解雇規制見直し 働く人本位でなければ 2024党首選(2024年9月23日『北海道新聞』-「社説」)
小泉進次郎氏は規制改革の一環として、社員の学び直しや再就職支援を義務づければリストラなどの整理解雇ができるよう提唱した。法案提出も図る。
これには他の候補が反対や慎重姿勢で、本人もここにきてトーンを弱めている。整理解雇が規制緩和されれば成長分野に人材が流れるとの主張だが、どう結びつくのかは不透明だ。
整理解雇は法律に明確な規定はなく、判例を積み重ね規制要件をルール化した経緯がある。
働き方の規制を巡っては小泉氏以外の候補からも緩和を求める主張があるが、丁寧な検証なくしては議論は深まらない。
経営難などで整理解雇する際は「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「人選の合理性」「労使間協議」が考慮される。韓国のようにこの4要件を法制化した国もある。
小泉氏は「昭和モデル」と断じたが、批判を受け「解雇自由化ではない」と説明する。
4要件は昭和の遺物ではない。コロナ禍のタクシー運転手整理解雇では企業側に助成金活用など経営努力がないとして裁判所が無効とした例もある。
そもそも小泉氏の掲げる再就職支援は解雇前提であり回避努力とは逆だ。規制で「優秀な人材が成長分野に流れない」というが既に転職は日常的である。
電機や情報大手では対抗し、能力に応じて若手を厚遇する制度を導入した企業もある。
むしろ解雇対象となるのはデジタルに不慣れな中高年であろう。整理解雇が簡単になれば若手獲得の原資を確保できる。
約20年前に雇用規制を緩和したドイツは経済低迷を脱したが格差固定化への批判が強い。長期失業者への手当を昨年制度改変するなど修正も見られる。
一方で河野太郎氏は不当解雇に対する金銭補償ルール化を訴える。「不当解雇を防ぐ」目的というが、一方的な金銭解決が横行する恐れは否めない。
抑制的な防衛政策が大前提なのに次々と踏みにじっている。
中国の急速な軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発など、安全保障環境が厳しさを増していることを挙げる。しかし防衛力増強だけでは周辺国との緊張を高め軍拡競争は激化する一方だ。
厳しい安保環境だからこそ外交によって緊張を緩和し、信頼を醸成する必要がある。そのための議論こそが欠かせない。
憂慮されるのは核政策見直しを唱える主張が目立つことだ。
地域の安定をどう確保する か。米国追従以外の政策がほ とんど聞かれず物足りない。
石破氏だけが米軍の特権的 地位を認めた日米地位協定の 見直しに着手するとしている。
地位協定は沖縄で相次ぐ米軍兵士による女性への暴行事件などで、日本側の捜査を制約してきた。見直しは喫緊の課題だ。
立憲は4候補とも米国との対等な関係の構築を唱えつつ、日米同盟を基軸とする立場だ。
外交・安保政策の継続性に配慮する姿勢を重視しているのだろう。これでは自民党との対立軸が見えない。
痛みと安心(2024年9月22日『高知新聞』-「小社会」)
血管に管を通して心臓にアプローチする―。今では広く普及した心臓カテーテルの技術は100年近く前、ドイツの25歳の研修医が自ら体を張って試みたとされる。後にノーベル生理学・医学賞を受賞するヴェルナー・フォルスマン。
彼は自分の腕に自らの手でカテーテルを入れ、それが心臓に達していることをエックス線で撮影、確認した。しかし当時、その実験は「危険で無価値と見なされて長年無視されていた」(坂井建雄著「医学全史」)という。それが今や多くの命を救う検査技術となっている。
その検査を何度か受けたことがある。局所麻酔をして手首付近からカテーテルを入れる。造影剤を注入すると体がカーッと熱くなるが、画像で冠動脈の状態は手に取るように分かる。
自分の体に何が起きているのか。それが分からないのは怖い。胸の痛みで言えば、血管が詰まりかかっているのか、一時的な痙攣(けいれん)か、それ以外か。検査結果を基に、医師から具体的な治療方針が示されればひと安心となる。
そんな人の体と同様、社会にも多くの病巣があり、さまざまな痛みが存在する。社会システムの劣化や制度の改悪で人の痛みが増すこともあろう。精密検査を要する病巣は年々増しているようにも思える。
自民党総裁選、立憲民主党代表選も終盤戦。連日、候補者たちの勇ましい熱弁が続く。痛みを抱えた人たちに、その言説は未来への安心をもたらしているだろうか。
立民の「原発ゼロ」 基本政策を軽視するのか(2024年9月19日『信濃毎日新聞』-「社説」)
立民の「原発ゼロ」 基本政策を軽視するのか(2024年9月19日『信濃毎日新聞』-「社説」)
結党以来の党是ではなかったのか。
2011年の福島第1原発事故を機に、当時の民主党政権が「2030年代に原発ゼロ」とする戦略をまとめ、17年10月に結成した旧立憲民主党の綱領にも「一日も早く原発ゼロを目指す」と盛り込んだ。20年9月に旧国民民主党などと合流して現在の立憲民主党が誕生した際も、綱領に同様に明記している。
野田佳彦元首相は「足元の原発再稼働と、原発に依存しない社会を実現する中長期政策は分けて考える」と強調。枝野幸男前代表と泉健太代表は「依存を減らしていくべきだ」、吉田晴美衆院議員は「脱炭素社会の一日も早い実現」と記した。
野田元首相は7日の討論会で「原発ゼロ」は掲げないとした。ほかの3候補は「ゼロ目標」に賛成したものの、真正面から主張していない。
背景には、次期衆院選で連携を模索している国民民主党への配慮がある。国民民主には、連合傘下の電力総連出身の議員らが所属している。玉木雄一郎代表はこれまで「原子力産業で働く方の受け皿となる」と強調し、立民に「原発ゼロ」が両党を隔てる要因の一つと指摘していた。
20年9月に旧国民と旧立民が合流した際も「原発ゼロ」は争点となり、旧国民の一部議員が参加しない原因となった経緯がある。
