致死率が約30%にも上る劇症型溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染症も、その一つだ。
今年は6月末までに昨年同期比で2・7倍の1144人の患者が報告されている。過去最多だった昨年の941人を既に超えた。
溶連菌はありふれた細菌で、子どもの咽頭(いんとう)炎の原因となる。成人では、まれに皮膚の傷口などから体内に入り込み、手足の壊死(えし)や多臓器不全などが急激に進む「劇症型」の症状を引き起こす。発症の仕組みはよく分かっていない。
救命の鍵は、一刻も早い抗生物質投与による治療だ。手当てが遅れると壊死した手足の切断が必要になり、死に至ることもある。高熱が出て、小さな傷や虫に刺された部位が大きく腫れるような場合は、救急車を呼ぶなど迅速な受診が求められる。
昨年5月に新型コロナが感染症法上の5類に移行し、人の移動が活発化したことが、患者増加の背景にある。感染拡大が繰り返された約3年間、行動制限やマスク着用の徹底で、さまざまな病原体にさらされる機会が減った。それが病気への抵抗力を弱めたとも考えられている。
コロナに感染した人の免疫が、病原体の種類によっては働きにくくなっている可能性を指摘する研究者もいる。
インフルエンザのほか、子どもの風邪として知られるRSウイルス感染症やヘルパンギーナなどの患者も急増した。季節外れの流行も報告されている。通常は夏に広がる子どもの咽頭結膜熱(プール熱)が、昨年は秋から冬にかけて過去10年で最大の流行となった。
海外でも同じような状況が見られ、専門家は「今後数年は流行の予測が難しい」と話す。
一人一人の心掛けが、感染症対策の土台だ。手洗い、手指や傷口の消毒、換気、体調不良時の静養といった習慣を定着させたい。それが社会や経済への影響を、最小限に抑えることにつながる。