国際協調でエムポックス防げ(2024年8月26日『日本経済新聞』-「社説」)

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エムポックス(サル痘)はワクチンの効果が確認されている =ロイター
 天然痘に似た感染症のエムポックス(サル痘)について、世界保健機関(WHO)が緊急事態を宣言した。2022〜23年に出
して以来2度目である。より重症化しやすいタイプがアフリカ中部で広がり、スウェーデンやタイでも感染例が報告されている。
 海外への渡航者や訪日客が増えており、国内に入り込んでもおかしくない。政府は水際対策や検査・診断の体制に万全を期したい。同時に国際社会と協調し、これ以上の流行拡大を防ぐべきだ。
 エムポックスはネズミやリス、サルなどにかまれたり、肉を調理したりすることで感染する。人から人へは肌の接触や性行為などでうつる。症状は発疹のほか、発熱や頭痛などだ。多くは2〜4週間ほどで回復する。
 感染症は初動が肝心だ。エムポックスは都道府県の地方衛生研究所で検査が可能だという。疑わしい症状の報告があった場合に、すぐに検査し、医療を提供できるか、体制の確認を急ぎたい。
 感染力はそれほど強くなく、新型コロナウイルスのような大流行は考えにくい。従来は男性間の性的接触での感染が多かったのに対し、女性や子どもの患者が目立つという。家庭内感染が懸念されているが、野生動物からうつった可能性が高いと専門家はみる。
 天然痘のワクチンに発症を防ぐ効果が確認され、欧州では治療薬も承認された。過度に心配する必要はない。厚生労働省は正しい知識の周知も進めてほしい。
 コンゴ民主共和国など感染が収まらない国々への支援も必要だ。ワクチン不足が解消されれば、アフリカでの流行を防げる。国際社会にとっても、危険な感染症からの脅威を減らす利点がある。各国は備蓄したワクチンや治療薬を供与すべきではないか。
 政府は日本製のワクチンなどをコンゴ民主共和国に供与する方向だ。ワクチンの増産と供給の体制を早急に整えてエムポックス根絶を進めるべく、国際社会への働きかけを強めるよう求めたい。