「Amazon処方薬」が問う医療DXの遅れ(2024年8月22日『日本経済新聞』-「社説」)

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医療機関の電子処方箋への対応は進んでいない(調剤薬局
 患者が調剤薬局に出向かなくても自宅などで処方薬を受け取れるようにするサービスが相次ぎ登場している。アマゾンジャパン(東京・目黒)はこのほどアプリ上で処方薬の取り扱いを始めた。
 ただ、サービスの利用に必要な電子処方箋の発行に応じる病院や診療所はまだわずかだ。医療機関側の体制づくりを急がなければ、調剤業務を刷新するデジタルトランスフォーメーション(DX)は絵に描いた餅になりかねない。
 アマゾンのサービスは患者が処方箋をアプリに登録すると、ウエルシアなど提携先の薬局チェーンがスマホのビデオ通話で服薬指導を行い、薬を自宅など指定した場所に配送する。
 オンライン診療と組み合わせることができれば、患者は自宅に居ながら医師の診察を受け、薬を受け取ることも可能になる。
 こうした仕組みは一部の薬局チェーンも先行して導入しているものの、一般にさほど認知されていない。多くの人が使い慣れたアマゾンの参入は、オンライン服薬指導を希望する患者が増えるきっかけになる可能性がある。
 ところが医療機関側の対応の遅れが普及を阻みかねない。オンラインで服薬指導を受けるには通常の処方箋ではなく、電子処方箋をもらう必要がある。処方箋はデータで国の機関に登録され、患者には処方内容と引き換え番号を記載した控えを渡す仕組みだ。
 7月28日時点で全国の調剤薬局の約4割は電子処方箋に対応しているが、病院は1.8%、医科診療所は3.7%しか対応できていない。患者がオンライン服薬指導を希望しても、ほとんどの医療機関がその前提となる電子処方箋を出してくれないのが現状だ。
 オンライン服薬指導を活用する調剤DXの目的は、患者の利便性向上だけではない。システムが処方データをチェックするので、他の医療機関が処方した薬との重複を防いだり、併用禁忌の処方を防いだりする効果が期待できる。
 育児や介護といった制約を抱えた薬剤師も、在宅で患者にオンライン服薬指導することが可能になれば働きやすくなる。
 厚生労働省医療機関に対応を呼びかけているが推進力は弱い。電子処方箋が医療のデジタル対応の基幹機能の一つであることを考えれば、期限を区切って処方箋を紙から電子に全面移行することも検討すべきだ。