斎藤元彦知事
元県民局長が斎藤知事はじめ県幹部に向けた告発文書を巡る一連の問題が惹起(じゃっき)されてから、約半年が経過した。県政は混乱を極め、156年の歴史を誇る我が雄県兵庫は危機的状況に直面している。
まず、文書問題調査特別委員会の調査の中で、告発文書の内容に真実が存在し、文書が「噓八百」ではなく、告発者への対応が告発者探しや情報漏洩(ろうえい)の疑いを指摘されるなど不適切と言わざるを得ないことが明らかになったにもかかわらず、知事は「真実相当性がない」、「誹謗(ひぼう)中傷性が高い」として県の対応が適切であったとしているが、専門家は公益通報者保護法の見地から「兵庫県は今も違法状態」と断じている。現時点で詳細な要因は明らかでないが、元県民局長の命を守れなかったという厳然たる事実は大変重く、責任は大きい。
次に、日本国憲法に則り県民の生命と財産を守ることを使命とする行政の長たる知事の職責を果たすためには、県民・県職員の模範として、法令遵守は当然のことながら、人として守るべき倫理・道徳や人権感覚に基づく道義的責任がより強く求められるが、「道義的責任が何かわからない」との知事の発言から、その資質を欠いていると言わざるを得ない。
そして、告発文書への初動やその後において、対応が不適切、不十分であったことにより、県民の信頼を損ない、県職員を動揺させ、議会を巻き込み、県政に長期に渡る深刻な停滞と混乱をもたらしたことに対する政治的責任は免れない。本県及び県民の誇りを失墜させてしまった今、県民及び県職員からの信頼回復は到底見込めず、県政改革を着実に進めなければならないこの大変重要な局面において、斎藤県政がそれに応えることは困難な状況である。
ここまで申し述べたとおり、斎藤知事の責任は重大である。これ以上の県政の停滞と混乱、県益の損失は許されるものではなく、県民本位の健全な県政と職員が安心して働ける職場を一日も早く取り戻し、来年度予算は新たに県民の信任を得た知事の下で編成されるべきである。
よって、本県議会は、斎藤元彦兵庫県知事を信任しない。
以上、決議する。
令和6年9月19日
兵庫県議会
兵庫知事不信任 斎藤氏は判断を間違えるな(2024年9月22日『読売新聞』-「社説」)
住民の暮らしを支える行政に、長期にわたる停滞と混乱を招いた責任は重大である。知事は、県議会の意思を受け入れ、すみやかに自らの進退について決断すべきだ。
知事は可決後、今後の方針について「しっかり考える」と述べ、明言しなかった。予算を含めた議案の議決権を持つ議員が全員、不信任決議を突きつけた事実は極めて重い。知事職にこのままとどまっても県政は進まないだろう。
今回は政策が争点ではなく、知事の資質を議会が不適格と判断した結果である。議会を解散することは全く正当性を欠く。16億円とされる県議選の費用にも県民の理解は得られまい。
県議会を仮に解散しても、改選後に再び不信任決議となれば知事は失職する。好転する材料は何もないのではないか。
知事は続投したいなら、辞職して次の知事選に出馬し、県民の審判を仰ぐ方法も可能だが、知事の保身のために県政を混乱させることに何の大義があるのか。知事は判断を間違えてはならない。
そもそも、不信任に至った最大の要因は、知事らが、県幹部だった男性による内部告発への不適切な対応を続けたことにある。
男性は3月、知事のパワハラ疑惑などを記した文書を報道機関などに送り、その後、県の公益通報窓口に同じ内容を伝えた。これに対し、県は独自調査を実施し、男性を懲戒処分とした。男性は7月に死亡した。自殺とみられる。
公益通報者保護法は、通報を理由にした通報者への不利益な取り扱いや、通報者を調査して特定する行為を禁止している。
県庁には知事の対応を批判する電話が殺到し、幹部職員の辞職や休職も相次いでいる。行政のトップとして県や県民のために何をすべきかは、わかるはずだ。
兵庫知事不信任 速やかに辞職すべきだ(2024年9月21日『北海道新聞』-「社説」)
斎藤知事は今月29日までに議会を解散するか、議会を解散せず辞職するか、30日午前0時をもって自動的に失職するかの選択を迫られている。
今回は予算や政策を巡る対立ではない。知事個人の資質や振る舞いが問われた。知事が議会を解散する大義名分はない。
全会一致の不信任は、ほとんど全ての県民が知事にノーを突き付けたに等しい。県職員労働組合も辞職を求めており、職務執行に不可欠な職員との信頼関係は崩れている。県政の停滞を早く解消するためにも、知事は速やかに辞職するべきだ。
県議会の調査特別委員会(百条委員会)の証人尋問では多くの職員が知事による「叱責(しっせき)」の数々を証言したが、知事はパワハラだとは認めなかった。
最も問題なのは、知事が元局長の告発を公益通報者保護法の対象外と判断し、告発者にとって不利益となる懲戒処分を行ったことだ。知事は違法性を否定するが、知事の指示を受けた副知事(当時)が元局長に情報源を明かすよう迫っていた。
百条委員会で専門家は「知事らの振る舞いは公益通報者保護法に違反すると考える」と指摘した。元局長は懲戒処分を受けた後に死亡した。自殺とみられる。知事は部下の人命が失われた事態を直視せねばならない。
今回、あらためて浮き彫りになったのは、知事の権限の大きさだ。周囲が追従者ばかりなら、独善に陥りかねない。
県民の代表に不信任を突きつけられた事実は重い。県政の混乱を招いた責任を自覚し、自ら身を引くべきだ。
県議会の調査特別委員会(百条委)で明らかになった事実を踏まえた全会一致での決議である。
発端は県の幹部職員が3月、知事のパワハラや視察先からの贈答品受け取りなどについて、匿名の告発文書を報道機関や一部県議に送付したことだった。
知事は「うそ八百」と否定し、県はこの幹部を停職3カ月の懲戒処分にした。幹部は家族に「一死をもって抗議する」との趣旨のメッセージを残して7月に亡くなった。自殺とみられている。
6月に設置された百条委ではその後、証人尋問やアンケートで告発の内容を裏付けるような職員の証言が相次いだ。知事もパワハラは否定しつつ、大声を出したことや勤務時間外にチャットで職員を叱責したことなどを認めている。
最大の問題は県が告発を公益通報として扱わなかったことだ。
知事はただちに告発者を特定するよう部下に指示していた。告発者の探索を禁止している公益通報者保護法の指針に反する行為だったのは明らかだ。
知事が身勝手な理由で議会を解散し、県政の混乱をいたずらに長引かせることは許されない。
為政の乱れや不行跡が目立つ大名を…(2024年9月21日『毎日新聞』-「余録」)
為政の乱れや不行跡が目立つ大名を重臣たちが合議して監禁状態に置く、「主君押込(しゅくんおしこめ)」という慣行が江戸期にあった。日本史家、笠谷和比古さんの著作「主君『押込』の構造」が知られる。監禁された大名は改心を迫られたり、隠居を強制されたりした。大名の権力を封じる一種のクーデターだが、謹慎から復活した主君が家臣を粛清し、報復した例もある
▲県民から批判が高まる中、辞任を否定し続けた斎藤氏だ。主君と重臣の主従関係と異なり、県民を代表し首長と対等な議会が全会一致で絶縁状を突きつけた。追い込まれた斎藤氏が、議会を解散し対抗することへの警戒も議員には漂う
▲解せないのは決議後も斎藤氏が「(事態の)結果責任は重い」と語るなど、一貫して自らの行動の非をほとんど認めないことだ
▲視察の際の名産品「おねだり疑惑」や高圧的な部下への言動など、県庁内からも行動の是非を問う声が広まる。就任3年で急速に裸の王様になったとすれば、けじめは自分でつけるしかあるまい。
問題の核心は、告発文書を公益通報として扱わず、作成者の特定を指示するなどした斎藤氏の初動対応にある。
県の幹部職員は3月、斎藤氏の疑惑を告発する文書を報道機関などに送り、4月には県の公益通報窓口にも通報した。
百条委では斎藤氏のパワハラや贈答品受領などの疑惑が次々と明らかになり、本人も机をたたくなど一部の行為を認めた。
一方、斎藤氏らの振る舞いは公益通報者保護法違反に当たるとした専門家の見解には、処分は「適切だった」と主張。「道義的責任が何か分からない」と述べた。知事としての適性に疑問を抱かざるを得ない。
道理の通らぬ解散を強行しても、改選後の議会で再び不信任決議が突き付けられて自動失職する可能性が高い。進退は窮まったといえよう。
県議会の側でも、百条委員会の設置に当初反対した維新と公明の責任は否めない。調査途上の不信任案提出には、早期の衆院解散が浮上する中、各会派の政治的な思惑も透ける。
自分を疑えない人(2024年9月21日『山陽新聞』-「滴一滴」)
「無謬(むびゅう)」は誤りがないという意味で、「官の無謬性」などと批判的に使われたりする。国は絶対に間違わない―。その一線を守るべく、どんな質問を浴びても表情一つ変えず、同じ答弁を繰り返す官僚を国会中継で時に目にする
▼県政混乱の発端は半年前。県民局長だった男性が知事に関する疑惑を告発する文書を匿名で作成して報道機関などに配り、県の公益通報窓口にも通報した
▼公益通報者保護法は告発者の不利益な扱いを禁じている。しかし、県は告発者を特定して男性を懲戒処分に。その後、男性は「一死をもって抗議する」とのメッセージを残して亡くなった
▼疑惑解明のため、県議会が設置した百条委員会では公益通報に詳しい専門家が県の対応を痛烈に批判する場面もあった。だが、知事はあくまで処分の正当性を主張し、「道義的責任が何か分からない」とも。そうした言動や資質を問題視して、県議会が知事に「退場」を突き付けた形だ
