黒沢明監督の時代劇映画「用心棒」にマフラーを巻いた、やくざ…(2024年9月18日『東京新聞』-「筆洗」)

 黒沢明監督の時代劇映画「用心棒」にマフラーを巻いた、やくざ(仲代達矢さん)が登場する。仲代さんによると批判されたそうだ。「あの時代の日本にマフラーはない」
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▼マフラーには理由があった。首の長い仲代さんには着物が似合わないと黒沢さんは考え、マフラーで首を隠させていた。時代劇や日本人の姿へのこだわりなのだろう。それに「幕末に近い時代には英国からスコッチも入っており、マフラーもあったはずだ」-
▼この人も時代劇への強いこだわりをお持ちなのだろう。真田広之さん。自らが制作に加わり、主演した「SHOGUN 将軍」が米エミー賞の作品賞や監督賞などを受賞。真田さんは日本人初の主演男優賞に輝いた。こだわりが大輪を咲かせた
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▼ハリウッドの描く日本の時代劇といえばどこの国かと目を疑うセットや衣装がよく登場するが、真田さんはこうした不自然な日本描写が不満だったそうだ。同作ではせりふ、殺陣、所作などの細部にも気を配り、着物の生地や帯の幅にまで注文を付けたという
▼戦国時代の陰謀と駆け引き、裏切り。頼りない息子を真田さんの「虎永」が叱る場面や陰影の濃い映像を見れば映画「ゴッドファーザー」のにおいも少々。なるほどおもしろい
▼物語で大きな役割を担う水先案内人(パイロット)の「按針(あんじん)」。この作品が今後の時代劇の「パイロット」となるか。
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