「まるで強制だ」。マイナ保険証の利用を増やすため、政府が推奨する病院や薬局での声かけが混乱を生んでいる。
河野太郎デジタル担当相は11日の定例の会見で、病院や薬局で声かけを強めていることについて「何事もやりすぎということにならないように気をつけていただく必要はある」としながらも、「12月2日から(現行の)保険証の新規発行が停止されて、マイナ保険証を基本としたものに移り変わっていく中で、なるべく早くマイナ保険証をお持ちの方には使っていただきたい」と訴えた。(高田みのり、戎野文菜)
◆「保険証を」の案内が普及のネック
河野氏は「医療機関で『保険証を』という声かけになってしまうのがネックになってしまっている」と発言。マイナ保険証の利用が進まない原因が、「マイナ保険証を」と案内しない病院や薬局での窓口対応にあるとの見解を示した。
マイナ保険証の利用促進のため、「そこ(病院や薬局での声かけ)の是正というところに力を入れていただくようお願いしている」とし、窓口での声かけを通じた普及策に力を入れていく考えを示した。
◆尻たたいているのは政府のほう
そもそも低迷するマイナ保険証の利用促進のため、病院や薬局の尻をたたいているのは政府のほうだ。
厚生労働省は、医療機関向けに窓口での声かけの「台本」(トークスクリプト)を用意。最初に「マイナンバーカードをお持ちでしょうか?」と声をかけるように促している。台本通り声かけを徹底するため、医療機関への支援金の支給条件の一つにしている。
一方で、現行の保険証が当面、使い続けられることなどの説明は少なく、「マイナ保険証一辺倒では『ごり押し』になる」と複雑な心境を語る薬局関係者もいる。
◆河野氏の発言に「責任転嫁だ」
病院や薬局での声かけや配布チラシを通じて、12月2日からは「マイナ保険証しか使えない」と誤って解釈する人も出ている。
◆周知方法見直しには直接回答せず
12月2日以降も現行の保険証が最長1年間使えることや、資格確認書で引き続き受診できることを併せてアナウンスするよう医療機関側に求めるなど、国民への周知方法を見直す考えはないのか。
河野氏は会見で、記者からこう問われると、「チラシなどの紙面が限られている中で、まずマイナ保険証を基本とする受け付けになるべく早く変えてくださいということを分かりやすく伝えていきたい」と述べるにとどまった。
薬局での声かけを巡っては、大手薬局の系列店に薬をもらいに来た男性が、現行の保険証を突き返されたため、「マイナ保険証がないと薬がもらえない」と思い、不本意ながらマイナ保険証の利用登録をするトラブルも。男性の抗議に、大手薬局は「誤解を招いた」として謝罪文を送った。
この大手薬局では、現行の保険証廃止を見越して、昨年12月から保険資格の確認に現行の保険証を用いない運用に切り替えていた。廃止前から、現行の保険証が使えないと受け取れるような対応に、医療団体からは「マイナ保険証の使用が義務かのような誤った印象を与える」と疑問の声が出ている。
◆武見厚労大臣「丁寧な説明が重要」
武見敬三厚生労働相は、この日の会見で、大手薬局の窓口対応に触れ、「医療現場では患者に対して(健康保険証やマイナ保険証のどちらか一方を)無理強いをするのではなく、丁寧に説明を行い、薬局は処方箋、マイナ保険証、健康保険証のいずれかの方法で患者の資格確認を行うこととされていることを踏まえて適切に運用することが重要」と答えた。
薬局で「マイナカードお持ちですか」と聞かれたら…必須になったの?保険証は使えない?【Q&A】(2024年6月11日『東京新聞』)
2024年6月11日 06時00分薬局で薬をもらおうとして、マイナンバーカードの提示を求められたケースが相次いでいます。薬をもらうためにはマイナ保険証が必要なのでしょうか。ポイントをまとめました。(マイナ保険証取材班)
◆処方箋でも薬はもらえる
Q 薬をもらうにはマイナ保険証が必要なの?
A マイナ保険証でも薬はもらえますが、必須ではありません。現行の健康保険証や処方箋でも薬はもらえます。
Q 現行の保険証やマイナ保険証などは何に使われるの?
A 患者がどの健康保険に入っているのかを調べる「保険資格の確認」のためです。マイナ保険証はカード読み取り機で、現行の保険証や処方箋は「被保険者番号」で確認します。
Q 処方箋だけでも薬をもらえるなら、なぜマイナ保険証を勧めるの?
A 政府は、マイナ保険証で受診すれば、薬剤師らが過去の処方薬を簡単に把握でき、医療の質が向上するといったメリットを強調しています。ただ、現状ではリアルタイムで薬の情報を共有する体制がまだ十分に整っていません。このため引き続き、お薬手帳の持参を呼びかけている薬局もあります。
マイナ保険証にイヤイヤ登録させ…「誤解与えた」大手薬局が謝罪文 「現行保険証を突き返された」抗議を受けてわせて
◆薬局での声かけは政府推奨
Q 今までマイナンバーカードを求められなかった薬局で提出を促されました。何か変わったの?
A 政府がマイナ保険証の利用者を増やすため、薬局に働きかけて、窓口で患者への声かけを推奨しているからです。5~7月は利用促進の集中取り組み月間として、利用者数の増加に応じて、病院には最大20万円、薬局・診療所には最大10万円を支給します。
◆現行の保険証、12月以降も最長1年は有効
Q 薬局で「12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」と書かれたチラシをもらいました。12月からはマイナ保険証しか使えなくなるの?
A そんなことはありません。発行済みの保険証は、最長1年間有効です。無効になってもマイナンバーカードを持っていない人や、保険証とひもづけをしていない人には、現行の保険証のように使える「資格確認書」が交付されます。
Q 資格確認書をもらうには申請が必要なの?
A 政府は、マイナ保険証を持っていない人には全員、申請がなくても当面は交付するとしています。
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