▼完璧な人間などいるはずもない。時には自分を疑い、間違いに気づけば改める。謙虚さもリーダーには必要な資質だろう。
これまで知事が不信任決議可決を受けて辞職・失職した例はあるが、議会を解散した例はない。解散となれば県政の一層の混乱が避けられない。賢明な進退判断が求められよう。
この問題は斎藤氏の県職員に対するパワハラ、訪問先で贈答品をねだる行為など疑惑7項目を挙げた告発文書が3月に関係者や報道機関に配布されたのが発端。作成者の県幹部男性は文書配布後、県の公益通報窓口に通報している。
斎藤氏の指示を受けた県側は文書作成者を特定し、男性を厳しく追及した上、文書を誹謗(ひぼう)中傷と認定。公益通報者保護法の対象外と判断した。
斎藤氏は文書配布直後の記者会見で「うそ八百」「公務員として失格」と男性を激しく非難。5月には停職3カ月の懲戒処分とした。男性は7月に亡くなった。自殺とみられる。
県側の一連の対応について、専門家からは公益通報者保護の観点から疑問が示されている。男性に対する処分の見直しも含め、再検証が必要だ。
県議会調査特別委員会(百条委員会)では斎藤氏、専門家らの証人尋問を行ってきた。公益通報の専門家らはそろって違法性を指摘。「公益通報に当たらないとの判断が拙速で、斎藤氏らの振る舞いは公益通報者保護法に違反する」「中立な立場の第三者に依頼すべきだった」などの見方が示された。
文書にある職員に対するパワハラ、企業から贈答品を受領した「おねだり体質」などの告発については、百条委や県職員を対象にしたアンケートで裏付ける証言や回答があった。斎藤氏はその後、一部について事実を認め、「うそ八百」発言については「反省」を口にしている。
公益通報者保護法では、通報を理由とした従業員の解雇は無効で、降格や減給など不利益な取り扱いを禁止している。兵庫県で行われたように、告発者を告発された側が調べ、「公益通報に当たらない」と一方的に判断して停職処分を決定するようなことが許されないのは明らかだ。
通報者の保護について、所管する消費者庁は「通報者の探索を行うことを防ぐ」ことを事業者などに求めている。ただ現状では罰則がなく、実効性が高いとは言い難い。今回の兵庫県の問題に限らず、民間企業などで通報への対応や体制の不備について指摘されてきた。
斎藤氏の言動を特殊なものとして見ていたのでは、同じような不幸な事例が繰り返されかねない。今回の兵庫県の問題を契機に官民を問わず、勇気ある告発をしようとする公益通報者がしっかりと守られる制度を構築し直すことが急がれる。
兵庫知事に不信任 身を引くべき重い可決だ(2024年9月20日『産経新聞』-「主張」)
斎藤氏は「結果責任は重い」としつつも態度を保留した。だが、全会一致の不信任は極めて重大だ。潔く身を引くのが筋である。
決議案は県議会の全会派が共同提出した。「これ以上の県政の停滞と混乱」は許されないとし、令和7年度予算は「新たに信任を得た知事の下で編成されるべきだ」と辞職を求めた。内部告発から約半年もの間、混乱が続いてきた県政の健全化に向けた妥当な判断である。
日本の地方自治は、首長と議会による二元代表制だ。議会の不信任決議に首長は議会解散で対抗できるが、制度の目的は相互の牽制(けんせい)による健全な運営である。これまで不信任案が可決されて議会を解散した知事はいなかった。
斎藤氏は議会解散の可能性を否定していないが、解散しても再び不信任を受けて失職する見通しである。斎藤氏による解散権の行使は、自身の延命にしかならない。厳に慎むべきだ。
一連の発端は、当時の幹部職員が3月、斎藤氏のパワハラなど7項目の疑惑を告発する文書を報道機関や県議に送ったことだった。この職員は4月、県の公益通報窓口にも通報したが、県側は調査結果を待たずに懲戒処分とし、職員は7月に死亡した。自殺とみられる。
斎藤氏はすべての疑惑を否定し、職員の処分も「適切だった」と主張している。
だが、疑惑を検証する県議会の調査特別委員会(百条委)では、県の対応は通報者に対する不利益な扱いを禁じる公益通報者保護法に違反するとの指摘が相次いだ。職員アンケートでは、約4割が斎藤氏のパワハラを見聞きしたと回答した。
斎藤氏がどのような判断を下しても、県と県議会は真相解明に努めるとともに再発防止策を講じ、県政への信頼回復を図る必要がある。
兵庫知事不信任 議会の意思尊重すべきだ(2024年9月20日『新潟日報』-「社説」)
全議員が知事は辞職すべきだと決議した議会の意思は重い。それでも知事としての職務を続けるというのなら、いったん身を引き、改めて県民に信を問うべきだ。
兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑告発文書を巡る問題で、県議会は19日、全会派が共同提出した知事不信任決議を、全会一致で可決した。斎藤知事は10日以内に辞職・失職か、議会解散のいずれかを選択しなければならない。
副知事が県政混乱の責任を取るとして辞職し、職員からは知事辞職を求める声が公然と上がるなど、混乱は極まっている。
自民党は提案理由説明で「県民と県職員からの信頼回復は見込めず、これ以上県政を担い続けることは不可能」と訴えた。
決議の可決を受け、知事は報道陣に「しっかり考えて決断する」と述べるにとどめた。
県政の混乱をこれ以上、長引かせてはならない。一日も早い決断が求められる。
県議会は、県の内部調査に問題があるとして、調査特別委員会(百条委員会)を設置したが、男性は証人尋問前に自殺した。
告発者の権利が守られなかったことは大きな問題だ。
告発文書を、県が公益通報の対象外と判断したことが適切かどうかも焦点となっている。
県は、文書を真実相当性がないとして、保護法の対象に当たらないとした。
だが、告発を受けた行政側が、公益通報の対象になるかを決めることは、恣意(しい)的な判断につながりかねず、中立性に問題がある。
百条委では出席した識者が「公益通報に当たらないとの判断が拙速で、知事らの振る舞いは保護法に違反する」と指摘した。
一方、知事は「法的に問題はない。訴訟になっても耐えられる」と答えている。
贈答品を要求する「おねだり体質」では、受け取ったことを認めたものの、「社交儀礼の範囲内」としている。知事としての資質を疑う県民は多いだろう。
知事は続投に意欲をみせてきた。しかし、長引く異常事態の収拾を図ることが、県民のために何よりも大切だと自覚してほしい。
斎藤知事不信任/身を引く決断するときだ(2024年9月20日『神戸新聞』-「社説」)
不信任の理由として議会側は「県政に深刻な停滞と混乱をもたらした政治的責任」などを挙げた。特定の政策ではなく、言動や資質に不信任を突きつけるのは極めて異例だ。
知事は10日以内に辞職・失職か議会解散かの判断を迫られるが、「結果は重く受け止める。県にとって何が大事か考えたい」と明言を避けた。解散を選んでも、改選後の議会で不信任決議案が再提出され、出席議員の過半数が賛成すれば失職する。
議会を解散し信を問う大義が乏しく、県民の理解は得られまい。知事は全会一致での決議を真摯(しんし)に受け止め、身を引く決断をするべきだ。
問題の発端は、元県民局長の男性が3月、知事のパワハラや企業からの贈答品受領など7項目の疑惑を告発した文書を匿名で作成し、報道機関などに配布したことだ。これに対し知事は会見で文書を「うそ八百」「事実無根」などと非難した。男性は4月、同様の内容を県の公益通報窓口にも通報した。
しかし県は内部公益通報に基づく調査結果を待たずに内部調査のみで文書を「誹謗(ひぼう)中傷」と認定し、男性を懲戒処分にした。調査の中立性を疑問視する声が噴出し、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置した。男性は百条委での証言を前に死亡した。自死とみられる。
知事の責任の核心は文書を公益通報として扱わなかった対応にある。公益通報者保護法は告発を理由とした不利益な扱いを禁じる。だが知事らは文書が公益通報に当たるかを検討しないまま通報者の特定を急ぎ、調査、処分へと失態を重ねた。
男性の文書配布について、知事は「真実相当性がなく、外部公益通報には当たらない」と繰り返し、処分の正当性を主張してきた。一方で百条委の証人尋問では職員に大声を出したり、深夜や休日に会議用アプリのチャットで職員らを叱責(しっせき)したりしたことは認め、反省の弁を述べた。ただ委員の質問に「道義的責任が何か分からない」と答えるなど、一連の対応や言動には知事としての適性に疑問を抱かざるを得ない。
知事は県議会各会派などの辞職要求にも「改革を進めたい」と続投に強い意欲を示してきた。今、そうした姿勢がどれだけ県民の支持を得られるだろう。
総務省によると、知事不信任案の可決は全国5例目で、議会を解散したケースはない。県議選になれば16億円の費用がかかるという。知事は県民生活への影響と県政の停滞をこれ以上長引かせてはならない。
元県幹部による告発文書にあった七つの疑惑を巡り、県議会調査特別委員会(百条委員会)で知事の言動と対応が明らかになり、86人の県議全員が辞職を求めていた。当然だろう。組織や社会の健全化のための公益通報者保護制度を軽んじる姿勢は、その一点だけで自治体のリーダーとしての資質に欠ける。
このままでの県政運営は厳しい。県民のため、一刻も早く辞職すべきだ。
可決後、斎藤知事は自らの対応は「決議をしっかり受け止め、しっかり考えたい」と話した。地方自治法に基づき10日以内に辞職・失職か、議会解散かを選ぶ必要がある。どちらを選択するかや、判断の時期は明言しなかった。