10月初旬にも衆院の解散が予想される。自民党は派閥裏金事件などで支持率が低下しており、立民は次期衆院選は「政権を取れる千載一遇のチャンス」(野田元首相)と位置づける。そのためには小選挙区で自民候補と一対一の構図が必要で、野党との選挙協力は必要になる。
とはいえ、連携を重視して基本政策を軽視すれば、党の土台をゆがめ、結党以来の熱心な支持者を失う懸念もつきまとう。基本方針が異なる他党との連携も同様だ。
自民・立民W党首選 防衛予算倍増 規模ありき正してこそ(2024年9月14日『東京新聞』-「社説」)
岸田文雄政権は「防衛力の抜本的強化」を名目に、2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円とし、27年度にGDP比2%にまで増額させる方針を決定。防衛費は第2次安倍晋三政権前の12年度の約4兆7千億円から、25年度には概算要求で約8兆5千億円にまで膨らんだ。
財源の一部は、所得、法人、たばこ3税の増税で賄う方針だ。
両氏とも防衛費倍増自体に反対しているわけではない。政府・与党が22年12月に増税方針を打ち出す際、幹事長、閣僚としてなぜ同意したのか甚だ疑問だ。
他の候補は増税方針を変えないとしつつも、増税時期には言及していない。現状で増税は難しいと考えているなら、防衛費の適正規模も含めて議論し直すべきではないか。国政選挙後に増税時期を決定するのは国民に不誠実だ。
「集団的自衛権の行使」も違憲と明言するが、政権に就いた後、直ちに安保政策を転換すると言明する候補はなく、自民との違いは必ずしも鮮明でない。各候補は軍事偏重の自民党とは違う安保政策を競い合うべきでないか。
安倍政権以降の防衛強化は必ずしも抑止力の向上につながらず、周辺国との軍拡競争を加速させている。自衛隊員のなり手不足や不祥事も相次ぐ。防衛費を増やして最新の防衛装備を導入しても、人員不足では無駄遣いに終わる。
周辺情勢を緊張させず、国力にも見合った防衛力の水準はどの程度か。両党首選には規模ありきを正す建設的な議論を求めたい。
報道各社の世論調査で、有力候補とされる小泉進次郎元環境相が「議論ではなく決着をつける時」「私が総理総裁になれば、選択的夫婦別姓を導入する法案を国会提出し、党議拘束をかけず、法案採決に挑む」と明言したからだ。
現行民法は夫婦に同姓を義務付けている。「夫または妻の氏を称する」と定めてはいるものの、夫婦の多くは女性が改姓しているのが実情だ。
夫婦が結婚後、同姓とするか別姓とするかを選べる選択的夫婦別姓制度は、法制審議会(法相の諮問機関)が1996年、導入を求める民法改正要綱を答申したが、伝統的家族観を重視する自民党内保守派議員の反対で長年、導入が見送られてきた経緯がある。
しかし、女性が結婚後も働くことが当たり前の時代になり、改姓に伴う負担やリスクが大きいとして、主に女性から選択的夫婦別姓を求める声が大きくなった。世論調査でも容認論が多数。経団連が今年6月、選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める提言を発表するなど経済界も積極的だ。
総裁選候補者のうち、小泉氏のほか石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相が選択的夫婦別姓制度の導入に前向きなのに対し、高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保担当相らは、通称使用の拡大で改姓の不都合はないとして慎重な立場をとっている。
立憲民主党代表選の4候補はそろって選択的夫婦別姓制度の導入を主張。代表選では争点化していないが、自民、立民両党の党首選が並行して行われることで、選択的夫婦別姓を党全体で推進する立民と、一部に根強い抵抗勢力がある自民との対比が際立っている。
選択的夫婦別姓制度を認めるか否かは、夫婦が結婚後、同姓とするか別姓とするか選べるということにとどまらず、これまで女性の活躍を阻んできた伝統的家族観を変え、女性への差別をなくし、女性の自分らしさを大切にする人権の問題にほかならない。
選択的夫婦別姓制度の早期導入を巡り、自民内で、そして自民、立民両党間で議論がさらに深まることを期待したい。
政治とカネ 透明性を高める契機に(2024年9月11日『東京新聞』-「社説」)
自民党総裁選と立憲民主党代表選がほぼ同時並行で行われる。自民党派閥の裏金事件で国民の政治不信が極まる中での「ダブル党首選」。各候補が改革案を競い、政治資金の透明性を飛躍的に高める機会にしなければならない。
「政治とカネ」を巡る問題で特に注目したいのは政策活動費の存廃。政党から政治家個人に支出され、使途公開が不要で以前から不透明と指摘されてきた資金だ。
不透明な資金をこれ以上放置すれば、国民の支持を失いかねないとの判断だろう。立民など野党各党が使途公開や廃止を一致して求めた成果でもあり、廃止に向けて後戻りしないよう自民、立民ともに議論を深めてほしい。
各総裁候補は裏金事件の実態解明に向けた再調査にも消極的で、裏金を受け取っていた議員を国政選挙で非公認とするような厳しい姿勢を打ち出す候補もいない。
「裏金議員」とはいえ70人超いる現職議員の支持を失いたくないのだろうが、厳しい姿勢で臨まなければ、裏金も、受け取った議員の行為も認めることになる。
代表候補4氏は次期衆院選で裏金議員の小選挙区に野党として対立候補を擁立する考えを示した。党員以外の有権者は両党首選で投票できないが、論戦に耳を傾け、次の国政選挙では金権腐敗の根を断つための選択を示したい。
当選1回の吉田氏は告示当日の7日朝に20人の推薦人を確保し、滑り込みでの届け出となった。党首経験者にとどまらず、多様な顔ぶれになったことをまずは歓迎したい。
自民が政権復帰した2012年の衆院選以来、旧民主の流れをくむ野党は国政選挙で連敗してきた。
