森元首相は、岸田首相の政局観に厳しかった
岸田首相
森氏「岸田さん、あなたは政局が分かっていない。1年前の総裁選が終わってから私はあなたに言ったよな。今から聞きますよ。幹事長は誰にするんですか」
岸田氏「え~、まだそんな」
森氏「それはそうだな。どこの派閥がどうするかまだ分からないから言えないでしょう。官房長官ぐらいは決めているんでしょう」
岸田氏「いないんですよ、それが」
森氏に人事の話をしたら広まってしまうと警戒したのかもしれない。官房長官は「女房役」と言われるように通常、同じ派閥から選ぶが、岸田首相が選んだのは自身と同じ宏池会ではなく、森氏と同じ清和政策研究会に所属していた松野博一氏だった。松野氏に最初から頼むつもりだったら、森氏にそんな言い方はしなかっただろう。
森氏の話を聞いて、「岸田政権は長期政権にはならないだろうな」と思った。というのも、短命に終わった第1次安倍晋三内閣と違って、第2次安倍内閣が連続在職日数で歴代最長になった理由を、岸田首相は分かっていないことになるからだ。
松野氏が政治資金パーティー収入不記載問題で辞任した後は、ようやく同じ派閥の林芳正氏が就いた。ただ、林氏は能吏ではあるが、永田町、霞が関ににらみを利かす存在とはいえない。林氏自身、「ポスト岸田」に意欲を隠しておらず、岸田首相が心底から林氏を信頼しているとは聞いたことはない。
長々と岸田政権のエピソードを書いたのは、9月の総裁選に出馬しようとしている候補者たちが、果たして官房長官候補を考えているか疑問に思ったからだ。
森氏は自身の経験を踏まえ、「総裁選の候補者は心の準備だけでなく、態勢を考えているのだろうか。船でも船長の下、機関長、操舵手などいろいろな役回りの人がいるが、船の運航に支障がでないようにできるかが大変大事」と強調した。この点については森氏が言う通りだろう。 (産経新聞特別記者・有元隆志)