損保大手は非常識な業界慣行を改めよ(2024年8月26日『日本経済新聞』-「社説」)

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不当な価格調整の疑いで課徴金納付の処分案が通知された
 公正取引委員会は企業向け保険の価格を事前に水面下で調整していたとして、損害保険大手4社に総額20億円を超す課徴金納付を命じる手続きを始めた。信頼を礎とする金融業の一角をなす損保で、業界ぐるみの不正がまかり通っていたのは恥ずべき事態だ。放置してきた経営の責任は重い。
 独占禁止法が禁じる不当な取引制限の疑いで課徴金納付の処分案を通知されたのは、東京海上日動火災保険損害保険ジャパン三井住友海上火災保険あいおいニッセイ同和損害保険の4社。損保は相次ぐ業界再編で、大手4社による寡占が進んできた。
 4社は2020年以降、JERAやコスモ石油との保険契約をめぐってカルテルを結んでいた疑いを指摘された。代理店を介した保険契約の入札で、各社が提示する保険料を示し合わせる談合まで浮かび上がっている。
 今回の課徴金を算出する根拠になった事案は数件に過ぎないが、似たような談合は長期にわたって日常的に行われていたようだ。ビジネスの常識では考えられない慣行であり、顧客軽視も甚だしい。不正に走った社員はもちろん、非常識な行為をはびこらせた組織そのものに問題がある。
 企業向け損保は商品の差をつけにくく、損保会社の社員は営業先の物品を率先して買うなど「本業支援」で自らを売り込む奇妙な習わしが残る。損保会社と顧客の長年にわたる不健全な持ちつ持たれつの関係が、営業現場の規律や常識を損なわせた面もあろう。
 損保各社はまず何より経営の透明性を高め、健全に競い合うというビジネスの基本に立ち返らねばならない。社員の自己犠牲を前提にした「本業支援」のような時代錯誤の慣行はやめるべきだ。顧客の側も意識を改めたい。
 保険業界では、保険代理店がもつ契約者の個人情報を、損保大手からの出向者が出向元へ漏らしていた不正も新たに発覚している。コンプライアンス(法令順守)精神の欠如は深刻だと言わざるを得ない。損保会社からの出向者に依存する代理店の運営にも落ち度がなかったか点検が必要だ。
 中古車販売大手ビッグモーターの不正請求を看過した損保ジャパンの不祥事も記憶に新しい。不祥事が横行する業界の体質が温存されてきた責任の一端は金融庁にもあり、信頼回復へ厳しい対処が求められる。