県政が混乱しているのは明らかだ。批判の電話がやまず、事業や来年度予算編成への影響が出かねない。職員労組からも辞職を求められた。信頼回復は望めそうにない。
県議会の解散を選べば初となる。政策の対立ではなく、知事自身の姿勢に対する民意を踏まえたとした不信任案の可決だけに、大義をどう説明するのか。自らの正当性を問いたいのなら、辞職・失職後に出直し選で民意を問うのが筋だろう。
不信任の最大の要因は、公益通報者保護法の違反が濃厚だからだ。知事は自らの疑惑にもかかわらず第三者による調査をせず、告発文書を「真実相当性がない」として懲戒処分を下した。百条委では知事が通報者の特定を指示したと、県職員が証言した。不信任決議案の賛成討論では初動の不適切さ、人権感覚の希薄さを指弾する声が続いた。通報者は自死とみられる。命を守れなかった事実は重い。
斎藤知事は「適切だった」として非を認めていない。百条委で道義的な責任を感じないかと問われ、「道義的責任が何かわからない」と答えた。証言が相次ぐパワハラや贈答品の受け取りの疑惑は、時代錯誤の言動だと感じさせる。なおさら資質に疑問符を付けざるを得ない。
告発文書を見て知事が優先してやるべきだったのは、数々の疑惑の解明だろう。中でも看過できないのは、昨年の阪神、オリックスの優勝パレード費を巡り、県側が金融機関に協賛金を求める代わりに補助金を増額する「キックバック」を持ちかけたとの指摘だ。もし事実ならば刑事事件に相当する。弁護士による第三者調査委員会を設けてようやく調査を始めたが、うやむやにすべきではない。
斎藤知事は辞めない理由を「前回の選挙で有権者の負託を受けた」「県政改革を進めたい」と繰り返してきた。5期20年務めた前知事が後継とした候補者らを破り、圧勝したことが念頭にある。刷新や改革を負託されたはずだが、独善が目立つ現状は民意と真逆ではないのか。政治的責任の重さを省みるべきだ。
すし屋に入った客に板前がたずねる。「お酒ですか?」「いや、今日は食べるほうなんだ。アガリにしてくれ」。アガリとは飲食が「もうおしまい」の意味。お茶にあらず。〈すわったとたんにアガリとは…?〉と作家山口瞳さんが嘆いていた。この手の客は最後に決まって言う。「オアイソして」。店員が使う「お勘定」の符丁とも知らずに
◆そんな、値の張る店で人が変わる客ほどではないにせよ、胸に手を当てれば身に覚えがないではない。わけ知り顔で「これが正しい」と、つい尊大な口をきく。ちょっとした客あしらいの不手際も笑って受け流せない…
◆官公庁や企業で度を越したクレームや過剰な要求など、顧客からの嫌がらせ「カスハラ」が問題になっている。職員や従業員の名札に氏名表示をやめたり、電話を録音したりと知恵を絞る。それでも県内企業の対策はこれから。佐賀県が後押しに力を注ぐという
◆さまざま世にはびこるハラスメントは、コミュニケーションの不全が招くらしい。非正規雇用が増え、接客もマニュアル化されている時代である。顧客との距離が離れてはいないか、労働への敬意が薄れてはいないか、常に胸に問いたい
四面楚歌(2024年9月20日『長崎新聞』-「水や空」)
敗走の果てに立てこもった城壁。周囲を幾重にも取り囲んだ敵兵がある夜、ふるさと・楚(そ)の国の歌を歌い始めた。朗々たる歌声を聞いた項羽(こうう)は、自らの故郷までが敵の手に落ち、味方の兵たちが寝返ってしまったのだ-と悟る
▲孤立無援の状況をいう「四面楚歌」がこの故事に由来することはよく知られているが、“周りじゅうから敵の歌しか聞こえてこない”のは、よくある勘違いなので念のため。出典は中国の古典「史記」
▲斎藤氏は県議会を解散するか、自らが失職するかの選択を迫られている。ただ、議員もそれぞれに有権者の付託を背負っている。全ての県民から「お辞めなさい」と言われたに等しいこの事態は極めて重い
▲混乱の過程では氏の欲張りな態度や「おねだり」があれこれ報じられ、問題の所在が見えにくくなっているが、もともと問われていたのは不都合な内部通報を握りつぶし、告発者を追い詰めたトップの姿勢だ▲「よそ事」と言い切れない。どの自治体でも起こり得ることだ。だから、厳しい目と声が全国に広がっている。(智)
兵庫知事不信任へ 県民の意思に沿う判断を(2024年9月14日『熊本日日新聞』-「社説」)
兵庫県の斎藤元彦知事を巡り、県庁内のパワーハラスメントや各種の“おねだり”、補助金増額などの疑惑が文書で告発された問題で、同県議会の全86議員が、知事不信任決議案を提出する方針でまとまった。定例県議会初日の19日に共同提出する。決議案は可決が確実視され、斎藤知事は失職か県議会解散かの選択を迫られる。
これに先立ち県議会の全会派・議員は12日までに知事の即時辞職を要求していたが、斎藤知事は拒否した。不信任決議案の提出は、これを受けたものだ。
言うまでもなく、知事の進退は2021年の知事選で当選した斎藤氏のみが判断できることだ。一方で、半年に及ぶ兵庫県政の混乱、停滞は相当に深刻であり、県政運営の正常化は待ったなしの状況にある。
知事は、県議会が解散リスクも覚悟して提出する不信任決議案を、自らの責任として重く受け止めるべきである。過去の言動と真摯[しんし]に向き合い、県民の意思に沿う最善の判断をしてもらいたい。
これに対し斎藤知事は記者会見で文書を「うそ八百」などと強く否定した。県は内部調査を経て文書を誹謗[ひぼう]中傷と認定し、男性を懲戒処分にしたが、調査の中立性を疑問視する声が相次ぎ、県議会が6月に調査特別委員会(百条委員会)を設置した。
男性は7月に百条委の証言を前に死亡した。自殺とみられる。百条委は文書が挙げた疑惑に加え、男性に対する県の対応が、公益通報者保護法が禁じる不利益扱いに当たるかなどについて調査している。
公益通報者保護法違反の指摘についても、文書作成者の特定を指示したことは認めたものの、「誹謗中傷性が高い」「法的に問題ない」と反論した。ただし、一連の経緯を見る限り、斎藤知事の県政運営や言動が、県民の強い不信を招くものであったことは否定し難い。
知事不信任案は、県議の3分の2以上が出席し、4分の3以上の賛成票があれば可決される。その場合、知事は10日以内に県議会を解散しなければ失職する。地方自治法に基づく首長と議会の「チェックアンドバランス」の仕組みであり、失職への高いハードルはそのまま、有権者から負託された職責の重大性を表している。
斎藤知事は12日、「県政を担いたいと強く思う。政策を県民のためにしっかりやっていくことが大事だ」と、続投する考えを強調した。不信任案採決がどのような結果になるにしても、そこには兵庫県民の総意が反映されてほしい。
知事に辞職要求/県民の不信直視し決断を(2024年9月13日『神戸新聞』-「社説」)
兵庫県の元西播磨県民局長が斎藤元彦知事らを文書で告発した問題で、県議会の自民党、公明党、ひょうご県民連合、共産党の4会派は、無所属議員4人と共同で知事に辞職するよう申し入れた。維新の会も申し入れており、全議員86人が辞職を要求する極めて異例の事態だ。
厳しい立場に追い込まれた知事だが「出処進退は自分で決める」と辞職を否定している。新年度予算編成や阪神・淡路大震災30年を控え、県政の混乱と停滞をこれ以上長引かせるべきではない。知事は自らの言動や資質への批判を真摯(しんし)に受け止め、進退を決断せねばならない。
各会派は、知事が辞職に応じない場合、定例会開会日の19日にも不信任決議案を提出する構えだ。可決には議員の3分の2以上が出席し、うち4分の3以上の賛成が必要だが、辞職要求が県議会全体に広がったことで可決される公算が大きい。
可決されれば、知事は失職か県議会を解散するかの選択を迫られる。議会を解散しても、改選後の議会で不信任決議案が再提出され、出席議員の過半数が賛成すれば失職する。既に議会の信を失った状態で、新たな展望が開けるとは思えない。
知事は「文書は誹謗(ひぼう)中傷性が高い」と繰り返し、処分の正当性を主張する。だが当事者である知事が告発者を捜し、調査に関与することは公益通報者保護法の趣旨を逸脱している。参考人の弁護士は百条委で報道機関などへの文書送付を外部公益通報に当たると指摘し、一連の対応は違法状態だと断じた。
通報者保護を軽視した結果、人命が失われた責任は重い。県民の不信が極まる現状を直視するべきだ。「県民の負託に応えて県政を前に進める」と主張するなら、辞職して選挙で信を問うのが筋だろう。
権力者の自己正当化(2024年9月8日『中国新聞』-「天風録」)
おととい兵庫県議会の百条委員会を中継配信で見て、ある心理学の実験が思い浮かんだ。参加者を二つに分け、A班は他人に命令した経験を、B班には命令された経験を思い出してもらう。その後、自分の額にアルファベットの「E」を書かせた
▲すると、B班は9割弱が正面から見て正しく書けたのに、A班は左右逆になった人が3割強もいた。権力を持つ人は周りからどう見えるかを考えず自分中心で行動してしまう傾向を示す
▲さて、パワハラや補助金不正などの疑惑で内部告発された斎藤元彦知事はどうか。告発文書を公益通報と扱わずに、「うそ八百」と決めつけて作成者の特定を指示。当時の県幹部男性を割り出し、停職3カ月にした。疑惑を調査する百条委での証言を前に、男性は亡くなった
▲一連の対応は公益通報者保護法が禁じる「通報者捜し」や「不利益な取り扱い」に該当する可能性が高い。だが百条委で知事は「問題はない」と繰り返すだけだった。知事の説明と職員の証言の数々の食い違いも、先に紹介した実験の結果と重なる
▲権力者の自己正当化ほど、たちが悪いものはない。なぜなら、責任の取り方が分からないことと同義だからである
