▲ハリウッドの脚本家でもあったジェームズ・クラベルの同名ベストセラー小説が原作。「関ケ原」の前に日本に漂着し、徳川家康に仕えた英国人、ウィリアム・アダムス(三浦按針)をモデルに戦国の「サムライの国」を描いた
▲日本を「奇妙で野蛮」と感じた主人公が最後は「欧州に劣らず文化的」と結論づける。ライシャワー氏は「歴史的に不正確な点が多い」としながらもメッセージを評価した
▲時代の変化を感じる。巨額の予算で日本ロケを行った44年前のドラマも作品賞だったが、三船敏郎さんら主演の日本人はノミネート止まり。今回は真田さんがプロデューサーも務め、歴史考証などに細かく注文をつけた。セリフの多くが日本語で字幕付きでも視聴者の心をつかんだ
▲ハリウッドは多様性重視を迫られ、ネット配信大手も世界市場をにらみ多様なコンテンツに目を向ける。「情熱と夢は海を渡り、国境を越えた」。真田さんは時代劇を継承してきた先達に謝意を示した。日本発の作品が世界に打って出るチャンスも広がっている。
米エミー賞受賞 日本文化伝えた迫真の時代劇(2024年9月18日『読売新聞』-「社説」)
日本の歴史や文化を描いた時代劇が米国で高い評価を受けた。映像作品づくりに携わる日本の俳優やスタッフが今後世界を目指すうえで、大きな励みになるだろう。
米テレビ界の最高の栄誉とされるエミー賞の授賞式が開かれ、ドラマ「SHOGUN 将軍」が作品賞など史上最多の18部門を制した。主演男優賞は真田広之さん、主演女優賞はアンナ・サワイさんが、それぞれ獲得した。
戦国時代を舞台に、真田さん演じる武将の生き方を描いた全10話の作品で、英国人航海士や通訳の女性らと織りなす人間模様が鮮やかに表現されている。音響賞や視覚効果賞も受賞しており、丁寧な作りが評価されたようだ。
制作の主体は米国という、いわば「ハリウッド版の時代劇」だが、真田さんがプロデューサーを務め、脚本づくりにも参加した。
日本人による主演男優賞や主演女優賞の受賞は初めてだという。セリフの大半は日本語という異例のスタイルだったが、登場人物の心情を伝える真田さんらの迫真の演技で、視聴者を魅了した。偉業に拍手を送りたい。
米国では、人種や性別による差別を排し、多様性を認めようという風潮が強まっている。こうした変化を背景に、海外の作品を受け入れる素地ができていたことも、快挙を後押ししたのだろう。
「SHOGUN」は2月に世界配信を開始し、6日間で900万の再生数を記録した。動画の配信サービスには多くの作品が必要で、配信事業者は、世界中で良質な作品を探している。
日本語の作品であっても、内容が優れていれば、海外で人気を得る可能性がある。
そうした作品が発信されれば、日本文化への関心が高まり、インバウンド(訪日外国人客)を呼び込むきっかけになるかもしれない。日本の制作陣は、後に続く作品づくりに励んでほしい。
国は、日本の映画や音楽を海外に売り出す戦略を打ち出している。優れた作品を発掘し、海外にPRするのも国の役目である。
日本発エンタメ、世界射程に(2024年9月18日『日本経済新聞』-「社説」)
米テレビ界が毎年優れた作品を選ぶエミー賞で「SHOGUN 将軍」がドラマ部門の作品賞など18冠に輝いた。日本の戦国時代を描く時代劇で、俳優やスタッフとして多数の日本人が参加した。日本のエンターテインメント界の人材や技術の厚みを示したといえる。快挙を喜びたい。
漫画の実写版が海外で作られヒットするなど、日本のエンタメ文化への注目度は高まっている。好機を生かし、世界市場を射程に入れたコンテンツ産業の育成に力を入れてほしい。
ネット配信の普及で国境を越えたコンテンツの流通が盛んになった。字幕での観賞に抵抗感を持たない視聴者も増えている。「SHOGUN」のせりふの多くは日本語だ。国内の作り手も、こうした追い風をうまく生かすべきだ。
