打つ手がすべて裏目
「15年前、麻生内閣の時に自民党は総選挙(2009年)で大敗して政権交代しました。さらにその16年前の宮沢内閣当時の総選挙(1993年)でも自民党は下野しています。ですから、そろそろ次の政権交代が起きても不思議ではない。自民党はまさに正念場を迎えていますが、果たして岸田総理や自民党にどれだけの危機感があるのでしょうか」
河村氏は岸田首相の現状をこう語る。
「打つ手がすべて裏目です。旧統一教会への解散命令請求はよくやったほうだと思うが、世間の評価は今一つ。減税を打ち出しても増税のほうが目立って全然評価されない。得意の外交も、ウクライナやガザで戦闘が激化する中で日本ができることは限られる。なんといっても国民の信頼を失った一番の原因は裏金問題への対応でしょう。安倍派と二階派に責任を問いながら自分は責任を取らない。ずるいじゃないかと菅(義偉・前首相)さんが言っていますが、その通りです。そもそも裏金は脱税問題と結びついている。そこを曖昧にしたまま派閥を解散したり、政治資金規正法を改正したって解決にはならない。国民は納得しない」
事実、その後も自民党では「政治とカネ」のスキャンダルが相次いで、改革が“見せかけ”だと露呈した。河村氏は岸田政権が行き詰まった原因も、その中途半端な政治姿勢にあると指摘する。
「かつての自民党は総理大臣が交代するたびに政治志向が変わることで、疑似政権交代と言われるような、党が生まれ変わったような効果がありました。本来であれば、岸田さんの出身派閥の宏池会(岸田派)はハト派で安倍晋三・元首相の路線とは違うはずだった。ところが、岸田さんは総理になると防衛費を増額するなど安倍政権の亜流のまま政治を進めてきた。安倍さんみたいな政治だけど安倍さんではない。そこが国民から評価されなかったのではないか」
岸田首相に残された道は限られていると語る。
「菅さんが盛んに発信しているように、今のままでは選挙を戦えないというのは党内の大方の見方でしょう。アメリカ大統領選ではバイデン大統領が自ら撤退を表明したように、岸田さんも、という声はあります。でも状況が違うのは、バイデン氏にはハリス副大統領という後継候補がいた。岸田さんには後を託せる人も、党内で一致して推せる後継候補もいません」
だからといって岸田首相が決断できなければ、次の総選挙で「15年前のような政権交代が起きても不思議ではない」と警鐘を鳴らす。
取材/相澤冬樹(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2024年8月16・23日号