組織内の不正を内部から暴く公益通報者保護法の改正を求める意見書を日弁連が公表した。鹿児島県警や兵庫県知事を巡って同法の在り方が問われている。不祥事や犯罪を闇に葬らないためにも、良心に基づく内部告発をより活(い)かす法改正を求めたい。
公益通報者保護法は不正を告発した人が通報を理由に、解雇や降格など不利益な取り扱いを受けないために、2006年から施行された。鹿児島・兵庫の事例は、不正をただそうとした良心を踏みつぶしたのと同然である。こうした事態が起こらないよう法の抜本的な見直しが必要である。
特に二つの事例で共通するのは、「告発者は誰か」を探り当てる探索が組織を挙げて行われたことだ。法には「通報者を特定させるものを漏らしてはならない」と守秘義務が課され、「探索禁止」も指針で義務づけられている。
にもかかわらず「公益通報に該当しない」と独断で決め付け、拙速に告発者の処分に至った。これは通報者への不利益取り扱い禁止そのものに該当しうる。
秘密であっても公益通報なら違法性が阻却される論理だ。その法制化も必要であろう。
公益通報制度は公正な社会づくりに役立つ。不正について「信ずるに足りる相当の理由」があれば保護対象となるが、もっと分かりやすく国民への周知が必要だ。
幾重にも告発者を守る装置を考案して法改正につなげたい。そうしないと勇気を奮った告発も実を結ばぬ結果を招いてしまう。
兵庫知事と県政の混乱 これで職責果たせるのか(2024年9月5日『毎日新聞』-「社説」)
内部告発を聞き入れられなかった職員の命が失われ、県政の混乱も続いている。この状態で県トップとしての職責を果たすことができるのだろうか。
発端は県の幹部職員が3月、知事のパワハラなどを告発する匿名の文書を報道機関や一部県議に送付したことだ。知事はすぐに「うそ八百」と否定し、県は幹部を処分する方針を明らかにした。幹部は4月になって県の公益通報担当部署に同じ内容を通報した。
人事担当者は「公益通報の調査結果が出るまで処分はできないのではないか」と上層部に進言したが、知事の意向を受けた当時の総務部長から早期の対応を促されたという。処分ありきで手続きが進められていた様子がうかがえる。
県は5月に幹部を停職3カ月の懲戒処分とし、7月に幹部は死亡した。自殺とみられる。
百条委による職員アンケートに対して、約4割が知事のパワハラを目撃したり伝聞したりしたことがあると回答している。証人尋問でも告発内容と符合する証言が相次いだ。
知事自身もパワハラは否定しつつ、大声を出したことや勤務時間外にチャットで職員を叱責したことなどを認めた。告発が「うそ八百」だったとは考えられない。
内部告発で組織の問題が初めて明るみに出ることは少なくない。公益通報者保護法は、通報を理由にした不利益な扱いを禁じている。内部告発者が法的に保護されるのは、社会を健全に保つために必要な存在だからである。
これまでの県の対応が同法の趣旨に反しているのは明らかだ。
疑惑が浮上して以来、知事側近だった副知事ら3幹部が引責辞任したり、体調不良を理由に異動したりしている。円滑な県政運営にも支障が出かねない状況だ。
兵庫知事の疑惑 県政の混乱を収めねば(2024年9月3日『東京新聞』-「社説」)
兵庫県政の動揺が続いている。県局長だった男性が3月、斎藤元彦知事のパワハラなどを告発する文書を公表後に死亡して以降、疑惑は深まるばかりだ。先週、この問題で開かれた県議会の百条委員会で、知事は自らの言動は「合理的だった」とパワハラを否定したが、職員らの証言との食い違いは大きく、不当な人事処分への批判も強い。県政の混乱収拾のため知事としてどう身を処すべきか、真摯(しんし)に考えてほしい。
百条委では、新聞報道などを巡り部下を怒鳴った▽時に机をたたき、文具を投げつけたりした▽深夜や早朝にも、交流サイト(SNS)を使って指示した-といった職員の証言に基づき、知事の認識をただしたが、一貫してパワハラとは認めなかった。
局長だった男性の告発文は、パワハラのほか、企業への物品要求など7項目の不適切行為を指摘したが、知事は「うそ八百」と全否定。その後、男性は県の公益通報窓口にも通報したが、知事は調査結果も待たず、男性を停職処分とした。告発者への異動や解雇など不当な措置は法律で禁じられており、強引な事実の「隠蔽(いんぺい)」とみられても致し方ない。その後の男性の死は抗議の自殺ともみられている。今週の百条委ではこの問題で知事が再度、証人尋問される。
百条委によるアンケートでは、知事のパワハラを見たり、聞いたりした職員は4割近い。企業からの金品授受など他6項目の疑惑も「知っている」や「人づてに聞いた」が一定数いた。県職員労組が「もはや県民の信頼回復が望めない状況」として事実上、辞職を求めたのも無理からぬことだ。
知事は総務官僚出身で2021年に初当選し1期目。副知事は告発文の後、知事に5度も辞職を促したが聞き入れられず、自ら辞職した。百条委で部下とのコミュニケーション不足を指摘された知事は「人望より、いい仕事ができる態勢づくり」と述べたが、諫言(かんげん)にも耳を貸さない知事の独善的姿勢こそが問題の核心にも思える。
百条委は今後も尋問など検証を続け、年内にも報告書を取りまとめるが、知事への不信任決議案が議会で成立する可能性もある。県民は今、自分たちが選んだ知事がどう振る舞うか注視していよう。
兵庫県の斎藤元彦知事は県議会の調査特別委員会(百条委員会)による証人尋問に臨んだ。自身のパワハラ疑惑などを告発する文書を関係者に配布し、県の公益通報窓口に通報した元県幹部の男性を法的に保護される通報者として扱わず、停職の懲戒処分にした。男性はその後、死亡。自殺とみられ、処分の是非と告発内容の真偽が焦点だ。
尋問で斎藤氏は「文書に事実でないことが多く含まれ、誹謗(ひぼう)中傷性が高いと県として認識し、調査した」と処分の正当性を強調。パワハラ疑惑は認めなかったが、職員を強く叱責(しっせき)したことについて「当時の判断として適切だったと思っているが、振り返ってみれば申し訳なかった」と述べた。
百条委は職員に非公開の尋問を実施。人事当局が公益通報を理由に処分は待つべきだと進言したのに、斎藤氏側は聞き入れなかったとの証言を得ている。また全職員アンケートでは、4割近くが知事のパワハラを見聞きしたと回答。今後も斎藤氏や幹部、職員の尋問を重ね、処分の経緯などを詳細に検証して年内に調査報告書をまとめる。
各方面から斎藤氏に辞職を求める声が広がっているが、証言などの信ぴょう性を冷静に見極めたい。さらに20年前にできた公益通報制度の課題を整理し、見直しにつなげるべきだ。特に通報者保護の実効性を高めるため、制度改正を急がなくてはならない。
尋問で斎藤氏は男性について「一緒に仕事をした仲なのに、どうして、こういう文書をまいたのかという思いがあった」とも述べた。百条委は9月に入り、告発文書を公益通報として扱わなかった対応などを検証する。
公益通報者保護法は通報を理由とする降格など不利益な扱いを禁じるが、斎藤氏は窓口に通報する前の文書配布は「保護の対象外」と弁護士から助言され、内部調査を指示。県は5月に「根拠のない誹謗中傷」とし、停職3カ月の懲戒処分にした。これに調査の中立性を疑問視する声が噴出。百条委が設置された。
男性は7月に死亡。専門家から、通報窓口の調査結果を待つべきだったとの指摘が相次いだ。
告発直後、斎藤氏は「うそ八百」と非難したが、本当にそうなのか。百条委の尋問では、出張先で公用車を降り20メートル歩かされ怒鳴ったと、告発文書の内容と重なる証言が出た。ほかに、職員に文具を投げるのを見た-などの証言も複数ある。
斎藤氏が処分に前のめりになったのは否めないだろう。役所でも企業でも公益通報はリスクを伴う。とりわけトップの責任を追及しようとすると組織を挙げて「犯人捜し」が行われ、通報者は不利益な扱いを受ける恐れがある。
4年前の法改正で通報窓口の担当者に守秘義務が課され、漏えいに刑事罰も導入された。しかし兵庫県の問題を見ても分かるように、安心して通報できる状況には程遠いと言わざるを得ない。不利益な扱いに刑事罰を設けることなどを検討すべきだ。通報者をきちんと守ることができる仕組みを整える必要がある
兵庫知事の尋問 告発者の処分を急いだ理由は(2024年8月31日『読売新聞』-「社説」)
自身の疑惑を封じ込めるため、公益通報制度を 蔑 ないがし ろにしたのであれば、行政のトップとしてあるまじき行為だ。経緯を詳しく調べ、事実関係を明確にする必要がある。
知事はパワハラ疑惑について、「必要な指導だった」などと述べた。尋問は今後も続き、百条委は年末までに報告書をまとめる。知事は数々の疑惑について、県民が納得できる説明をすべきだ。
問題の核心は「公益通報制度」を巡る県側の対応である。県幹部だった男性は3月、知事のパワハラ疑惑など7項目の告発文書を報道機関などに送った。その後、公益通報制度に基づき、県の窓口にも同じ内容を通報している。
これに対し県は独自に調査を行い、文書の内容が事実無根で 誹謗 ひぼう 中傷にあたるとして、男性を懲戒処分にした。男性は7月に死亡した。自殺とみられている。
23日の証人尋問に出頭した人事当局の職員は、知事には「懲戒処分は公益通報に基づく調査結果を待たねばならない」と伝えていたのに、早期の処分を検討するよう指示があったと証言した。
批判されていた知事が、これで「風向きが変わる」と発言していたことも伝え聞いたという。
事実だとすれば、言語道断である。本来は守らねばならない通報者を不当におとしめ、処分することで保身を図ろうとしたのなら、知事の職にとどまり続けることなど、到底許されない。
