保護司制度の見直しを議論してきた法務省の有識者検討会の最終報告書案が8月29日に示され、保護司の報酬制導入が見送られた。活動内容の分担制も盛り込まれず、「骨抜き」ともいえる内容となった。現役保護司らからは「従来と代り映えのない制度では、保護司を確保できなくなる」などと批判の声が上がっている。
「報酬がなければ、若手保護司の確保はおぼつかなくなる」
神奈川県で保護司を務める男性は、検討会の改革案に疑問を示す。
保護司は高齢化が進む。法務省によると、平成25年は70歳以上が占める割合が26・1%だったが、令和5年には38・5%にまで上昇している。
SNSなどがコミュニケーションの中心となりつつある現代。男性は「高齢保護司が若い対象者の話を聞くのは難しい」と、若手保護司を確保できていない状況に危機感を募らせる。
議論進まず
今回の検討会は、開始から70年超が過ぎた現行の保護司制度の抜本的見直しを目指して設置されたはずだった。
実際、検討会では、ボランティアである保護司への報酬制、非行少年などの対象者の相談に乗る活動と地域での啓発活動の分担制の導入など、意欲増進や負担軽減のための方策が議題に上った。
だが、委員12人のうち現役保護司が5人を占める検討会では、「保護司は崇高なボランティア」で、報酬制を導入すれば「労働としての性格を帯びてしまう」などと反発する声が相次いだ。保護司ではない委員からは「もう一歩踏み込んでほしい」と改革を求める意見もあったが、両制度導入をはじめ、抜本的改革に議論は進まなかった。
保護司活動では、面会場所の確保のための費用など、ボランティアどころか「持ち出し」が生じていることも問題視されるため、最終報告書案では実費弁償金を幅広く認める方針が示された。
ただ、保護司活動に必要な地域の保護司会の会費は実費弁償の対象にはならない見込みだ。
保護司の石塚花絵弁護士は「労力を出すのがボランティアなのに、なぜお金を出さなければいけないのか」と指摘。会費についても公費負担としなければ、保護司の担い手不足の問題は解消されないとみる。
効果検証なし
保護司制度の「持続性」に主眼を置いた今回の検討会のテーマ設定自体が、小ぶり過ぎたとみる現役保護司もいる。
検討会設置につながった政府の「第2次再犯防止推進計画」(5年3月策定)の検討委員を務めた保護司の宮田桂子弁護士は、「保護司の役割、対象者から見た制度の問題点について、実態の検証が行われなかったことは問題だ」と指摘する。
保護司活動の存続が前提で持続性を議論する前に、そもそも、どのような特性を持つ保護司の、どのような働きかけが対象者の再犯防止につながっているのか。有効な活動を効率的に行うにはどんな手法があるのか。田弁護士は、保護司制度の内容自体の綿密な検証を経ないまま、検討会の議論が進んだとみる。
宮田弁護士は「法務省は保護司制度を変えたくないのではないか」と分析。「保護観察制度全体を見直さなければ、保護司制度も持続できない」と危ぶんでいる。(宮野佳幸)