河野氏は原発政策に関し、「今は電力を最大限供給するため、水素やアンモニア、核融合や、(原発の)リプレース(建て替え)なども選択肢としてある」と述べた。持論の「脱原発」を事実上封印した形だ。路線変更の背景には、派閥の影もちらつく。(宮尾幹成、長崎高大)
◆「原発再稼働しても電力供給が足らない」
河野氏は「最近のデータセンター、生成AIを初めとする電力需要の急速な伸びで、これから電力需要は反転して増えてしまう。そうすると、再生可能エネルギーを今の2倍のペースで入れたとしても全く足らない。再稼働できる原子炉は再稼働しても、おそらく足らなくなってくる」と指摘。「今はまず電力の供給を最大限するために、(原発を含む)あらゆる技術に張っておかなければいけない」などと説明した。
一方、24日に総裁選に出馬表明した石破茂元幹事長は、原発について「ゼロに近づけていく努力を最大限にする。再生可能エネルギー、太陽光であり風力、小水力、そして地熱、こういう可能性を最大限引き出していくことによって、原発のウェイトは減らしていくことができる」と話している。
石破氏の発言について問われた河野氏は、「今の時点では残念ながら、再生可能エネルギーを倍のスピードで入れて、可能な原子炉を再稼働しても、まだ需要予測に至らない。そこは全方向に日本として張っておく必要がある」と繰り返した。
河野氏は麻生太郎副総裁が率いる麻生派に所属しているが、2021年の前回総裁選には麻生氏と折り合いが悪いとされる菅義偉首相(当時)の支援を得て立候補。河野氏とともに「小石河連合」と呼ばれた小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長も支えた。菅氏は今回、小泉氏を推しているとみられ、麻生氏は河野氏の出馬を了承した。
麻生太郎氏
河野氏の「変節」について、麻生氏の協力を得るためとの見方が党内には広がる。他派閥の中堅議員は「麻生さんが後ろ盾になってくれないと今回は難しい」と指摘した上で、「原発政策で意見をころころ変えるのはどうかと思う」と冷ややかに見る。
派閥の支援を受けることについて記者会見で問われた河野氏は、「総裁選が終わった後の人事に派閥を介入させない、派閥が人事に携わらないという(党の)ガバナンスコードがきちんと守られるというところを確認するのが大事ではないか」と答えた。
◆「原発ゼロの会」の共同代表も務めたが…
東京電力福島第1原発事故後の2012年3月、超党派の議員連盟「原発ゼロの会」(現在は「原発ゼロ・再エネ100の会」)の設立発起人となり、安倍政権で初入閣するまで共同代表を務めた。自民党のエネルギー関係の部会で、原発の維持や推進を求める議員と激しく議論したり、出席した資源エネルギー庁幹部を叱責したりする場面も頻繁に見られた。
河野太郎氏が側近議員の著書に寄せた推薦文
東海第2原発の再稼働を主張してきた自民党の重鎮県議は、河野氏について「原子力を最初に誘致し、原子力を活用して盛り上げていこうという機運が強い県だから、いいイメージを持っていない議員が多い」と指摘。総裁選を控えた河野氏が「脱原発」を言わなくなったことについては、「理解できない。総裁になりたいからなのか。でも、それが信用できるかというと信用はできない」と突き放した。
2021年の前回総裁選で河野氏の選対幹部だった側近の秋本真利衆院議員(洋上風力発電事業を巡る汚職事件で起訴、自民党を離党)が著書「自民党発!『原発のない国へ』宣言」を出した際には、河野氏が「俺よりすごい、自民党一の『脱原発』男だ」との推薦文を寄せたこともある。