中国軍演習に関する社説・コラム(2024年5月25日)

キャプチャ
滑走路に入る中国軍の戦闘機。東部戦区が23日、軍事演習の一場面として「微博(ウェイボ)」で公開した =共同
 
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台湾北方の海域を航行する中国海軍の艦船=23日、台湾海巡署提供・AP
 
台湾周辺で中国軍演習 威嚇は地域の安定損ねる(2024年5月25日『毎日新聞』-「社説」)
 
 いたずらに軍事的な圧力を強めれば、東アジアの緊張を高めるだけだ。
 中国軍が台湾を取り囲むように大規模な軍事演習を実施した。台湾の頼清徳(らいせいとく)総統の就任を受けたものだ。軍は「『台湾独立』勢力への懲罰」と説明しており、習近平指導部の強い不満がうかがえる。
 中国本土に近い離島周辺も演習区域に設定し、海警局の公船も参加した。中国メディアは「台湾封鎖の新たなモデルに重点を置いた演習だ」とする軍事専門家の見方を伝えた。
 従来の演習については「厳重な警告」と表現していたが、今回は「懲罰」という強い言葉を使った。同じ民進党蔡英文(さいえいぶん)氏が総統に就任した際は、このような演習を実施していない。
 2022年にペロシ米下院議長(当時)が訪台した直後の演習では、弾道ミサイルを発射した。それに比べて抑制的なのは、米国を過度に刺激するのを避けつつ頼氏をけん制する狙いがありそうだ。
 背景には、頼氏の就任演説に対する反発がある。中台関係について蔡氏の路線を継承する形で「現状維持」を表明する一方、「中華民国中華人民共和国は互いに隷属しない」と主張するなど、毅然(きぜん)とした態度で中国と向き合う姿勢が目立った。
 中国は台湾との対話の条件として「一つの中国」原則の受け入れを求めてきた。頼氏の演説について、中台を別の国と見なす「二国論」と指摘し、「海峡の平和と安定の破壊者だ」と非難した。
 だが、威嚇こそ海峡の平和と安定を損ねる行為だ。台湾の人々の間でも、力による現状変更への警戒感が高まるだけではないか。
 対中融和路線の最大野党・国民党も「不必要な措置を停止し、両岸の平和発展の成果を大切にする」よう中国に呼び掛けた。
 将来の海上封鎖を視野に、中国は今後も同様の演習を実施する可能性がある。そうなれば米中の対立が先鋭化し、半導体の供給不安も招きかねない。
 ウクライナや中東で戦争が続く中、台湾情勢が緊迫する事態は避けなければならない。
 地域の安定に責任を持つ大国として、中国は威圧的な振る舞いを控えるべきだ。
 
中国軍の演習 国際的信用を損なう台湾威嚇(2024年5月25日『読売新聞』-「社説」)
 
 中国軍が台湾周辺海域で大規模な軍事演習を実施したのは、台湾の新政権に圧力をかける狙いがあるのだろう。
 だが、意に沿わないからといって武力による威嚇を繰り返しているようでは、中国の国際的信用は損なわれよう。
 演習には、陸海空軍と、弾道ミサイルを運用するロケット軍などが参加した。演習区域は台湾全体を取り囲むように設定された。台湾海域を封鎖し、台湾の海上輸送路や米国の支援ルートを遮断するという侵攻シナリオのようだ。
 台湾有事となった際に、中国が同様の作戦を実施する可能性もある。日米は、演習で示された中国側の艦船や戦闘機の運用実態を分析して、日本有事に備えた対応に生かすべきだ。
 中国軍機と駆逐艦は、架空の軍事目標を連携して攻撃する訓練を行った。多数の軍用機が、中台の境界となってきた台湾海峡の中間線を越え、台湾側に入った。
 中国軍機の中間線越えは常態化している。中国の習近平政権はもはや、中間線を存在しないものとみなしているとみえる。
 中国軍の報道官は演習の目的について、「台湾独立勢力を懲らしめ、外部勢力の干渉に厳重に警告するものだ」と主張した。
 台湾の頼清徳総統が演説で、民主主義を共有する日米などと協力する考えを示したことを指しているのだろうが、「懲らしめる」という乱暴な表現は、中国の高圧的な態度を世界中に印象づけた。
 中国軍が今後、頼氏の言動次第で弾道ミサイルの発射訓練などを行い、挑発をエスカレートさせることもあり得る。
 台湾の世論は、中台関係の現状維持を支持している。頼氏はそうした民意も踏まえ、中国に武力行使の口実を与えないようにすることが極めて重要だ。
 中国軍は今回、台湾が実効支配する金門島や馬祖列島も演習区域に含めた。離島の奪取が、中国の軍事作戦の重要な要素の一つであることを示したものだ。
 中国は尖閣諸島周辺でも領海侵入を常態化させている。日本は、離島への部隊配備を進めるとともに、自衛隊海上保安庁が連携して警戒を強める必要がある。
 中国の呉江浩駐日大使は、台湾問題で日本が「中国の分裂」に関与すれば、「日本の民衆が火の中に連れ込まれよう」と述べた。
 日中関係の安定に尽力すべき立場にある大使が、日本を脅すかのような発言をしたことに対し、政府が抗議したのは当然だ。
 