野田氏は「分厚い中間層の復活」、枝野氏は「人間中心の経済」を打ち出し、泉氏と吉田氏は国民生活の底上げへ教育の無償化や労働者の処遇改善などを掲げた。
ともに人と暮らしに焦点を当ててはいるものの、それぞれ何をどう実現するのか、具体策はまだ物足りない。
物価高や広がる経済格差への対応は立民への期待が高い分野でもある。活発な論戦を通じて現実的な政策に磨き上げてもらいたい。
政治改革についても4氏の主張は方向性に違いはない。改正政治資金規正法で多く残された「抜け道」をふさぎ、資金の流れを透明化するのはもちろん、カネのかからない政治の具体像を示していく必要がある。
立民では旧民主の時代から代表選を通じてイデオロギー対立が表面化し、支持拡大の妨げとなる傾向がある。
政権交代を目指すにしても短期的に立民単独での政権獲得が現実的に不可能である以上、中長期的な視点で他の野党と政策をすり合わせていくしかない。
注目したいのは、旧民主党政権でつまずいた外交・安全保障政策を巡り、国民の信頼を回復できるかどうかだ。
今後の野党連携の枠組みを左右するテーマだけに、各候補には筋の通った説明が求められる。
立憲民主代表選 政権の具体像 明確に示せ(2024年9月8日『北海道新聞』-「社説」)
自民党は派閥の裏金事件を受け、支持低迷にあえいでいる。今月の総裁選で「新たな顔」を立てて巻き返しを図る構えだ。
そのためには、自民党との理念や政策の違いを分かりやすく伝え、分散した野党と連携する戦略が欠かせない。
国民に選択肢を示す活発な論戦を望みたい。
衆院当選1回の吉田氏は推薦人確保が難航し、告示直前にようやく出馬のめどがたった。当初は顔ぶれが元首相や代表経験者などベテランばかりになる懸念もあり、次世代の育成が課題であることを印象づけた。
再起を目指す野田、枝野両氏は一定の党勢回復を果たした泉体制のどこが問題だったのか明示すべきだ。閣僚経験がない泉、吉田両氏は「首相候補」としての存在感が問われる。
次期衆院選に向けた最大の争点は「政治とカネ」の対応だ。
有権者の間には、既成政党全体への不信感があることを肝に銘じるべきだ。
きのうの共同記者会見で4人は「しっかりうみを出し切る」「人間中心の経済」「産業を伸ばす」「教育と経済による国民生活の底上げ」などと訴えた。
消費税を巡っても立場が分かれる。枝野、野田両氏は減税に後ろ向きだが、泉氏は税率引き下げの検討を排除しておらず、吉田氏は時限的減税を訴えた。
効果や財源を含めた実現可能性を丁寧に示すべきだ。
きのうの論戦では、どの党とどう選挙協力を進めるのか、はっきりしなかった。
主張の違いを乗り越え、どのように大きな固まりをつくるか。調整の力量が試される。
派閥による裏金事件で自民党に逆風が吹いている。共同通信社が7月に行った世論調査では、衆院選の望ましい結果として「与党と野党の勢力が伯仲する」との回答が5割に上った。立民の政党支持率は1割台と低迷が続いているが、ある候補は「めったにない政権交代のチャンス」と捉える。
政権与党の監視は野党の重要な役割で、提案した政策より、与党の政策などへの批判的な姿勢が目立つのはやむを得ない面がある。ただ政権を担うのなら、裏金事件を受けた政治改革だけでなく、外交・安全保障など重要課題への対応の方向性を定め、国民の審判を仰がねばならない。
立民が政権交代の選択肢となり得るのか、地力を示す機会となる。各候補には、実現したい社会像や重要政策などについて論戦を尽くすことが求められる。
旧民主党系の政党は自民と差別化を図ろうと、現在の立民に至るまで離合集散を繰り返してきた。しかし展望が開けず混迷を深め、自ら「1強多弱」と評される政治状況をつくってきた面がある。
しかし記者会見で連携の可能性のある党として名前が挙がったのは、立民と同じく旧民主党の流れをくむ国民民主党にとどまった。各候補は立ち位置の違いをにじませつつも、戦略の念頭にあるであろう日本維新の会や共産党の名を積極的に出すことはなかった。
衆院選後の結果を受け、その場しのぎでつくるような連立政権では支持は得られまい。各候補は、連携が想定される政党名と一致点を見いだすことのできる基本政策などを示し、目指す政権像への理解を得る努力をすべきだ。
立憲代表選が告示 政権託せる構想を競う時(2024年9月8日『毎日新聞』-「社説」)
派閥裏金事件で自民党に対する不信が募る中、国民が代わりに政権を託す選択肢になり得るのか。野党第1党としての存在意義が問われる。
同時期に実施される自民総裁選は、若手や女性を含め候補者が乱立することになりそうだ。立憲でも党首経験者に加え、当選1回の女性が名乗りを上げた。
若い世代を中心に既成政党離れが進む。政権を批判するだけで支持を広げられる状況ではない。党を刷新できるかも焦点となる。
議論を通じて自民との違いを鮮明にし、どのような政権を目指すかを明示することが求められる。
まず、「政治とカネ」を巡る問題である。
政権を獲得するには、リベラル層に加え、自民に不満を持つ中道の人々の支持を取り付けることが欠かせない。
試金石となるのが、経済再生や格差是正への取り組みだ。
野党連携のあり方も課題だ。4月の衆院島根1区補欠選挙では、自民と一騎打ちの構図を作ることで勝利し、野党候補一本化の効果を示した。次期衆院選に向けて反自民の機運を盛り上げ、候補者調整を進められるか、トップとしての手腕が試される。
立憲内の主導権争いに終わらせず、各党をまとめあげる骨太な政権構想について、論戦を繰り広げてほしい。
立民代表選告示 現実的な政策を確立できるか(2024年9月8日『読売新聞』-「社説」)
立憲民主党が自民、公明両党に代わる選択肢になり得ていないのは、基本政策に関する意見集約ができておらず、どんな社会を目指しているのか判然としないからだ。
代表選を通じ、現実的で説得力のある政策を提案できるかどうかが党の浮沈を左右しよう。
派閥の「裏金」事件で自民が信頼を失っているのに、立民の支持率が上向かないのは、原子力発電を含むエネルギーや安全保障などの基本政策が固まっていないことが影響しているのではないか。
