感染症行動計画 問われるのは対策の実効性だ(2024年5月26日『読売新聞』-「社説」)

 いくら綿密な計画を作っても、それを実行に移せなければ、コロナ禍の失敗を繰り返すことになる。行政と医療機関が協力し、計画の実効性を高めていく必要がある。
 政府が、感染症の危機への対応策を網羅した「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定案をまとめた。意見公募を経て、6月中に決定する。2013年の策定以来、初の全面改定となる。
 新型コロナウイルスは昨年5月に感染症法上の「5類」に位置づけられ、流行は収まりつつある。コロナ禍で浮き彫りになった課題を一つ一つ解決し、次の危機に備えねばならない。
 現在の計画は、09年の新型インフルエンザの流行を踏まえて策定された。PCR検査やワクチンの開発体制の強化を掲げていたが、コロナ禍に直面し、準備不足の実態が 露あら わになった。
 行政が感染症の危機を甘く見ていたと言わざるを得ない。
 新たな行動計画は、情報収集や医療など現行の6項目に加え、水際対策やワクチン、治療薬、検査などの7項目を追加した。
 具体的には、空港などで入国者の隔離を行う施設をあらかじめ確保しておくことや、マスクや検査キットなどの物資の備蓄、保健所の人員確保を盛り込んだ。様々な対策について、政府は十分な予算を確保することが重要だ。
 感染症は、数年間にわたって流行を繰り返す可能性がある。
 流行初期にはウイルスの封じ込めに全力を挙げ、その後は医療や病床の確保に重点を置くなど、メリハリのある対応が不可欠だ。政府と専門家が緊密に意思疎通を図る体制を作りたい。
 不安がなお残るのは、医療体制の確保である。
 4月に施行された改正感染症法は、公的医療機関に病床確保や発熱外来の提供を義務づけた。一方、義務化の対象外となる民間医療機関も、事前に知事と協定を結び、医療を提供するよう改めた。
 これにより、感染拡大時には5万1000床の病床を確保することを政府目標としたが、実際に確保が見込める病床数は現時点で目標の6割にとどまっている。
 世界の中でも、日本の医療水準は高いと言われてきた。だが、感染症の専門家は少なく、医療提供体制も十分ではないことがコロナ禍で露呈した。
 政府は、専門医の養成はもとより、一般の勤務医や開業医、看護師に対しても、感染症対策の研修を拡充することが大切だ。