AI時代を見据え電力消費の分散促せ(2024年7月18日『日本経済新聞』-「社説」)

 データセンターや半導体工場の増加が電力需要を押し上げる(千葉県印西市のデータセンター)
 
 人工知能(AI)の活用や経済のデジタル化により、電力需要が増えるとの見方が強まっている。国内では2050年の需要は足元に比べて1〜4割程度増えるとの試算がある。
 需要の増加は安定供給と脱炭素の両立を一段と難しくする。AI時代の到来を見据え、電力を大量消費する拠点を、脱炭素電源である再生可能エネルギーが豊かな地域に分散させるべきだ。
 生成AIの普及、データセンターや半導体工場の増加による電力需要の増大は世界的な課題になりつつある。米グーグルはデータセンターでの消費電力の増加に伴い、温暖化ガスの排出量が4年間で約5割増えたと発表した。
 日本でも約20年ぶりに電力需要が増加に転じる見通しだ。東京電力パワーグリッドは、データセンターが集中する千葉県印西市周辺の送電線と変電所を増強した。
 増える需要に対応するには、まず脱炭素電力の供給力の増強が重要だ。一つは太陽光や風力など再生エネの適地を掘り起こす。さらに安全を最優先にしつつ、原子力発電の再稼働を着実に進める必要がある。
 電力需要の大きい都市と脱炭素電源に余裕がある地方を結ぶ連系線を整備するのも選択肢だ。ただ、これは災害などに備えて供給網の強靱(きょうじん)化につながる一方、巨額投資に見合う経済性が乏しいとの試算もある。
 ならば、データセンターや半導体工場といった大量に電力を必要とする施設そのものを、北海道や九州などの脱炭素電源の豊かな地域にもっと集めることを促してはどうか。
 時間によって出力が変動する太陽光や風力は使い方を工夫したい。余った場合は、それを使って水素をつくり、工場の熱源に利用する。あるいは蓄電池に蓄えて、供給が不足するときに放出すれば、供給を平準化できる。
 地方に関連産業を含めて新たな産業集積を築き、カーボンゼロエネルギーの地産地消の仕組みを整える。これは地域を振興し、脱炭素電源に限りがある都市の電力需要の軽減につながるはずだ。
 北海道ではラピダスの半導体工場や、データセンターの建設計画が相次いでいる。国や自治体は企業誘致へ税や補助などの支援体制を整えることが大切だ。脱炭素を新たな地域の活力を生み出すきっかけにしていきたい。