防衛力強化の必要性は認めているが、増額する防衛費の財源に充てる増税には反対し、歳出改革で捻出するという。
各候補の主張も、抽象的だと言わざるを得ない。
当たり障りのないお題目を並べるだけでは意味がない。各候補は論戦を通じ、政策の財源や根拠を具体的に説明する必要がある。
立民が政権交代を本気で目指すなら、財源の裏付けを伴う政策作りに真剣に取り組むべきだ。「敵失頼み」の党運営を見直し、地力をつけなければならない。
泉氏はかねて、共通政策の実現に絞って連立政権を組む「ミッション型内閣」構想を提唱してきたが、現実離れしているとして他党の賛同を得られていない。
立憲民主党の代表選が7日に告示され、野田佳彦元首相、枝野幸男前代表、泉健太代表、吉田晴美衆院議員が立候補した。4氏は次期衆院選で政権交代をめざすと強調した。責任ある政策提案を通じ、政権担当能力を有権者に示す戦いにしてほしい。
自民党が政権復帰した2012年の衆院選以来、旧民主党の流れをくむ野党は国政選挙で8連敗を喫した。立民の代表選は23日に投開票される。新代表にとっては、政権の受け皿としての本格的な信頼回復が最大の仕事になる。
野田氏は首相時代も掲げた「分厚い中間層の復活」、枝野氏は「ヒューマンエコノミクス 人間中心の経済」を打ち出した。泉、吉田両氏は国民生活の底上げへ教育無償化や労働者の処遇改善などを重視している。
立民は社会保障政策の柱として、所得に応じ給付や控除を実施する「給付付き税額控除」の導入を訴えてきた。7日の討論会では泉、吉田両氏が経済悪化時の食料品の消費税減税に触れた。論戦を通じて考え方や財源などを明確にしてもらいたい。
エネルギー政策で野田、枝野、泉各氏は原発に依存しない社会をめざしつつ、「原発ゼロ」が短期で実現するような誤解を招く公約は望ましくないと言及した。日本にとって最適な電源構成をどう考えるべきか明示してほしい。
旧民主党政権の最大の失敗の一つは外交・安全保障政策だろう。4候補は「集団的自衛権の行使は違憲」とする党の方針を堅持するとした。一方で自公政権との政策の継続性や日米同盟の重要性に触れる発言も複数あった。今後の議論に注目したい。
立民代表選告示 日本を守る気概が足りぬ(2024年9月8日『産経新聞』-「主張」)
政権を担う能力を与党と競う野党が存在しなければ日本に健全な民主主義は育っていかない。その点で野党第一党の代表選は注目に値する。
立民代表選で最も重要なのは、候補者が明確な国家観を示し日本を守り抜く外交、安全保障政策などを訴えることだ。
日本記者クラブ主催の候補者討論会では、全ての候補者が次期衆院選で勝利して政権交代を実現する決意を示した。だが、いずれの候補者についても、首相になって先進7カ国首脳会議(G7サミット)などに出席する姿を想像することはできなかった。
厳しい国際情勢の中で、日本と国民をどのように守っていくかという気概と方策を、誰一人示さなかったからである。
日本の独立と繁栄、国民の自由と生命を守る基盤は安全保障だ。そこに目を向けない政治家や政党に国の舵(かじ)取りを任せようと有権者は思うだろうか。
日米同盟の抑止力を格段に高めた集団的自衛権の限定行使容認について、候補者は全員、憲法違反の認識を示した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡っては、見直しを求める立民の方針を転換させたいと語る候補者はいなかった。
各候補者が自民党の政治とカネの問題を批判し、政策活動費廃止などの政治改革を唱えたのは妥当だ。ただし問題は実行力だ。立民が率先して政治資金の透明性を確保する具体策を講ずる覚悟を示したらどうか。
若手や女性ら10人前後の出馬が想定される自民総裁選がほぼ同時期に行われる。立民代表選が埋没しかねないと懸念する声もある中で、唯一の女性で当選1回の吉田氏の挑戦によって、どうにか刷新感をつくった格好だ。
先の国会で与党だけで成立させた改正政治資金規正法は「抜け穴」が多く、不十分な中身だった。
政治改革へのスタンスは国民も注目している。政治への信頼をどう取り戻すか。代表選を通じて大いに議論を深めるべきだ。
討論会で野田氏は「どの野党とも対話できる環境をつくる」、枝野氏は「包括的な連携は難しい」、泉氏は国民民主党との連立を「想定している」、吉田氏は「事前にどの政党と組むか国民に示すべきだ」とそれぞれ述べた。
今回、泉氏が代表にもかかわらず推薦人確保に苦労したのは、早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、新たな「党の顔」を望む党所属国会議員が多かったことを反映している。
次期衆院選を見据え、誰を「党の顔」に据えるかは大事だが、具体的にどんなことに取り組む政党なのか、ビジョンを国民に明示することは一層大切だ。
ただ、その顔ぶれは刷新感に乏しいと言わざるを得ない。
野田氏は民主党政権の首相だった2012年、不利な情勢下で衆院解散に踏み切り自民党の政権復帰を許した。立民を結党した枝野氏は21年衆院選で敗北し、代表を引責辞任した。負の記憶を払拭し、豊富な経験を生かした安定感と政治手腕への期待に応えられるかが課題だ。
泉氏は現職ながら推薦人20人の確保に告示直前まで苦しんだ。21年の就任時は批判一辺倒でない「政策提案型」を掲げたが翌年の参院選で敗れ、従来の政権追及型に回帰した。この3年で党勢は回復せず実績は乏しいとも指摘される。自らの党運営を厳しく総括し、改革をどう進めるかを語るべきだ。
政治に緊張感をもたらす野党の役割は大きい。政治は変えられる、と国民が希望を持てる代表選にしなければならない。
立民代表選告示 何を実行する党か明確に(2024年9月8日『山陽新聞』-「社説」)
立憲民主党の代表選が告示された。23日の臨時党大会で新代表が選出される。早期の衆院解散観測が出ている中、政治とカネの問題で逆風を受けている自民党に対して、政権交代も可能な力を持つ党に再生できるかが問われる。
