本質が透ける選挙ポスター、有権者は厳しい目で(2024年6月24日『産経新聞』-「産経抄」)

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東京都知事選の空白のポスター掲示板=8日、東京都新宿区
江戸時代にはすでに絵ビラと呼ばれるポスターがあった。その歴史は古い。本質は広告でも選挙である以上、品性や知性が求められてしかるべきだろう。7月7日投開票の東京都知事選で選挙ポスターが物議を醸している。
▼品位のない掲示手法は論外だが、九州では投票を呼び掛ける選挙啓発ポスターが話題になった。こちらも同日投開票の鹿児島県知事選である。問題視されたのは「他力本願知事・ほかだよりひこ」という表現だ。
▼良くない知事の例として挙げたもので、鹿児島市本願寺鹿児島別院などが「他力本願の使い方が本来と違う」として強く抗議。これを受けた県選管は「人まかせ知事」に修正した。おやと思われた人もいるだろうか。平成14年に企業の「他力本願から抜けだそう」という新聞広告が騒ぎになったことがある。
▼元は仏教用語阿弥陀仏衆生を救いたいとする願い(本願)のことだが、転じて辞書に「他人の力をあてにすること」と列記されている。その意味しか知らず、日常的に使う人が多いのだ。当時も浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺)などが抗議し、最終的に「不勉強だった」と謝罪した。
▼当時、僧らが「大切な言葉だから何度でも声を上げ続けることが大切」と語ったのが印象的だった。実はそれ以前にも大臣や首相すら〝誤用〟した経緯があったからで、今回も鹿児島では「捨ておくわけにはいかない」と声が上がったという。結果的に本来の意味が社会に再認識されただろう。
▼翻って都知事選のポスターである。何を訴え、何を語らず、誰が誰を応援するか。眺めるほどに本質が透けてみえよう。SNSもユーチューブも同じことだ。有権者の皆さん、見抜く力がなくて何とする。