今作では、主演男優賞に選ばれた真田広之氏がプロデューサーを兼ね、日本人の価値観や美意識などを作品にきちんと反映させた。ネット上に玉石混交のコンテンツがあふれる中で、本物志向で質の高い作品づくりは見た人の心をとらえたのではないか。後に続く者には励みとなろう。
世界規模のネット配信会社は潤沢な資金と市場を持つ。俳優や監督、作品を企画するプロデューサー、デジタル系の技術者など、実績を持つクリエーターらの目に魅力的な舞台と映るのは自然だ。国内の組織を辞めた人材がネット会社と組み活動する例も目立つ。
国内のコンテンツ制作業界も、世界に通用する作品づくりに挑むべきだ。産業として収益をきちんと確保できる仕組みも工夫してほしい。海外出身者を含めた多様な人材の登用、普遍的なテーマを持つ企画の選定、作品に見合った俳優の起用などが鍵になろう。日本と海外の両方の文化を理解している人材ももっと活用すべきだ。
政府はコンテンツ産業を輸出産業として一層伸ばす方針を掲げている。韓国は学校の整備など人材育成に力を入れ、今の映像産業を作った。参考にしたい。
セリフの大半が日本語という時代劇の受賞は前代未聞である。主演・プロデュースを務めた真田広之さんが主演男優賞に、日本育ちのアンナ・サワイさんが主演女優賞を獲得するなど、日本の俳優が初めて主要部門を受賞したのも快挙だ。
徹底して本物の日本文化にこだわった作品づくりが評価された結果である。真田さんはじめ関係者の努力に心からの拍手を送りたい。
従来、日本を舞台にした作品は少なくないが、ステレオタイプのイメージで中国とも混同されがちだった。そんな現状に疑問を持ち米国に拠点を移して挑戦してきたのが真田さんだ。今回は徹底した日本流の時代劇制作手法を持ち込み、衣装やセット、小道具、所作に至るまで「正当」な本物にこだわった。その執念が実ったといえる。
なかでも画期的だったのはセリフの約7割を日本語で通したことだ。言語には力がある。意味が分からずとも微妙な心情や場の雰囲気を醸しだす効果は十分にあったろう。
「賭け」でもあったというが成功した背景には米エンターテインメント業界の環境変化があった。新型コロナウイルス禍で配信サービスが普及し、敬遠されがちだった字幕も受け入れられるようになった。今年のアカデミー賞で日本映画の「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」が受賞するなどハリウッドの多様性の流れも後押しした。
一方で日本の時代劇は風前の灯(ともしび)だ。コストや手間がかかるのが大きな理由だが、職人やその技術、さらには演じられる俳優も減る連鎖が起きている。
真田さんは今後に向けて「一つの布石になれば」と期待を語った。受賞は日本の時代劇が世界に通用するコンテンツであることを証明している。これを機に、日本でも時代劇に限らず良質な作品を制作し、世界に打って出てもらいたい。
アクション俳優としてアイドル的な人気を集めた真田広之さんが、一転して戦後の混乱期を生き抜く若者を演じた。昭和59年の『麻雀放浪記』(和田誠監督)である。主役に推したのは配給する東映の宣伝担当、福永邦昭さんだ。
▼アクションに埋もれぬ演技力があり、まじめで宣伝にも協力的―と。真田さんの所属事務所を主宰する千葉真一さんは、麻雀などの賭け事を禁じていた。「アイドルでもアクションでもない、役者として成長できる役です」。福永さんの説得に、最後は千葉さんが折れたという。
▼いまの活躍を思えば演技派への転機となった一作か。真田さんは約20年前、米国に拠点を移した。本場の映画やドラマで、ゆがんだ形で表現される日本文化に忸怩(じくじ)たる思いがあった。大都会で忍者が暴れ、学校給食は天ぷらや刺し身の豪華盛りだ。