立候補を届け出たのは、従前から出馬表明していた野田佳彦元首相、枝野幸男前代表に加え、前日に正式な出馬表明をした泉健太代表、当日朝に江田憲司元代表代行との調整がついて出馬にこぎつけた当選1回の吉田晴美衆院議員の計4人となった。
現代表である泉氏が20人の推薦人確保に難航して前日まで出馬を決められなかったのは驚きだった。党の態勢の脆弱(ぜいじゃく)さを表していよう。リーダーの下に確固たる結束を示せるようになれるかが課題だ。
代表選は、近く予想される衆院解散・総選挙を踏まえ、政権党の自民に対抗する「選挙の顔」を選ぶ意味も大きい。早速開かれた日本記者クラブ主催の討論会では、4人とも解散・総選挙で政権交代を目指すとした。野田氏は「政権交代の千載一遇のチャンス」と位置づけた。
実際、自民は派閥裏金事件をはじめとする政治とカネ問題で、今春の衆院3補欠選挙で不戦敗を含め全敗となるなど支持が低迷している。ただ、7月の東京都知事選では、立民が支援して知名度も高い蓮舫氏が、東京に地盤を持たない無所属新人の前安芸高田市長・石丸伸二氏よりも票数が少ない3位という結果だった。自民への批判票が、必ずしも野党第1党である立民に流れるわけでもない。
8月中旬の共同通信社の全国緊急電話世論調査によると、政党支持率は自民36・7%に対し立民12・3%だ。次期衆院選比例代表の投票先でも自民37・1%、立民15・2%と、立民へ期待が集まっているとは言い難い状況だ。
自民の「敵失」に乗じるだけでは政権への道は遠いと言わざるを得ない。与党の大逆風の中で野党への期待が高まらない問題について討論会で枝野氏が「野党に政権を預けたらどんな社会ができるのかビジョンが見えないからだ」と語った。まさに的を射た指摘だろう。
政治とカネの制度改革が重要なのはもちろんだが、外交・安全保障や原発を含むエネルギー問題など、それ以外の国家の基本的な課題にどんな政策をどういうプロセスで実行していくのか。与党とは何が違うのか。リベラル系や中道保守系など党内に考え方の違いがある中で、代表選を通じて具体的なビジョンを確立することが求められる。
自民の1強多弱で、足元を脅かす野党がなく政権交代が期待できないことが、自民のおごりを生み国民の政治不信を高めてきた面はあろう。政権交代もあり得る健全な議会政治のために、野党第1党の役割は重要だ。どの野党と連携するかの前に、まずは足元の政策を固めてもらいたい。
立民代表選告示 国民目線で響く論戦を(2024年9月8日『中国新聞』-「社説」)
多様な顔ぶれになったのは歓迎したい。旧民主党政権で首相、官房長官を務めたベテラン2人が論戦をリードし、ともに50代の代表と当選1回の女性が挑む構図だ。党員らが選ぶのは安定感か、若い世代か。23日の投開票まで17日間の長い選挙戦が始まった。
それだけに野党第1党の立憲民主党が、政治不信を抱く無党派層や、自民党に失望した層の関心を引きつけられるかに注目したい。自民1強の政治状況は、国会審議の空洞化や「政治とカネ」問題のような世論とのずれを招いた。緊張感のない政治は国民にとってデメリットが大きい。
政治改革について4候補は先の国会で改正した政治資金規正法では抜け穴が残ったとの主張でそろう。政策活動費の廃止や企業・団体献金の禁止などを掲げる。自民党総裁選では、裏金を受け取って党の処分を受けた議員の処遇見直しが焦点になっていることへの違和感は大きい。だからこそ、国民に響く改革案を論じ合ってほしい。
金や地盤があれば選挙で有利になる政治と決別する方策も語られている。国会議員の世襲制限が象徴である。4候補とも会社員や自営業などの家庭の出身だ。そういった人が立候補しやすいルールづくりは、これだけ政治に対する不信が積み上がり、多様性が乏しい中で自民党との大きな違いとして打ち出せよう。
真っ先に掲げる政策は、野田氏が分厚い中間層の復活、枝野氏は医療・介護や公共サービスを担う非正規労働者の賃上げ、泉氏と吉田氏は教育無償化だ。人に焦点を当てた共通点がある。物価高や社会保障制度、子育て支援、安全保障や原発エネルギー問題、人口減少に対しても自民党政権への対抗軸を示すべきだ。
避けられないのは、旧民主党政権での失敗を踏まえた政権運営能力の提示である。失望を忘れていない有権者は多く、政党支持率が伸び悩む要因の一つではないか。候補からは反省点に、財源の裏付けのないマニフェスト(政権公約)の提示や官僚との関係悪化が上がる。教訓をどう生かすのか、聞きたいところだ。
衆院で単独過半数を取れる戦略、すなわち野党連携の道筋を示さなければ、現実味を感じられない。旧民主党の流れをくむ国民民主党や、日本維新の会と政策面で一致点を見いだせるか。共産党との選挙協力も課題に挙がる。有権者の政権選択に資する代表選にする責任がある。
【立民代表選】政権選択の道につなげよ(2024年9月8日『高知新聞』-「社説」)
立民はいま、野党第1党として正念場にあるといってよい。
代表選ではこうした現実に向き合い、各候補が政権構想をしっかり示し、論議する必要がある。何より、政策の浸透を図らなければ党勢の維持や拡大は難しい。
自民の総裁選は、岸田文雄首相が退陣を表明。派閥解消の余波もあって、出馬を表明もしくは検討している候補が10人を超える。40代や女性議員も複数おり、多彩な顔ぶれになっている。
それに比べ立民は、吉田氏が告示日当日になって立候補を決めたことで辛うじて候補者に広がりが出た。論戦が低調なら、自民総裁選に埋没しかねない。
政策や構想をしっかりと示し、選挙を国民が将来を選択できる機会にする。代表選がその重要なステップにならなければならない。
それっぽい感じ(2024年9月8日『高知新聞』-「小社会」)
交流サイト(SNS)などには「彼氏感のある俳優」なる表現があると聞く。小柄でかわいらしい人は「小動物感」。本当は違うけどそれっぽい感じ、を縮めた形だろうか。昔からある「○○感」の用途は広がっている。
