アジア安保会議 日米韓の役割は増している(2024年6月4日『読売新聞』-「社説」)

 北朝鮮の核・ミサイル開発や、中国の覇権主義的な動きは、アジアの安全を脅かしている。地域の安定を守るには、日米韓3か国がより連携を深めることが大切だ。
 インド太平洋地域の防衛担当閣僚や有識者が安全保障問題を話し合う「アジア安全保障会議」がシンガポールで開かれた。英国の政策研究機関が毎年、主催しており、今年は約40か国が参加した。
 各国の閣僚らが今回、演説などで主に取り上げたのは、台湾情勢や東・南シナ海問題だ。
 米国のオースティン国防長官は、中国を念頭に「現状をむしばみ、平和と安定を脅かしている」と指摘した。これに対し中国の董軍国防相は「台湾を中国から分裂させようとする者は必ず自滅する」と述べ、米国を 牽制けんせい した。
 中国は先月、台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。南シナ海では、領有権を争うフィリピンの船に、海警局の船が放水や衝突を繰り返している。地域の緊張を高めているのは、中国の独善的な振る舞いであることは明らかだ。
 木原防衛相は、オースティン氏、韓国の申源●国防相と会談し、サイバー、宇宙など新たな領域を含む3か国共同訓練を今夏初めて実施することで合意した。また、日米韓の政策協議や防衛交流を「制度化」することでも一致した。(●はさんずいに是)
 北朝鮮サイバー攻撃で暗号資産を窃取し、核・ミサイル開発の資金を賄っているとされる。日米韓で知見を共有し、サイバー犯罪を食い止めていきたい。
 日米韓の協力体制は、それぞれ国内の政治情勢に揺さぶられてきた。様々な防衛協力を制度化し、後退を防ぐことは重要だ。
 木原氏と申氏は個別の会談で、6年前、韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題について、再発防止策で合意した。日韓両国が、艦艇や航空機の衝突を回避するための国際行動規範を順守することが柱だ。
 韓国が今なお事実関係を認めないのは問題だが、北朝鮮が挑発を強める中、木原氏としては懸案に区切りをつけ、防衛交流の再開が必要だと判断したのだろう。
 会議に参加したウクライナのゼレンスキー大統領は記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略を中国が支援していると強調し、「戦略的な過ちだ」と語った。
 各国の要人がそろった場で、ゼレンスキー氏に名指しで批判された意味は重い。対露関係を見直さなければ、中国は国際的な信用を失いかねないと自覚すべきだ。