▼日本の正しい姿を伝える。その一念が実らせた快挙だろう。米テレビ界の最高峰であるエミー賞で真田さん主演の配信ドラマ『SHOGUN 将軍』が主要18部門を制した。台詞(せりふ)の7割は日本語、そこに英語の字幕を添える挑戦が受け入れられた。
▼「関ケ原の戦い」前夜を描く壮大な戦国絵巻を、大味な仕立てで終わらせなかった。日本からは時代劇専門のスタッフを呼び寄せ、刀や槍(やり)の持ち方、障子の開け閉めなど繊細な所作を一つ一つの演技に落とし込んだと聞く。真田さんら本物を追い求めた制作チームの勝利である。
▼最新の映像技術でハリウッドをうならせた今春の「ゴジラ」に続き、日本文化を世界に届けるクールジャパン戦略にまた一つ、「時代劇」という機軸が加わった。「東西の壁をなくしたい」と節を曲げなかった真田さんは、海を渡った現代のサムライだろう。
俳優の真田広之さん(63)が主演とプロデューサーを担当した米配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、第76回米エミー賞で連続ドラマ部門作品賞と主演男優賞、主演女優賞など同賞史上最多の18冠に輝いた。日本の時代劇の歴史に新章をもたらす快挙だ。
英国出身の作家ジェームズ・クラベルによる同名の小説が原作。徳川家康がモデルの武将「吉井虎永」を軸に、船で漂着し、虎永に取り立てられる英国人「按針」ら戦国末期の人物群像を活写する。有料の配信サービス「ディズニープラス」で日本でも視聴できる。
米作品ながら台詞(せりふ)の7割が外国語(日本語)という点も異例だ。英語圏の視聴者に、文化も時代もまるで異なる物語を字幕によって見事に理解させ、結果、大人気を博したことは、その他の非英語圏の作品への影響も大きいだろう。
巨額の制作費を投じ、ハリウッドが本腰を入れた作品の映像美や迫真力には目を見張るものがあるが、特筆すべきは真田さんや主演女優賞のアンナ・サワイさん(32)たちの所作の美しさ、殺陣の見事さ。死生観も含め全編に異文化への敬意がにじむ。多くのスタッフを日本から集め、制作側が目指した通り「日本人が見ても違和感のない時代劇」となっている。
受賞スピーチで真田さんは、日本の時代劇関係者に謝意を示して「あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り、国境を超えた」と語った。その述懐の通り、日本の時代劇の長年の蓄積と、ハリウッドの圧倒的なスケールの融合が生んだ名作ドラマだといえる。
忘れてならないのは、単に戦闘シーンを仰々しく描く作品ではないという点だ。「何故(なにゆえ)、戦場(いくさば)に出たことのない者が、総じて戦(いくさ)をしたがるのか」という虎永の独白は戦後80年近く、戦争の記憶が風化する日本にも重く響く。
虎永(家康)の物語には、まだ続きがある。当然、第2シーズン以降への期待も高まっている。
▼マフラーには理由があった。首の長い仲代さんには着物が似合わないと黒沢さんは考え、マフラーで首を隠させていた。時代劇や日本人の姿へのこだわりなのだろう。それに「幕末に近い時代には英国からスコッチも入っており、マフラーもあったはずだ」-
▼この人も時代劇への強いこだわりをお持ちなのだろう。真田広之さん。自らが制作に加わり、主演した「SHOGUN 将軍」が米エミー賞の作品賞や監督賞などを受賞。真田さんは日本人初の主演男優賞に輝いた。こだわりが大輪を咲かせた
▼ハリウッドの描く日本の時代劇といえばどこの国かと目を疑うセットや衣装がよく登場するが、真田さんはこうした不自然な日本描写が不満だったそうだ。同作ではせりふ、殺陣、所作などの細部にも気を配り、着物の生地や帯の幅にまで注文を付けたという
▼戦国時代の陰謀と駆け引き、裏切り。頼りない息子を真田さんの「虎永」が叱る場面や陰影の濃い映像を見れば映画「ゴッドファーザー」のにおいも少々。なるほどおもしろい