中国は台湾への軍事的な威嚇をやめよ(2024年5月25日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 中国軍が台湾周辺で2日間、軍事演習を実施した。「台湾独立をめざす勢力への懲罰」としているが、台湾を包囲するような軍事的威嚇は、いかなる理由があろうと許されない。
 台湾の頼清徳総統は20日の就任演説で中国との関係について、統一も独立もしない「現状維持」と明言した。これは総統選で示された民意である。
 頼氏は台湾と中国は互いに隷属しないとも述べた。中国は強く反発しているが、頼氏と同じ民主進歩党民進党)の蔡英文・前総統の時代から使われてきた表現の一つに過ぎない。
 今回の軍事演習をみると、中国の陸海空軍と核ミサイルを運用するロケット軍の演習地域は拡大傾向にある。台湾本島の北・東・南部のほか、離島の金門島や東引島を含む馬祖列島の周辺などでも演習したとしている。
 軍事演習には中国海警局の船舶も加わった。海警は、軍最高意思決定機関の中央軍事委員会傘下にある武装警察部隊(武警)指揮下に入っている。沖縄県尖閣諸島周辺にも出没する海警の新たな動きに注意を払うべきだ。
 中国軍は2022年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問した際も、台湾を包囲するように7日間、軍事演習をした。中国軍の弾道ミサイル5発が初めて日本の排他的経済水域EEZ)に着弾した事実は記憶に新しい。
 台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障上、極めて重要だ。インド太平洋地域の安定にも関わる。力による現状変更は許されない。軍事演習を終えたとしても、今後エスカレートする可能性がないのか、注視する必要がある。
 中国は言論面でも強硬姿勢を強めている。呉江浩駐日大使は、日本と台湾の関係に絡み、日本が「中国分裂」に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と述べた。台湾の総統就任式に日本の国会議員が出席したことも念頭にあるようだ。
 「日本の民衆が火の中に」という表現は、日本国民の感情を傷つけ、はなはだ不穏当だ。外交儀礼に反する威嚇と言わざるをえない。林芳正官房長官が「極めて不適切だ」と、直ちに抗議したのは当然である。
日本の国会でも問題視する動きがあり、今後の日中関係にも影響しかねない。中国には言動に慎重さを強く求めたい。
 
台湾包囲の演習 中国は粗暴な行動を慎め(2024年5月25日『産経新聞』-「主張」)
 
 中国軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。台湾の頼清徳総統の就任式が20日にあった直後の狼藉(ろうぜき)だ。
 台湾本島を取り囲む形で軍を展開しただけでなく、中国大陸に近接する金門島馬祖島周辺でも実施した。中国軍東部戦区は「『台湾独立』分裂勢力による独立を画策する行為への強力な懲戒」とする報道官談話を出した。
だが、頼政権は対中関係について現状維持を掲げ、対話を求めている。中国による台湾の人々への軍事的威嚇は決して認められない。
 米高官が「通常の政権移行を挑発的、威圧的な措置の口実に使うべきではない」と中国を批判したのはその通りだ。
 今回の演習には陸海空軍や、核ミサイルを管轄するロケット軍が参加した。中央軍事委員会傘下の中国海警局も動員した。頼氏の総統就任に合わせ、「台湾封鎖」の示威行動を準備していた様子がうかがえる。
 軍事演習で圧力を公然とかける粗暴な振る舞いを、中国は繰り返してきた。2022年のペロシ米下院議長(当時)訪台や昨年4月の蔡英文総統(同)の米国訪問などの際もそうだ。
 22年の演習では日本の排他的経済水域EEZ)内にも弾道ミサイルを撃ち込んだ。これでは北朝鮮とどこが違うのか。
 台湾海峡の平和と安定を維持するため、日本が米国やオーストラリアなどの有志国と連携し、抑止力の強化を図る必要性はますます高まった。
 日本では、中国の呉江浩駐日大使が台湾問題をめぐり、「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と発言したことが問題視されている。呉氏の発言撤回と謝罪があって然(しか)るべきだが、中国外務省報道官は「事実に基づいており、完全に正当で必要なものだ」と擁護した。