都知事選掲示板に「生後8カ月のわが子」のポスターを貼った男性の“懺悔” 「浅はかでした。今は離婚危機に陥っています」(2024年7月3日『AERA dot.』)

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男性が「ポスタージャック」した掲示板。画像を一部加工しています。(撮影/板垣聡旨)
 6月25日、AERA dot.は<都知事選『ポスター枠』を55万円で購入した男性 『生後8カ月のわが子』をポスターに掲載した理由>と題した記事を配信した。東京都知事選で物議をかもしている候補者の「ポスター枠」を実際に買った男性に意図を取材したものだが、記事掲載から2日後、男性から記者に電話があった。その内容は「ポスタージャックはやるべきではなかった」「浅はかだった」という後悔の言葉だった。なぜ男性は考えを改めたのか。何を後悔しているのか。改めて話を聞いた。
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「わが子」のポスターを剥がす男性はこちら
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 7月1日、都内ホテルのカフェで記者と対面した男性は泣きじゃくりながらこう話した。
「勝手に子どもの顔写真を使ってしまったことで、妻には『何てことをしてくれたの!』と泣いて怒られ、その後は口も聞いてくれません。子どもは無邪気に過ごしていますが、家庭は崩壊している状態です。今は子どもに作り笑顔で接するのがやっとです」
 愛知県在住の50代男性は6月、ある政治団体から東京都知事選候補者の「ポスター枠」を購入。経費含め、約55万円の費用を支払った。生後8カ月の息子の写真を使って「ダメ!一極集中。投票に行こう。東京を住みよい街に」という主張を書き込んだポスターを約900枚作成し、都内36カ所に掲示した。
■不適切な手段だった
 東京都知事選では、特定の政治団体が候補者のポスター掲示枠を事実上「販売」しており、いわゆる“売名”のために掲示板が利用されていることが問題視されていた。そこでAERA dot.では「ポスター枠」を実際に買った男性に接触。どういう目的なのかを取材すると、当時、男性は次のような主張をしていた。
「経済停滞、待機児童や出生率低下など多くの問題が東京一極集中に起因しています。それらを解消し、子どもたちの生活しやすい東京をつくってほしい」
「未来の子どもたちのためにも投票して(暮らしを)改善していこうというのが私の主張ですので、子どもたちの未来のために投票に行ってほしいという気持ちを込めて、わが子の写真を使いました」
 だが、記事が掲載された2日後、記者に男性から電話があり、「子どもの写真を掲載したポスターを貼ったことを後悔している」「ポスタージャックなどするべきではなかった」と後悔の念を語った。
 男性は掲示したポスターを全て剝がすことを決めたと言い、7月1日はそのために上京していた。そこで同日、都内ホテルで改めて男性に話を聞くと、冒頭のように泣きじゃくりながら後悔を語り出した。
「自己顕示欲とか記念づくりとかそういう考えは、全くありませんでした。より良い都知事選となるために、いい投票となるように、都民の皆さまに自分の主張を聞いていただきたいという思いが強くあったんです。ただ、そのためにポスタージャックに参加するという不適切な手段で伝えようとしたのは、極めて自分勝手な考えで、浅はかだったと思っています」
■離婚を切り出されたら諦める
 再取材した時点で、都内36カ所に掲示してあったポスターはすべて剝がしたという。そして、こう続けた。
「もし、妻から離婚を言い出されたら諦めようと思っています。しかし、もしこの状態を乗り切れたら、こんな頼りない夫を支えてくれた妻にも、まだ何もわからず遊んでいる息子にも、一生をかけて償っていきたいです」
 今回、改めて取材を受けたのは、いまだ「ポスタージャック」に参加している人たちに、自分の後悔を伝えたいという理由もあるという。
「ポスターの内容は公序良俗に反していないにしても、私はポスターを出してしまったことをとても後悔しています。世間の常識から逸脱した行いをして、愛する家族を悲しませてしまった……。だからこそ、(都知事選の掲示板での)ポスターを通しての主張はいま一度、考えるべきだと思っています」
 そして、最後にこう語った。
「投票に行っていただき、本当に都知事にふさわしい人を選んでほしいと思っていますし、一人の同じ日本人として、東京の皆さまのよりよい生活を願っているのは本心です。ただ、その手段が間違っており、家族や都民の皆さまにご迷惑をおかけしてしまいました。このたびは誠に申し訳ありませんでした」
 取材の最後には、男性の目は泣き腫らして真っ赤になっていた。
AERA dot.編集部・板垣聡旨)