外苑再開発の見直し案 都は十分に審査すべきだ(2024年9月18日『毎日新聞』-「社説」)

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明治神宮外苑のシンボルであるイチョウ並木。もともと保存される予定だが、新球場との近さが問題視されていた=東京都新宿区で2024年9月9日午前11時43分、山下俊輔撮影
 東京・明治神宮外苑の再開発計画について事業者側が見直し案をまとめ、東京都に報告した。問題になっている樹木の伐採などに関する内容だ。
 従来の計画から大幅な変更はなかった。問題点がどこまで改善されたのか。都の環境影響評価(アセスメント)審議会による十分な審査を求める。
 再開発計画は、神宮球場秩父宮ラグビー場を建て替えて再配置し、高層ビル3棟を整備するものだ。明治神宮や大手不動産会社などが事業者になっている。
 約1000本の中高木の伐採・移植や、新球場整備による名物・イチョウ並木に与える影響など環境への負荷が懸念されている。
 音楽家の故・坂本龍一さんらから反対の声が広がり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)は計画撤回を求めた。都は昨年9月、樹木保全策の策定を事業者に要請していた。
 見直し案公表は年明けごろかとみられたが、東京都知事選後にずれこんだ。事業者側は樹木の伐採数を124本減らしたと説明する。ただ、伐採予定だった樹木を枯れ木と認定してカウントから外したり、移植に切り替えたりした分が多い。現状での保全が新たに確保されたのは66本にとどまる。
 新設する神宮球場イチョウ並木との間隔は当初約8メートルだったが、根の保護などに配慮して約18メートルに広げられた。その場合、新球場の設計をどう見直すかは具体的に公表されていない。
 イチョウ並木に関しては近年、生育状況の悪化が指摘されている。今回の保全策で万全なのか、丁寧な分析が必要だろう。
 再開発問題がこじれた要因は大量伐採の是非だけではない。
 住民との合意の形成が後手に回り、事業者の環境影響評価に異を唱えた日本イコモス国内委員会に都のアセス審は意見陳述の場を設けなかった。拙速な手続きは批判と不信を生んだ。見直し案を形式的に受理して済ませてしまうようなことがあってはならない。
 毎日新聞などが都知事選の際に行った調査によると、樹木伐採に約7割が反対の立場だった。都民が抱く懸念を軽んじず、都は審査に慎重を期す必要がある。