「やってる感」という言葉を聞き始めたのはいつごろだろう。本紙記事を調べると、時の政権が地方創生、1億総活躍…と政策の看板を次々に掛け替えていた時期に増えている。
問題解決へ前進しているイメージは演出しても、実質は伴わないという批判になろう。言語学者、金田一秀穂さんの表現が分かりやすい。「本当はやっていないのに、格好だけはやっているように見せている、パフォーマンス」(著書「あなたの日本語だいじょうぶ?」)
自民党総裁選が近づく。党内には多額のカネを集める政治体質が残っても、顔を代えて刷新感が出れば信頼回復はできるとみる向きがあるという。刷新ではなく刷新感。それっぽい感じ。若手に対抗する出馬予定者からも、「刷新そのものが大事」と反論が出ている。
きのうは立憲民主党の代表選が告示された。首相経験者を支える勢力は「自民が若さならば、こちらは安定感だ」。安定しているっぽい感じ。そうではなく政権に失策が続く中で、有権者はそろそろ安定した選択肢を求めていよう。
金田一さんは「見せ方はどうでもいい。実質が問題なのだ。それを私たちは見ているのだ」。同感だ。
立憲民主党の代表選が7日に告示される。自民党派閥の裏金事件を受け、自民政権の継続を望まない世論が以前よりも高まる中での代表選びだ。政権交代でしか実現できない社会の変革と、政権獲得までの道筋を示し、自民に不満を持つ同党支持層も引きつける論戦となるよう望みたい。
自民は総裁選で次期衆院選や来夏の参院選を念頭に「選挙の顔」を選ぼうとしているが、立民代表選に求められるのは、各候補者が目指す理念や社会像、それを実現するための政策について堂々と訴え、議論を深めることだ。
立民内で、枝野氏はリベラル寄り、野田氏は保守寄りとされる。立ち位置の違いはあるが、出馬会見ではいずれも「自民を支持しながら怒っている人を含め、幅広い民意を包み込む」(枝野氏)「自民に失望した保守層を巻き込む」(野田氏)などと強調した。
立民は今、政党支持なし層に加え、自民に不満を持つ層にも幅広く訴えかける好機にある。
立民が政権の座に就いたら自民政権とは政策がどう違うのかだけでなく、裏金事件への誠実な反省が見られない自民とは違うクリーンさ、派閥の論理に染まらない党運営、大企業ではなく生活者の立場を重視する政策など、訴えるべきことはいくつもある。
政策とともに避けて通れないのが他党との連携を巡る議論だ。
自民政権の継続を望まない一方で野党中心の政権にも不安を感じる層に訴えかけるには、政権の枠組みを具体的に示すことは欠かせない。
立民代表選は、40代や女性を含めて過去最多の5人を超える争いとなる見通しの自民総裁選に比べて新味に乏しいとしても、活発な議論を通じて、自民とは違う政党の姿や存在意義を示してほしい。
立憲民主党の代表選が告示された。自民党派閥の裏金事件などで国民の政治不信が高まる中、野党第1党のリーダーの役割は重い。候補者は自民批判と政権交代への意欲を訴えるだけでは不十分だ。論戦を通じて政権担当能力を示せるかどうかが問われる。
「政治とカネ」を巡っては、いずれも政治改革の推進を掲げている。先の国会で成立した改正政治資金規正法には抜け穴があるとして、使途公開不要の政策活動費の廃止などを挙げた。4氏の主張に大きな隔たりはない。政権を奪えば、ただちに実現できるはずだ。
ただ、立民への期待感は高まっていない。自公政権の継続は望まないが、野党に政権を任せるのも不安だ-。そう感じている国民も多いのではないか。国会の議席数で自民に遠く及ばず、8月の世論調査で党の支持率は12・3%だった。政権を担うには、二つの難題に道筋をつけなくてはならない。
一つは自公政権に対抗する選択肢として、党として進める政策の具体的な提案である。もう一つは遅くとも来年秋までに実施される衆院選に向け、野党連携の枠組みを固めることだ。4氏は政治理念や政権構想を掲げ、代表選の投票権を持たない国民にも「立民中心の政権像」を見せてほしい。
立民はこれまで岸田路線を批判してきたが、党内の意見は一様ではない。リベラルから保守中道まで幅広い支持層を抱えるが故に、重要政策での対案や立ち位置が曖昧な印象は否めない。少子高齢化、社会保障、地方活性化などを含め、政権選択にかなう将来像を明確に打ち出すべきだ。
今月は自民総裁選があり、次の首相が決まる。早期の衆院解散・総選挙を明言した候補もいる。立民単独で過半数の議席を得るのは難しい現状だけに、他党との選挙協力が欠かせない。小選挙区で与野党「1対1」の構図に持ち込めば、勝算も増す。政権交代が現実味を帯びたとき、有権者の支持は大きく広がるかもしれない。
立民の前身である旧民主党が3年余りで政権を失って以降、12年にわたって「自民1強」が続いている。その間、安保戦略などの重要政策が国会審議を尽くさずに転換され、政治の緊張感も失われていったのではないか。国民のためには信頼できる対抗軸が必要だ。立民は代表選を政治改革、党改革の一歩としてもらいたい。
立憲民主党の代表選が告示された。
当初、野田氏と枝野氏の一騎打ちになるかと思われたが、告示前日に泉氏が出馬にこぎ着け、当日になって吉田氏の立候補が決まった。
4氏は届け出後、共同記者会見や日本記者クラブの討論会に臨んだ。論戦の焦点となったのは政治改革と野党連携。
元首相から当選1回の議員まで、中道保守志向やリベラル系など立ち位置の違いはあるものの、「政権交代」を意識した発言が目立ったといえる。
きっかけとなった裏金事件の実態も依然として謎のまま。
次期衆院選を見据え、「政治とカネ」問題に終止符を打つ対抗軸の明確化で、政治が変わるというアピールが必要だ。
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今のところ内定している候補者は約190人。現状では立民単独で政権を奪うことはできない。
枝野氏は維新や共産とは政策面で乖離(かいり)があり「包括的な連携は難しい」と明言、泉氏は「国民民主との連立は想定している」と述べた。
