1日の遅れが生死を分ける「人食いバクテリア」による感染症 早期受診のために知っておきたい「かぜ」との見分け方 志賀隆・国際医療福祉大医学部救急医学主任教授(同大成田病院救急科部長)(2024年5月8日『毎日新聞』)

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 50代の男性が発熱し、救急外来に救急搬送されました。救急隊が接触した際には、40℃の高熱、心拍数は150回/分、血圧は低すぎて測れず、意識はもうろうとされていました。右足のすねのところが赤くなり一部は紫色になっていました。
 男性は搬送後、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症による壊死(えし)性筋膜炎」と診断されました。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、一般に「人食いバクテリア」とも呼ばれている特殊な溶血性レンサ球菌(溶連菌)による感染症です。今回は、徐々に増えているこの劇症型溶血性レンサ球菌感染症についてです。
壊死性筋膜炎はどんな病気?
 まず、壊死性筋膜炎についてご説明します。壊死性筋膜炎は、筋膜や皮下組織の壊死を引き起こす重症の皮膚や軟部組織感染症です。
 この感染症は、細菌が小さな傷や手術の傷など皮膚の障害のある部分から体の中に入ってくることで起きるとされています。そして、多くの場合、血液の流れが乏しい筋膜という筋肉の表面の膜に沿って進行します。最も重要なのは、「感染した部分をなるべく早く取り除くこと」なのですが、病気のはじめの頃には、皮膚まで影響が出ません。症状は、なんだか手や足が痛くて、高い熱がでるといった感じです。
 そのため、受診が遅くなったり、受診時に医師が診断できなかったりすることもあります。結果として感染した部分を取り除くのが、遅れることが多いです。
 進行してくると、感染は急速に拡大します。筋膜や筋膜周囲の感染を引き起こし、その上にある皮膚や軟部組織、また筋肉の下にまで感染が広がります。
 原因となる細菌は、溶連菌など1種類のこともあれば、複数の細菌であることもあります。劇症型溶血性レンサ球菌感染症による壊死性筋膜炎は、極めて進行が早いのが特徴です。ブドウ球菌による壊死性筋膜炎の患者さんの治療も経験しましたが、進行や重症化がそこまで早くありませんでした。
患者数は過去最多
 「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の発生は、米国のデータでは人口10万人あたり0.4人となっています。日本では2023年、患者数が941人となっています。この数字は、統計を取り始めた1999年以降、最多だった2019年の患者数を上回っています。また24年も3月17日時点の届け出報告数は517人(速報値)と、例年と比較して多い傾向が続いています。
 原因となる溶連菌は、喉に感染すれば喉の痛みや発熱などの症状がでる「溶連菌咽頭(いんとう)炎」を引き起こします。患者数の増加の理由ははっきりしませんが、これまでも患者数は少しずつ増加傾向だったことに加えて、新型コロナウイルス感染症の扱いが5類に緩和された後、「溶連菌咽頭炎」の感染が増加したことも原因となっている可能性があると考えられています。
発症した日に受診を
 「時間が全て」のため、「とにかく早めに受診していただきたい」というのが壊死性筋膜炎に対応する救急医からのお願いです。そのためには「壊死性筋膜炎の症状が、かぜなどとはどんなふうに違うのか?」をみなさんにご理解いただくしかないのではないか、と考えています。
 発熱がある患者さんが喉の痛み、鼻水、咳(せき)などがあって、食事も食べられるし、歩くこともできるという状態であれば上気道炎(かぜ)と考えることが多いです。