防衛白書 中台緊張や露朝結託に備えよ(2024年7月18日『読売新聞』-「社説」)

 中国は台湾の新政権への威圧を強め、また、中国、ロシア、北朝鮮の軍事面での協力が深化しつつある。厳しさを増す国際情勢を踏まえ、政府は防衛力を強化せねばならない。
 2024年版の防衛白書が公表された。日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示し、ロシアによるウクライナ侵略と同様の深刻な事態が東アジアで発生する可能性は排除されない、と指摘した。
 特に強い危機感を示したのが、中国が台湾周辺で軍事活動を活発化させていることだ。
 今年5月に台湾で頼清徳総統が就任すると、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。演習区域には離島も含まれ、22年に当時のペロシ米下院議長が訪台した際の演習に次ぐ規模となった。
 白書は、こうした演習について「台湾侵攻作戦の一部が演練された可能性がある」と分析した。中国は頼氏を「台湾独立派」と敵視しており、今後も軍事的な圧力を高めることが想定される。
 台湾情勢の不安定化は、日本の安全に関わる重大な問題だ。自衛隊海上保安庁と連携を強化し、あらゆる事態に的確に対処できるよう、日頃から共同訓練を積み重ねる必要がある。
 白書は、北朝鮮が自国ミサイルの能力向上を図るだけでなく、ロシアに砲弾やミサイルを供与し、それがウクライナ攻撃に使用されたことにも言及した。
 6月には、ロシアのプーチン大統領が訪朝し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で、軍事面での協力を強化する新条約に署名した。ロシアは、北朝鮮にミサイル技術を提供しているとも指摘される。
 中国もロシアに武器部品などを供与しているとされ、北大西洋条約機構NATO)は今月、中国を非難する首脳宣言を発した。
 中露朝3か国の結託はウクライナ戦争を長引かせ、東アジアの安定を脅かす。日本は自衛隊の能力を高め、米国や友好国との連携を強化することが欠かせない。
 防衛省は来春、陸海空3自衛隊を平時から一元的に指揮する「統合作戦司令部」を創設する。米国も自衛隊との意思疎通や情報共有を円滑にするため、在日米軍の組織改編を検討している。実効性のある体制を整えてもらいたい。
 このような情勢下で、防衛省自衛隊で不祥事が相次いでいることには、重大な懸念を抱かざるを得ない。自衛隊の最高指揮官である首相以下、規律の緩みを徹底的に正すべきだ。
 
 
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防衛白書の表紙
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令和6年版防衛白書は、国家安全保障戦略などの三文書を踏まえ、増額した防衛予算を使って進めている「防衛力の抜本的強化」の進捗、すなわち、わが国の防衛力、抑止力が順調に強化されている様について、1年間での変化を丁寧に記述しています。
また、令和6年は、自衛隊発足70周年であるとともに、令和6年版防衛白書は、初版から数えて刊行50回目の節目となるものです。そのため、巻頭に、わが国を取り巻く情勢の変化と、それに対応できるよう歩みを進めてきた防衛省自衛隊の70年の歴史を防衛白書とともに振り返る特集を設けました。
加えて、本文中のコラムを充実させ、本文の内容を読者がより深く理解できるようにしました。
具体的には、「視点」というコラムを新たに設け、防衛研究所の研究者が、研究者個人の立場からより学術的な観点での分析を述べています。また、「VOICE」というコラムの数を大幅に増やし、より「人の顔が見える」、親しみやすい防衛白書となるよう心掛けました。
なお、今回の表紙は、「刀鍛冶」をコンセプトとしています。防衛省自衛隊は発足以来、「刀を抜かないために」必死で刀を鍛えてきました。すなわち、抑止力となる刀を鍛え上げ、わが国に対する武力侵攻を未然に防いできました。自衛隊発足70周年の節目にあたり、国家安全保障戦略などを踏まえ、わが国の防衛力、抑止力が順調に強化されている様と、今後もたゆまぬ努力を続ける決意を表現しています。