大阪・関西万博の費用高騰などで逆風が続く維新には、共倒れを避けたい思惑もあるのだろう。
百条委が公表した全職員対象のアンケートでは、知事のパワハラを見聞きしたという人が4割に上っている。品格を疑わせるような数々の事例も書かれていた。
全てがパワハラに該当するかどうかはともかく、多くの職員が知事に不信感を持っていることは確かだろう。この状況で県政の円滑な運営を期待するのは難しい。
初尋問の兵庫知事 事態収拾へ進退判断せよ(2024年8月31日『産経新聞』-「主張」)
告発文書は、元県幹部の男性が報道機関などに配布した。その後、県の公益通報窓口に通報したが、県は調査結果を待たずに男性を懲戒処分にした。男性は「死をもって抗議する」とのメッセージを残して死亡しており、自殺とみられている。百条委による職員アンケートでは、約4割が斎藤氏のパワハラを見聞きしたと回答した。
斎藤氏の百条委での答弁では疑惑が解消したとは言い難い。公益通報に基づく調査の最中に県幹部の処分を行ったことについては「誹謗(ひぼう)中傷性の高い文書で、懲戒処分に該当する行為があった」と述べ、適切だったとの考えを改めて示した。公益通報者を守れず死に至らしめた責任は重い。
信頼を大きく失ったトップが県政を円滑に運営することは難しい。事態を収拾させるためにも、斎藤氏は自ら進退を判断するときではないのか。
斎藤氏の右腕だった副知事は辞職し、病欠の末に異動を申し出た幹部もいる。県職員労働組合や県職員退職者でつくる団体などは辞職要求もしている。
斎藤氏はこれまで、すべての疑惑を否定してきた。アンケート結果については「コミュニケーション不足で受け取りのずれが生じたことは残念」などと述べ、業務上必要な範囲での適切な指導だと主張してきた。
だが、その認識は周囲の声から著しく乖離(かいり)している。県内の全29市でつくる県市長会は、一連の対応を「不適切」だと断じ、早期の事態収拾を求める要望書を提出した。
百条委は真相究明を尽くすとともに、ハラスメント防止のルール作りにも取り組む必要がある。県と県議会は通報者を萎縮させない再発防止策を講じて初めて、県民のための県政運営が実現する。
この日はパワハラ疑惑についての質疑が交わされた。知事は反省や陳謝の弁は述べたが、告発内容については職員の証言と認識に違いもみられた。議員の追及も甘さは否めず、疑念が晴れたとは言い難い。
これに対し、知事は文書を「うそ八百」と非難して男性の役職を解き、内部調査だけで懲戒処分に踏み切った。男性は7月に死亡した。
告発文書では、知事のパワハラについて「県立考古博物館で公用車を降りて20メートルほど歩かされ、出迎えた職員らを怒鳴り散らした」などと記していた。現場にいた幹部職員はこの日、知事に先立って証言し、「理不尽な叱責(しっせき)を受けたという思いが今もある」と述べた。
これに対し知事は「大声は出したが、車の進入禁止エリアと認識しておらず、当時の対応としては適切だった」などと反論した。
百条委によると、職員アンケートでは約4割がパワハラを見聞きしたと回答している。23日の県職員への尋問では、知事が厳しく叱責したり、最高幹部に文具を投げつけたりしたなどの証言が出たとされる。
深夜や休日に会議用アプリのチャットで業務を指示するメッセージを繰り返し送ったとの指摘について知事は「やり過ぎた面はある。反省している」と答えたが、一連の言動がパワハラにあたるかどうかは「百条委の判断」と述べるにとどめた。
パワハラは深刻な人権侵害である。知事自身は認めていないが、多くの職員がその言動に精神的負担を感じていたのは明らかだ。証言はその点に無自覚というほかなく、猛省を求めたい。
この問題では、男性の処分が告発者の保護をうたう公益通報者保護法に違反する可能性があるとして、懲戒処分を先行した県の対応が問題視されている。議員から処分が妥当かと問われた知事は「真実相当性の確認できない文書で、適切に対応した」と改めて主張した。
長引く県政の混乱は県民生活に大きな影響を及ぼす。辞職を促す声が上がる中、知事は続投意向を崩さない。しかし現状のままでは、事態の打開は見込めない。疑惑と責任から逃げず、進んで真実を明らかにするべきだ。百条委もさらに調査を尽くしてもらいたい。
兵庫知事が百条委出席 責任、取り方はき違えている(2024年8月31日『中国新聞』-「社説」)
元県幹部らに告発された行為の一部は不適切だったと反省しつつ、パワハラかどうかは「百条委などが判断すること」と認めなかった。過去の記者会見と同じく、自らを正当化する主張も繰り返した。
百条委のアンケートでは全職員の4割に当たる1700人超がパワハラを見聞きしたと答えた。元県幹部ら2人が自ら命を絶ったことを鑑みても、知事の認識は甘過ぎる。
自らの言動で混乱を招きながら「県政を前に進める」と言い続けるのは理解し難い。責任の取り方をはき違えている。一刻も早く辞職して正常化を図るべきではないか。
告発されたパワハラの一つに、出張先で公用車を降りて20メートル歩かされた際に職員を怒鳴り散らした言動がある。百条委で知事は「当時は合理的な指摘だった」と説明。元県幹部が報道機関に配った告発文書も「誹謗(ひぼう)中傷性が高い」として、元県幹部への懲戒処分の正当性を改めて訴えた。
一方、休日や深夜に業務チャットを部下に送っていたことや、協議中に机をたたいたり、付箋を投げつけたりした行為などは不適切だったと認めた。パワハラと認定されてもおかしくない行為の数々には改めて驚く。
知事は「仕事は厳しくするのがスタイル」「職員に嫌われても県民のために」と釈明した。仕事熱心さが行き過ぎたとの主張だが、額面通りには受け入れ難い。職員アンケートや尋問で「業務に関係ない知事のわがままや機嫌に振り回される」との意見が多数あったと明かされたからだ。
その一例が、イベントに参加した知事が県民と同じ更衣室を拒み、別の部屋を用意させた行為だ。百条委では「安全上の理由」と説明したが、個人的な事情で職員を振り回した印象が拭えない。
元県幹部の告発を「うそ八百」と断じ、公益通報と認定する前に懲戒処分した問題や、県産品の「おねだり」疑惑について、9月5、6日に証人尋問がある。これほど疑惑をかけられる時点でトップの適性を欠くのは明らかだ。
知事は多方面からの辞職要求を拒み続けてきた。百条委でも「過去は取り戻せない」「これからはもっといい知事としてやっていきたい」と改めて続投に意欲を見せた。
しかし、こんな姿勢で県民や職員の信頼を取り戻せるとは思えない。県政の停滞をこれ以上放置すべきではない。即刻辞職した上で、それでも正当性を主張したいなら出直し選で信を問うてはどうか。
3年前の知事選で推薦した日本維新の会の責任も問われる。そろって推薦した自民党が早々と辞職要求したのに対し、維新は実態解明が先決と主張。百条委では追及する姿勢も見せたが、当初の擁護方針が知事の態度に与えた影響は大きかろう。
地域のハラスメント根絶に向け知事は率先垂範すべき立場だ。他の首長は他山の石とし、高圧的な言動は許されないと肝に銘じねばならない。
▼実際に、2年連続で最低ランクの評価を受け研修を経ても改善しなかったとして複数の市職員が後に、解雇に相当する分限免職処分となった
▼かねて裏金問題など不祥事が相次いでおり、大なたを振るった氏は称賛もされた。既に政界から退いたが、公務員の怠惰を許さぬ行革は今も維新の看板である
▼自治体職員の上に立つ首長に、維新は引導を渡すのか。パワハラなどの疑惑がある斎藤元彦兵庫県知事に対し、辞職を求めることもあり得ると維新共同代表の吉村洋文大阪府知事が踏み込んだ。県議会で今日ある斎藤知事の証人尋問の内容次第らしい
▼知事選で自民とともに斎藤氏を推した維新は「まずは真相究明」と静観していたが、大阪府箕面市長選で維新系現職が敗れ、兵庫の話が響いたと慌てたらしい。焦点は報道機関などにパワハラなどを告発した元部下を知事が「噓(うそ)八百を流した」と断じ懲戒処分にしたことの適否。告発つぶしを狙い不当に大なたを振るったなら、次なる刃(やいば)は当人に向かう
▼たとえば「忠臣蔵」で有名になった浅野内匠頭については「女色を好むこと切なり」とある。政治は大石内蔵助ら家老に任せきりだったようだ。「土芥寇讎」という言葉は『孟子』がその出典である。「殿様が家来をゴミのように扱えば、家来は殿様を親の仇(かたき)のようにみる」という意味だという。
▼さて令和の時代に至っても、殿様気分の知事が少なくないとの指摘もある。兵庫県の斎藤元彦知事は果たして県職員をゴミのように扱ったのか。いわゆるパワハラがあったのか。隠密ならぬ県議会調査特別委員会(百条委員会)による調査が続いている。30日には斎藤氏に対する証人尋問も行われる予定だ。
▼斎藤氏のパワハラ疑惑を文書で告発した男性職員は証人として出席するはずだったが、先月死亡しているのが見つかった。自殺とみられる。23日に公開された県職員アンケートによれば、回答した4568人のうち38・3%の1750人がパワハラ疑惑を、20・7%の946人が、視察先で贈答品を受領したとの疑惑を見聞きしたと回答していた。
▼百条委員会では事実を確認した上で、年内にも報告書をまとめる方針である。ただすでに県政の停滞は目に余るものがある。県職員の士気は低下するばかりだろう。今年度の兵庫県の職員採用試験では、一般事務職(大卒程度)の筆記試験の辞退者が4割にものぼった。むべなるかなである。
▼歌舞伎の名セリフのひとつが口をついて出てくる。「せ(す)まじきものは宮仕えじゃなあ」