現行の小選挙区制の下では、候補者を一本化しない限り、自民・公明の統一候補に勝つことは困難だ。
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辺野古新基地建設を巡り立民は「工事を中止し、米国に再交渉を求める」ことを基本政策に掲げている。
討論会では交渉の余地についての言及があった。
政治改革や野党連携に注目が集まるが、個別の政策論議も活発に展開してもらいたい。
政権交代がなければ政治に競争原理が働かず、政治は活力を失い、よどんでいく。
立民にとっても正念場だ。
泉健太代表は6日の記者会見で、派閥の裏金事件を起こした自民党に対し「レッドカードを突き付けて退場させなければならない」と再選への意欲を示した。野田佳彦元首相は「政権交代こそが最大の政治改革だ」と強調し、枝野幸男前代表は「自民党に代わる国民政党に進化する」と語っている。
先の通常国会で立憲民主党は、裏金事件の真相と自民党総裁としての岸田文雄首相の責任を繰り返し追及した。政治資金規正法の改正審議で自民党案は抜け穴だらけだと批判し、実効性のある改革を迫ったものの攻め手を欠いた。
内閣支持率は危険水域とされる20%台に続落し、連鎖して自民党の政党支持率も低下した。一方で、立憲民主党の支持率は必ずしも伸びたとは言えない。岸田首相が退陣を決断したのは、立民ほか野党が追い詰めた結果というより、厳しい世論を受けた自民党内圧力の帰結だろう。
自民党総裁選に名乗りを上げた立候補予定者は、政策活動費の廃止など、野党の株を奪う公約も掲げている。立民に本気で政権を奪う覚悟があるなら、国民の期待を背負えるだけの政治改革の対抗軸をきちんと示す必要がある。
全保障、防衛増税、人口減、少子化対策など国の存立に関わる問題は山積している。政治改革は、国会や政治への信頼を取り戻して重要政策を推進する前提でもある。ただ、政治改革の一点で政権を取れるほど世論の要請は単純ではないはずだ。国内の政治課題や国際社会の難局にどう対処するかも、明確に打ち出すべきだ。
泉氏は推薦人集めに最後まで苦心した。江田憲司元代表代行と吉田晴美衆院議員を巡っては、擁立の動きが最終局面まで続いた。泉氏には現代表としての自負がある。党内には、多様な人材をそろえなければ、自民党総裁選に埋没しかねないといった危機感もあるようだ。そんな余念に代表選が浮き足立てば、支持や理解は広がるまい。党の正念場と捉えた真摯[しんし]な論戦が求められる。(五十嵐稔)
立憲民主代表選 政権交代見据えた論戦を(2024年9月7日『西日本新聞』-「社説」)
立憲民主代表選 政権交代見据えた論戦を(2024年9月7日『西日本新聞』-「社説」)
野党第1党は、常に「次の政権」を担う存在でなくてはならない。
政権の政策や予算を厳しくチェックし、問題点に対案を出して競い合う。政権が行き詰まれば、いつでも取って代われる。こうした役割が国民に評価されれば、政治に良い緊張感が生まれる。
政権を担うのであれば、社会保障、経済、安全保障など幅広い分野の政策を示すのは当然だ。自民、公明両党の連立政権では解決できない課題への対策も求められる。
中でも、自民派閥の裏金事件に象徴される政治資金の問題は国民の関心が高い。
岸田氏は裏金事件の真相究明に踏み込まないまま関係者を処分した。与党主導で改正した政治資金規正法には「抜け穴」が温存されたままだ。
総裁選に立候補を表明した議員も、裏金事件の再発防止策や政治資金改革への踏み込みが甘い。これも自民が長きにわたって政権に安住し、緊張感が失われていることの表れだろう。
多くの国民が与党の対応は不十分とみている。立民には「政治とカネ」の現状を変える具体策が必要だ。
1人しか当選しない小選挙区で野党候補が乱立すれば勝ち目は薄い。候補者の一本化を含め、野党連携への道筋も新代表に問われる。
党首選で日本の針路を示し活発な論戦を(2024年8月31日『日本経済新聞』-「社説」)
自民党総裁選の立候補者は過去最多になりそうだ
自民党総裁選に多くの議員が名乗りをあげている。一国の指導者をめざす以上は、政策の旗を明確にして日本の針路を示す戦いにしてもらいたい。次の選挙に有利な顔選びの発想では既存政党への不信感はぬぐえない。それは立憲民主党の代表選にも当てはまる。
自民党総裁選は小林鷹之、石破茂、河野太郎の3氏が出馬を表明した。林芳正、茂木敏充、小泉進次郎、高市早苗の4氏も近く立候補を表明する見通しで、さらに複数の議員が意欲を示す。候補者は過去最多の5人を上回りそうだ。
裏金問題での強い逆風によって主要派閥が解散を決めた影響も大きい。岸田文雄総裁(首相)の不出馬表明で閣僚や党幹部の動きが活発化し、立候補のハードルが従来より下がった点は前向きに評価していいだろう。
総裁選は9月12日告示、27日投開票の日程で争われ、これから推薦人集めや重点政策の詰めが本格化する。候補予定者の発言を聞くと、重要課題について方針が定まっていない例も垣間見える。
次の総裁にとって党の信頼回復は、裏金問題の真相究明と再発防止策の徹底が第一歩となる。関係者の追加処分や選挙での公認の有無に関しては、立場を明確にして総裁選に臨んでほしい。
報道各社の世論調査では有権者の関心は、物価や賃金、子育て・教育、社会保障など暮らしに密接したテーマに集中している。成長戦略やエネルギー政策、財政運営など中長期の戦略も明示して活発な議論につなげてもらいたい。
2012年の衆院選で自民党が勝利して以来、旧民主党とその流れをくむ野党は国政選挙で8連敗を喫した。政府・与党に強い逆風が吹いても支持を取り戻せない原因を真剣に議論すべきだ。経済財政や外交・安全保障での建設的な提案を通じ、政権担当能力を証明するような戦いを期待したい。
名乗りの地(2024年8月30日『中国新聞』-「天風録」)
