想」になりつつある。
小林鷹之前経済安保相の19日の出馬会見には、小林氏を高く評価する麻生派の甘利明元幹事長こそ参加しなかったが、山田賢司衆院議員、斎藤洋明衆院議員、務台俊介衆院議員の3人が出席した。
一方、上川氏が所属する党静岡県連の会長で、麻生派所属の井林辰憲(いばやし・たつのり)衆院議員は「上川氏から支援の要請があれば諮(はか)る」と表明した。これでは、麻生派が一致結束して河野氏を支援できるはずがない。
自民党で唯一、派閥存続を貫いた麻生派だが、「数の論理」で有利に立てたはずの総裁選をきっかけに、雲散霧消してしまうのか。永田町は、まさに〝伏魔殿〟だ。(ジャーナリスト)