<お中元やお歳暮のお菓子を独り占めする上司がいます>。ネッ…(2024年8月24日『東京新聞』-「筆洗」)
<お中元やお歳暮のお菓子を独り占めする上司がいます>。ネットの悩み相談にこんな訴えがあった
▼会社の部署宛てに届いた菓子。贈り主と交際がある人は職場に何人もいるのに、上司は菓子を丸ごと家に持ち帰り「お礼状書いといて」と命じると嘆く
▼斎藤元彦兵庫県知事も「独り占め」で白い目で見られているらしい。パワハラや物品要求といった知事の疑惑の調査で、県議会が職員に行ったアンケート。出張先で土産に用意されたカニを随行職員が固辞すると、知事は職員分も含め持ち帰ったと記す回答があった
▼カニ目当てで来るので関係者がもう来ないでほしいと言っている、との記述もあったそうだ。直接見ず伝聞で知った内容も書けるアンケートだが、事実なら格好悪い
▼カキも独り占めし自宅に運ばせる、生産現場で高級革ジャンをねだった、エレベーターが来ないと激怒するなどと訴えた職員たち。知事の告発文を3月に議員らに配った元幹部は懲戒処分され、死亡に至ったが、義憤を募らせる職員は多いのかもしれない
▼冒頭の菓子を巡る相談には「部署宛てなんで開けていいですか」と大声で聞く案が寄せられた。皆の前では拒みにくいというが、怖い上司相手には気がひける。贈り主への礼状に、お菓子は上司がありがたく自宅へ全て持ち帰っております、と書く案もあった。やはり最後は真実の暴露か…。
今月下旬から県議会の調査特別委員会(百条委)で、斎藤知事を含む職員らの証人尋問が始まる。告発内容の真相解明だけでなく、県の一連の対応についても徹底的に検証すべきだ。
斎藤知事は7日の定例会見で、時系列で対応を説明した。元県西播磨県民局長の男性が3月12日に報道機関などに送った告発文書を、斎藤知事が知人を通じて把握したのは同月20日だ。翌日に副知事らと対応を協議し、作成者の特定などの内部調査を指示した。副知事が男性から事情を聴くと、文書の作成、配布を認めたという。
公益通報者保護法は、報道機関に向けた通報も「不正があると信ずるに足りる相当の理由」などがあれば告発者を保護するよう定め、指針で告発者捜しを禁じている。斎藤知事は文書に「真実相当性はない」とし、公益通報に当たらないと判断したと説明したが、告発された側が判断する事案ではあるまい。
男性は4月、県の公益通報窓口にも通報した。しかし県は5月に男性を懲戒処分し、男性は「死をもって抗議する」とのメッセージを残して7月に死亡した。斎藤知事は、男性が県側の聞き取りに「噂話を集めて作成した」と話した―と主張している。だが、生前に報道機関に配布された文書には、情報の入手経路などの聴取はなかったと記されていた。
男性は、斎藤知事による職員へのパワハラなど7項目の疑惑を告発していた。斎藤知事は3月の定例会見で「噓八百」などと切り捨てたが、その後、一部が事実と判明した。
批判を受けて斎藤知事は、職員とのコミュニケーションの改善に取り組むと表明した。それは当然としても、告発者捜しを含む内部調査の指示などに問題はなかったのか。
疑惑解明にあたる百条委は対応を検証し、将来の通報者を萎縮させないような再発防止策につなげなければならない。
斎藤県政3年/県民の命と生活守れるか(2024年8月2日『神戸新聞』-「社説」)
兵庫県の斎藤元彦知事が就任から3年を迎え、1期目の任期満了まで1年を切った。
財政状況が厳しい中、人口減対策としての若者支援、大阪・関西万博を見据えた観光戦略などを掲げてきた。しかし知事らへの告発文書問題を巡り、最側近の片山安孝副知事が7月末で辞職し、知事肝いりの若者支援策担当の理事が体調不良を理由に降格を願い出るなど、県政の混乱は看過できない。
知事はこの3年を振り返り、知事選で掲げた公約の9割以上は着手もしくは達成したという。2024年度からは県立大授業料無償化など高等教育の負担軽減、不妊治療の支援、新婚・子育て世帯向け住居の提供などに集中的に取り組む姿勢を見せていた。
ところが3月、元西播磨県民局長の男性が知事のパワハラや企業からの物品受領などの疑惑を告発した文書が発覚し、初期の対応が問題視された。知事は会見で文書を「うそ八百」と否定し男性を解任した。男性は4月、県の公益通報窓口にも同じ内容を通報したが、県は内部調査で停職3カ月の懲戒処分とした。
男性は、県の調査では不十分として県議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)で証言する予定だったが、7月7日に死亡した。業務を理由に療養中と文書に記されていた元課長の男性が4月に自死したとみられることも明らかになった。
一連の問題を巡り知事は「批判は真摯(しんし)に受け止めるが適切に対応してきた」と繰り返す。疑惑の解明については「百条委や第三者委員会でしっかり対応していく」と語るばかりで、危機感が伝わってこない。本紙などの世論調査でも知事の説明に「納得できない」と答えた人が64・8%に上っている。
百条委は8月下旬から知事らへの証人尋問を本格化させる。言葉を尽くし、真実を明らかにすることこそ知事が強調する「県民の負託」に応えることではないか。百条委は真相究明とともに、公益通報を巡る県の対応も徹底検証してもらいたい。
県政の停滞は深刻だ。文書問題の対応に追われ、県庁全体が業務に集中できない状況が続く。以前から知事は県内市町との意思疎通を欠いていたと批判する首長も少なくない。
辞職を求める声が高まる中、知事は「県政を前に進めるのが責任の取り方」と続投意向を崩さない。しかし新年度の予算編成や災害対応など、県民の命と生活を守り抜く責務を全うできるかは疑問を抱く。
県民の信頼回復は、疑惑の払拭が大前提になる。それができないのなら、知事としての進退を自ら決するよう求める。
内部告発を真摯(しんし)に受け止めなかった組織の体質が、取り返しのつかない事態を招いてしまったのではないか。
元幹部は3月、匿名の告発文を一部県議や報道機関に配った。職員へのパワハラ、視察先からの贈答品受け取り、プロ野球の阪神・オリックス優勝パレードを巡る経費処理の不正など、斎藤知事を巡る7件の疑惑が列挙されていた。
斎藤知事は記者会見で告発文を「うそ八百」と否定し、県は元幹部を処分する方針を明らかにした。元幹部はその後、県の公益通報担当部署に同じ内容を通報した。
知事は告発文の「出張先で車を降りて20メートル歩かされ職員を怒鳴り散らした」との記述について、6月になってパワハラを否定しつつ大筋は認めた。視察先の企業からコーヒーメーカーを贈呈された疑惑に関しては、随行した県の部長が受け取っていたことが判明した。
にもかかわらず、県は元幹部に停職3カ月の懲戒処分を下した。
少なくとも通報があった時点で処分の手続きを中断し、事実関係を確認すべきだった。
県議会は県の対応に不信感を募らせ、調査特別委員会(百条委)を設置した。なぜ県の公益通報制度が機能しなかったのか。徹底的に検証しなければならない。
鹿児島県警では、内部文書を記者に漏らしたとして前生活安全部長が国家公務員法(守秘義務)違反で起訴された。前部長は「県警本部長が警察官の不祥事を隠蔽(いんぺい)しようとした」と訴え、公益通報だったとして裁判で争う方針だ。
内部告発者が法的な保護対象になっているのは、組織や社会を健全に保つために必要な存在だからだ。告発者が臆せずに通報できる体制の整備が求められている。
明治維新の1868年、開設間もない兵庫県庁で初代知事(官選)に起用されたのは伊藤博文だった。後に初代総理大臣(首相)となる伊藤は当時26歳。留学経験があり、神戸港がある兵庫で外国人と交渉できることからの人選とみられている▲46歳、若き知事の下で深まる混迷である。兵庫県の斎藤元彦知事によるパワーハラスメント疑惑などを告発する文書を作成した元県西播磨県民局長が亡くなった。自殺とみられる。真相究明に向け、県議会に置かれた百条委員会は検証作業に乗り出したが、斎藤知事の責任を問う声が広がっている
▲死去した元幹部は「(疑惑解明を)最後までやり通してほしい」とのメッセージを残していたという。深刻な内容を含む告発の事実関係が丁寧に検証されるべきだ
▲ただし、いたずらに混乱を広げたのは知事の初動である。告発を「うそ八百」と決めつけて「公務員失格」と非難し、公益通報と認めず懲戒処分にした。感情的な対応を元幹部はどう受け止めただろう。斎藤知事は「生まれ変わる」と続投に意欲を示すが、失われた尊い命は戻らない。自民党県連、労働組合、県職員OBなど辞任を求める声は強まる
▲師の吉田松陰から弟子時代に「周旋家」と評された調整力を伊藤は持っていた。初代知事の勤務は1年足らずだったが、それでもさまざまな足跡を残した
▲斎藤知事が3年で失った信頼は大きい。まさに「綸言汗(りんげんあせ)の如(ごと)し」。資質が問われるトップの「うそ八百」発言だったというしかない。
兵庫知事の疑惑 告発者をなぜ守れなかった(2024年7月20日『読売新聞』-「社説」)
告発は、知事の物品授受やパワーハラスメントなど7項目に及ぶ。これに対して知事は、すぐに告発の内容を「ウソ八百」と否定し、職員を幹部職から外した。
また県は、独自の内部調査の結果だとして文書内容を事実無根だと判断し、職員を停職3か月の懲戒処分にした。職員は7月、死亡した。自殺だとみられている。
公益通報者保護法は、通報を理由とした、通報者への不利益な取り扱いを禁じている。県は本来、職員を公益通報者として扱い、保護すべきだった。県の対応は保護法に反していた疑いがあり、不適切だったと言うほかない。
職員が処分を受けた後、県議会は、県の調査では中立性が保たれないとして、強い調査権限を持つ百条委員会を設置した。