名乗りを上げる日をいつにするか。自民、立憲民主の両党首選に挑む陣営にとって重要だろう。ところが、台風10号に振り回されて先送りが相次ぐ。そんな中、共に67歳の両党の重鎮が「最後の戦い」への覚悟を地元で示した
▲立憲民主党の野田佳彦元首相がきのう、代表選立候補を表明した。13年前に当時の民主党代表選を制した日に合わせて選んだ。同時に重視したのは場所。千葉県習志野市のJR津田沼駅前は今も朝につじ立ちし、ビラを配る政治活動の原点だという
▲世襲の多い「金魚」たちに立ち向かっていく「ドジョウ」でありたい―。野田氏はポスト岸田への対抗心を見せた。片や、自民党の石破茂元幹事長が24日、「原点に戻る」と総裁選への名乗りを上げたのは鳥取県八頭町の村の鎮守
立民の代表選 政権担える具体策を示せ(2024年8月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)
野党第1党の立憲民主党の代表選が9月7日告示、同23日投開票の日程で行われる。
自民党の総裁選は9月12日告示で、27日に投開票される。立民は自民の総裁選とほぼ重なる日程の代表選を「どちらが首相にふさわしいか有権者に比較してもらう」(岡田克也幹事長)としている。次期衆院選で有権者に「政権選択」を掲げる戦略なのだろう。
これに対し、立民代表選は泉健太代表(50)が再選を目指して立候補する意向を固めている。さらに前代表の枝野幸男氏(60)が出馬を正式に表明。党内の中堅・若手グループは野田佳彦元首相(67)に出馬を要請している。
代表選を「首相を選ぶ選挙」に位置づけるのなら、若手議員も数多く名乗りを上げ、日本が抱える課題をどう乗り越え、どんな国を目指すのか、積極的に論戦していく必要があるのではないか。
次期衆院選は、自民党派閥の裏金事件などを受けて「政治とカネ」が大きな争点になる。物価高対策など経済対策や少子高齢化、社会保障、エネルギー問題、一極集中是正と地方活性化策なども問われる。共産党を含む野党連携のあり方も判断材料になる。
「政権選択」を掲げるのなら、代表選で各候補が具体的で実現性をもった政策を打ち出し、政権担当能力を示すべきである。
2021年の代表就任以降、泉代表の党運営は迷走した。当初は「政策立案型」を掲げたものの、22年の参院選に敗北した後は、政権追及に傾斜した。独自色を打ち出せず、政党支持率は10%前後で停滞している。裏金事件などで自民党の支持率が低下しても、立民支持に結びついていない。
21年は、内閣支持率が低迷していた菅義偉前首相が総裁選不出馬を表明。総裁選が注目を集めて露出が増え、勝利した岸田文雄首相が直後に衆院解散に踏み切って、与党で絶対安定多数を確保した。立民代表だった枝野氏は辞任に追い込まれている。今回の展開が前回と似ているとの指摘は根強い。
立民が存在感を発揮して、独自性を明確に打ち出すことができるのか。代表選の論戦に今後の党勢が大きく影響すると認識するべきである。
立憲民主代表選 選択肢見せる政策論戦を(2024年8月24日『中国新聞』-「社説」)
立憲民主党の代表選が来月7日告示、23日投開票の日程である。同時期の自民党総裁選を意識し、選挙期間を規則上最長の17日間とした。投票権のある議員や党員にとどまらず、国民に向け政権担当能力をアピールしたい狙いだ。
岸田政権は相次ぐ「政治とカネ」の問題によって、国民からの信頼を失った。共同通信社の世論調査で、次期衆院選の望ましい結果は「与党が野党を上回る」と「与党と野党が逆転する」がともに20%超で並んでいる。自民党が政権復帰して以降の12年間で、政権交代を求める声が最も高まっているのは確かだろう。
だからこそ立憲民主党は野党第1党として政権構想を示し、明確な選択肢を見せる政策論戦を展開すべきだ。
想定される構図は、代表経験者や、旧民主党政権の中枢を担ったベテランが競り合う姿である。代わり映えせず、次世代が育っていないとの印象が先立つようでは、自民党総裁選の動きに埋没しかねない。人材の多様性を示し、注目される選挙戦を求めたい。
まず自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に絡み、国民目線に立つ政治改革の道筋を示す必要があろう。先の国会で成立した改正政治資金規正法は、金の流れを覆い隠す抜け穴だらけだ。法案審議で示したパーティーや政策活動費の廃止方針を貫けるか。「政治とカネ」に正面から向き合わない自民党にプレッシャーを与える必要がある。
現政権に対抗する政策の旗印をはっきり示す必要がある。暮らしを翻弄(ほんろう)する物価高や円安、国内総生産(GDP)など経済指標に見られる国力の低下、少子化…。日本は分岐点にある。大学無償化や農家への直接支払い制度など独自に温める政策もあるはずだ。無党派層に響く発信が欠かせない。
とりわけ外交・安全保障、原発を含めたエネルギーなどの重要政策で立ち位置を明確にしてもらいたい。党内で意見が割れたままでは、示す「選択肢」があやふやになる。
野党連携の在り方も重要な争点になる。現行の小選挙区制では野党で候補者調整をしなければ、自民党候補を利するだけなのが現実である。そう遠くない時期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される情勢だ。政権批判の受け皿を求める有権者に応える連携の戦略を示してほしい。
政党としての立脚点も問われる。自民党の支持率が急落しても民意を取り込めないのは、姿勢がぶれているからではないか。政権追及か政策立案かの路線で揺れ、野党本来の役割であるチェック機能を十分果たせていない。共産党との連携度合いも決めかねているように思える。7月の東京都知事選で支援した候補が大敗した要因だろう。
野党が弱いあおりを受けるのは、国民に他ならない。自民党1強下での政権が続き、国の在り方を左右する政策が国会の議論抜きで転換され、物価高や経済格差を横目に政治資金の不透明さは温存されてきた。そんな政治を変えていく一歩にする代表選でなければならない。