一方、県も近く、知事の不正疑惑を改めて調査する第三者機関を設けるという。告発内容をしっかり精査することはもちろん、職員を一方的に処分した県の対応についても検証する必要がある。
都道府県はすべて公益通報窓口を設置している。ただ、窓口を弁護士事務所などの外部にも置いているのは29都道府県にとどまり、兵庫県も置いていない。市区町村に至っては、通報窓口がないところが3割近くにも上っている。
行政機関は、企業の不正を告発する際の通報窓口としても役割を期待されている。通報者が役所の内部か外部かを問わず、早急に窓口の整備を進めねばならない。
公益通報は不正の発見と是正につながる。制度の意味と必要性を、首長を含め、改めて認識し直さなければならない。
2022年に施行された改正公益通報者保護法は、企業や官公庁で不正を通報した人の保護を定めるが、十分に機能しているとは言い難い。通報者を確実に保護するための法改正を急ぐべきだ。
元局長は3月、匿名で知事らのパワハラや企業からの贈答品受け取りなどの疑惑を記した文書を一部の県議や報道機関に送った。
知事は内容を「うそ八百」と非難。県は元局長を特定して解任した。元局長は4月、県の公益通報窓口に通報したが、県は5月、停職3カ月の懲戒処分とした。
しかし、県による内部調査の中立性に疑問が生じたため、県議会は6月、調査特別委員会(百条委員会)を設置。元局長の証人喚問も決めたが、元局長は今月7日に音声データを残して死亡した。
同法は、組織内部での通報が困難な場合、報道機関など外部への通報も認める。知事は県の公益内部通報制度では受理していないことを理由に公益通報に当たらないと断じたが、誤った判断だ。
前部長は「県警職員の盗撮事件を本部長が隠蔽(いんぺい)しようとした」ことの告発だと主張する。
警察職員が絡む事件の捜査は本部長指揮が通例にもかかわらず所轄署に任せ、逮捕まで5カ月もかかるなど県警捜査の不自然さは否定できない。前部長の告発を公益通報とみなす余地は十分ある。
公益通報者保護法は通報者の不利益となることを禁じるが、通報者の約3割が不利益な扱いなどを受け、後悔しているという調査結果もある。
兵庫知事の疑惑 真相解明を急がなくては(2024年7月18日『新潟日報』-「社説」)
混乱は収まる気配がない。知事に向けられた疑惑の真相解明に県議会は尽力してほしい。公益通報制度に照らした県の対応の是非についても十分な検証が必要だ。
文書で指摘された疑惑は7項目あった。職員を怒鳴り散らしたパワハラや、視察企業からコーヒーメーカーを受け取ったことなどを批判する内容だった。
斎藤知事は「うそ八百」と疑惑を否定し、「うその文書を作って流すのは公務員として失格」として3月下旬に男性を解任した。
内部調査を進めた県は、「核心的な部分が事実でない」として5月に男性を停職3カ月の懲戒処分とした。文書の内容は根拠がなく誹謗(ひぼう)中傷に当たると認定した。
しかし調査の中立性を疑う声が噴出し、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置した。
衝撃が広がったのは今月7日、百条委に出席予定だった男性の遺体が見つかったことだ。自殺とみられている。12日には、側近の副知事が県政混乱の責任を取るとして辞職を表明する事態となった。
だが、根本的な原因が知事自身にあることは間違いない。県政の混乱と停滞を招いた事実を重く受け止めなければならない。
待たれるのは県議会の百条委による早急な真相解明だ。
男性は知事の発言の音声データや、百条委での質疑応答に備えた陳述書を用意していたことが、死後になって分かった。「百条委を最後までやり通して」との趣旨のメッセージも残していた。
男性を懲戒処分にした県の対応についても検証が求められる。
該当するとすれば、通報者への不利益な取り扱いを禁止した公益通報者保護法に違反する可能性がある。県議会はこの点もしっかり調べてもらいたい。
兵庫知事告発 疑惑隠しの不信拭えぬ(2024年7月18日『京都新聞』-「社説」)
自治体トップの不正を組織で握りつぶそうとしたのではないか-。渦巻く住民の不信感に真摯(しんし)に向き合わねばならない。
斎藤氏は告発を「誹謗(ひぼう)中傷」と断じた。文書を作成・配布した元県西播磨県民局長の男性は懲戒処分を受けた後、死亡した。
告発内容を裏付ける情報が相次ぎ表面化する中、斎藤氏の対応に批判が高まり、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設けて真相究明に乗りだした。
事態の責任を取るとして片山安孝副知事が辞表を提出したが、議会与党を含め県庁内外から知事の辞職を求める声が噴出している。
斎藤氏は「選挙で負託を受けている」と続投意向を崩さない。ならば自らの疑惑と責任から逃げず、進んで明らかにすべきだ。
男性が3月、県議や報道機関に配布した文書で告発したのは、過度のパワハラ、事業者からの物品の受け取りなど7項目に及ぶ。
これを斎藤氏は記者会見で「うそ八百」と強く非難し、局長からの解任を発表した。内部調査した県は5月、「核心的な部分が事実ではない」として男性を停職3カ月とした。
ところが、斎藤氏が出張先で公用車から20メートル歩かされただけで職員を怒鳴り散らしたパワハラ行為や、視察先企業から県側に物品提供があった事実関係が判明。県議会は強い調査権限を持つ百条委設置を決めた。男性は出席を予定していたが、自死したとみられる。
最大の問題は、組織内の不適切な問題を訴えた内部告発者を、なぜ守れなかったのかだ。
男性は告発文書の配布後、県の公益通報窓口に通報した。県はその調査中だったにもかかわらず、通報前の告発は「保護の対象外」とし、別の内部調査で処分した。
だが、県トップの不正・パワハラという性質上、男性が県通報窓口の問題対応を不安視して外部連絡したのは理解できる。
実際、処分につながった内部調査に協力した弁護士は、告発文書で知事のパーティー券購入に関与したと指摘された県信用保証協会の顧問だった。中立性が疑われる。
告発者をおとしめて知事の疑惑を組織的に隠そうとしたと言われても仕方あるまい。
再調査を行う県の第三者委員会と県議会百条委で、疑惑の全容解明とともに、告発者を追い込んだ対応の徹底した検証が必須だ。
組織内の不正の是正につながる内部告発は公益通報と呼ばれ、公益通報者保護法は通報した人に対する不利益な取り扱いを禁じている。犠牲者が出たことは痛恨の極みだ。県の初動対応に問題があったと言わざるを得ない。
男性は定年退職が間近に迫った3月中旬、「知事の違法行為について」と題した文書を作成し、匿名で報道機関や県議らに配った。文書には職員へのパワハラや複数企業からの贈答品の受け取り、選挙時の県幹部による事前運動など7項目が記載されていた。県は内部調査で男性の身元を特定。知事は会見で「うそ八百」「公務員失格だ」などと強い言葉で男性を批判した。
男性は4月に県の公益通報窓口にも同様の文書を提出したが、県は公益通報に基づく調査を進めず、人事課による内部調査だけで「文書は誹謗(ひぼう)中傷に当たる」と認定し、5月に男性を停職3カ月の懲戒処分とした。男性は今月上旬、死亡した。
知事は会見で、公益通報窓口への通報前の告発は保護の対象ではないとの認識を示した。だが、公益通報者保護法は匿名、実名にかかわらず、報道機関など外部への告発も保護の対象と定めている。男性の告発は当初から公益通報に当たるのではないか。男性が窓口に通報した後も県は懲戒の手続きを進めた。こうした県の対応に違法性はないのか、検証が求められよう。
告発内容について知事は当初、事実無根と否定したが、そう言い切れない事実も出てきている。県議が県職員対象に行ったアンケートでは複数の職員が知事のパワハラがあったと回答。一部の贈答品は県幹部が受け取っていたことも明らかになっている。
県の内部調査は不十分として、県議会は強力な調査権を持つ調査特別委員会(百条委員会)を設けた。これとは別に県は公益通報制度に基づく調査、さらに第三者機関による調査も行うとしている。まずは告発内容の真偽を明らかにすることが求められる。
ほかの自治体にとっても対岸の火事ではあるまい。公益通報者保護法に基づく通報窓口は多くの自治体が設置済みだが、窓口を設けるだけでなく、通報者保護の重要性など制度への理解が十分かどうか、首長をはじめ、職員は再点検する必要があろう。
記者会見で頭を下げる斎藤知事。自らの進退については「全力で県政を前に進めるのが私なりの責任の取り方だ」と辞職を否定した(12日、兵庫県庁)
告発内容の事実関係をはじめ、告発が保護すべき公益通報に当たらないのか、多くの疑問が残る。自治体では首長が非常に強い権限を持つ。だからこそ、公益通報の仕組みが十分に機能するようにしておくことは、公正な行政を担保するうえで重要だ。
元幹部職員は3月に知事に関する告発文書を配布した。内容は①知事選での投票依頼②事業者からの物品受け取り③度を越したパワハラ――など7項目からなる。県は内部調査で文書の核心部分が事実でないとして、元幹部職員を停職3カ月の懲戒処分とした。
疑問の一つは告発が公益通報に当たるのではないかという点だ。公益通報者保護法は通報先として企業や行政機関の公益通報窓口だけでなく、報道機関など外部への通報も認めている。公益通報に当たるなら通報者の不利益な取り扱いは禁じられる。
知事は4月の記者会見で「県の公益内部通報制度では受理はしていないので、公益通報には該当しない」と説明した。その後、元幹部職員は県の公益通報窓口にも同様の内容を通報した。県が懲戒処分に踏み切ったのはその後だ。当初から公益通報として扱わず、通報者に不利益な処分を下した県の対応に違法性はないのか。
県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置した。第三者機関による調査も行うという。告発の事実関係とともに県の対応の当否も検証してほしい。
元幹部職員が亡くなったことを受け、県職員労働組合が知事に辞めるよう求め、副知事も自ら退く意向を示すとともに知事に辞職を促した。異例の事態である。知事の対応が問われている。
県議会では、告発文書の内容を調べる調査特別委員会(百条委員会)が開かれているさなかで、男性は次回の19日に証人として出席する予定だった。
告発者の死亡という痛ましい事態に、県内外で波紋が広がっている。12日には県政の混乱や停滞を招いた責任を取るとして、片山安孝副知事が辞職の意向を表明した。
議会には告発内容について真相を明らかにするとともに、立場の弱い告発者を守れなかったのはなぜか、徹底した調査と真摯(しんし)な議論を求めたい。
発端は3月中旬、局長だった男性が告発文を報道機関や一部の県議に送ったことだった。職員に怒鳴るといった斎藤知事のパワハラや地元企業からの贈答品受け取りなど、7項目の疑惑について書かれていた。
これを受けて斎藤知事は「事実無根」「噓八百」と強く否定し、男性に対し「公務員として失格」などと非難した。県は役職を解くとともに、3月末の予定だった退職を保留した。
男性は今度は県の公益通報窓口に通報した。ところが県は内部の調査に基づき「核心的な部分が事実でない」とした上で、文書の中身は誹謗(ひぼう)中傷に当たるとして、3カ月停職の懲戒処分にした。
こうした対応に、調査の中立性に疑問符をつける声が噴出、県議会は6月に百条委を設置した。問題は、客観的な調査が行われる前に、男性に対する懲戒処分が下されたことだ。
片山副知事は斎藤知事の対応の悪さを批判し、知事に辞職を進言したことを明らかにしたが、知事は12日の会見で改めて自身の辞職を否定した。
兵庫県議会での百条委は実に51年ぶりという。関係者らの出席を求め、まずは公正かつ慎重に調査を進めるべきだ。議論を重ね徹底した真相究明が求められよう。そうでなければ、県政に対する県民の信頼を回復することはできない。斎藤知事にも誠実な対応を望みたい。
斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを告発する文書を、マスコミや一部県議に渡していた。
内容の真偽や意図について確認する必要はあるにせよ、県政運営に対する告発に踏み切った職員が命を絶った結果は重大である。
副知事が県政混乱の責任を取って辞職すると表明したが、知事こそが自らへの批判に真剣に向き合い、率先して事実を明らかにしなければならない。
退職を控えた3月に男性は行動を起こした。後に「後輩職員を思っての行動」と語っている。告発は7項目。知事は企業からさまざまな贈答品を受け取っている、気に入らないことがあると職員を怒鳴りつける―などだ。
知事はただちに男性の役職を解き、「業務中に『うそ八百』を含む文書を作って流す行為は公務員として失格」と全否定。内部調査のみで誹謗(ひぼう)中傷と結論づけ、5月に停職3カ月の懲戒処分とした。
ところがその後、県議が行った職員アンケートなどで告発が「うそ八百」ではないと裏付けられていく。贈答品の受け取りは別の県幹部が認めた。調査次第では贈収賄に問われかねない内容だ。こうした事態を受け、県議会は調査特別委員会を立ち上げた。
事実の解明とともにただすべき問題がある。男性が4月、県の公益通報窓口にも同様の告発文書を提出したのに、その調査結果が出る前に処分した県の対応である。公益通報者保護法が、通報者の不利益になる扱いを禁じているにもかかわらずだ。
そもそも、男性が外部への通報を優先したのはなぜか。鹿児島県警の元幹部が、県警トップの不正疑惑をメディア関係者に流し、逮捕された事件は記憶に新しい。共通して浮かぶのは、公益通報の制度が必ずしも機能していない実情ではないか。
消費者庁の調査がある。昨年度、勤務先の法令違反を知った場合に「通報・相談する」と答えた6割の回答者のうち、35%は外部を最初の通報先に選んだ。「適切な対応が期待できない」「人事や待遇で不利益な扱いを受けるおそれがある」との理由からだ。
男性は今月、県議会の調査特別委に証人として出席する予定だった。組織を正そうと覚悟を決めても、不利益から守られるか分からないようでは公益通報は絵に描いた餅である。犠牲を生む組織であってはならない。
人事など強大な権力を持つ行政トップが告発対象となった場合に、どのようにして告発者を守り、客観的な調査で事実を明らかにしていくか。それぞれの自治体が重いテーマに向き合う契機にしたい。
元幹部職員が作成した文書は、斎藤知事の職員へのパワハラや企業からの贈答品受け取りなど、7項目からなる。
保護法に基づく公益通報窓口は県庁内にあるが、元幹部職員は当初「信用できない」と避けた。制度はあっても、通報者が安心して窓口を頼れなかった実情が透ける。
斎藤知事は3月の会見で、「うそ八百」などと元幹部職員を厳しく批判し、職務を解いた。県の内部調査が始まる前の段階で、行き過ぎた言動だったのではないか。
元幹部職員はその後、公益通報の手続きをした。それにもかかわらず、県は内部調査を続け、懲戒処分を下したのは最大の疑問である。5月、文書を誹謗(ひぼう)中傷だと認定し、停職3カ月とした。
県は窓口への通報以前に非違行為があったとする。しかし、保護法の趣旨に照らせば元幹部職員の行動は当初から公益通報に該当していたのではないか。告発への報復と疑われてもやむを得まい。
告発の内容も「うそ八百」とは言い切れなくなっている。斎藤知事が20メートル歩かされたと職員を厳しく叱ったり、産業労働部長が地元企業からコーヒーメーカーを受け取ったりしたことが判明した。
元幹部職員は県議会の百条委員会への出席を前にした今月7日に亡くなった。以後も副知事が辞職表明するなど県政は混乱を極める。忘れてならないのは、斎藤知事自身の言動に端を発した疑惑であることだ。辞任しないというなら、公正な調査に基づき説明責任を尽くすしかあるまい。
3年前の知事選は、自民党勢力が斎藤知事と前副知事に割れる中、日本維新の会が斎藤氏を推薦し、初当選した。今もしこりを残す中、今回の問題を政局の道具にしてはならない。県議会は文書の真実性だけでなく、元幹部職員への県の対応が適切だったかも検証しなければならない。
他の都道府県も人ごとではない。庁外にも通報窓口があるのは昨年12月時点で29都道府県。兵庫や岡山、鳥取など4割は設置していない。2022年度に都道府県へ寄せられた計252件の通報のうち、是正措置につながったのは14%。調査の妥当性、客観性は果たして十分だろうか。
片山副知事辞意/知事は混乱の責任自覚を(2024年7月13日『神戸新聞』-「社説」)
兵庫県の元西播磨県民局長が作成した斎藤元彦知事や県幹部を告発する文書を巡る問題で、片山安孝副知事が責任を取り今月末で辞職する意向を表明した。片山氏は知事にも辞職を迫ったが「選挙で県民の負託を受けている」と断られたという。
2021年8月の知事就任後から支えた最側近が、辞職を迫った経緯まで公表する異例の事態だ。県庁内の混乱と職員の疲弊が極まっていることがうかがえる。これ以上の県政の混乱と停滞は許されない。県民の負託に今も応えていると言えるか、知事は真摯(しんし)に省みる必要がある。
問題を巡っては3月下旬、西播磨県民局長だった男性が、知事や県幹部らの言動を「違法行為」などと告発する匿名文書を報道機関や県議らに郵送していたことが発覚した。知事による職員へのパワハラや企業からの贈答品受け取りなど、7項目の疑惑が記載されていた。
これに対し県は男性を解任し、知事は文書内容を「うそ八百」などと非難した。ところが4月に県産業労働部長が、知事が視察した企業から贈答品を受け取り、後に返していたことが判明した。県は5月、文書について「核心的部分が事実ではない」とする内部調査結果を発表し、男性を停職3カ月の懲戒処分とした。
しかし県議会は、内部調査の客観性が疑問視されるとして地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置した。片山氏が最大会派の自民党に対し、自身の辞職と引き換えに百条委設置の議案を出さないよう求めたことも明らかになった。
男性は今月19日に証人として百条委に出席予定だったが、7日に死亡しているのが見つかった。県職員労働組合が事実上の辞職要求となる申し入れ書を提出したが、知事は辞職を否定した。片山氏も6月以降計5回にわたり知事に辞職を進言したが、拒否されたと説明する。
現場の業務遂行にも、大きな支障が生じている。本をただせば自らの言動が今回の混乱を招いた責任を、知事はどれだけ自覚しているのか。疑惑の真相究明と責任の取り方について明確に語るべきだ。
一方、男性が作成した文書には、片山氏が知事の政治資金パーティー券販売で商工会議所に圧力をかけたなどとする3項目の疑惑が記載されているが、片山氏はいずれも「事実ではない」と否定した。辞職しても、自らの説明責任は免れないことを肝に銘じてもらいたい。
知事が県民の不信と向き合い、言葉を尽くして納得を得ようとしているとは言い難い。きのう改めて辞職を否定したが、自らの政治姿勢に「ノー」が突き付けられた現状を、知事は重く受け止めねばならない。