【定額減税のまやかし】年収500万円3人世帯で試算 物価高騰・増税・社会保険料アップで“減税12万円を上回る13万円の負担増”に(2024年6月10日『マネーポストWEB』)

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定額減税の裏で進む負担増を見逃してはいけない(岸田文雄・首相/時事通信フォト)
 支持率の低下に加え、今国会での解散見送りが報じられた岸田文雄・首相。窮地に追い込まれつつあるのはたしかだが、政権延命の野心はまだまだ捨てていないという。そのために岸田首相が必死でアピールするのが「定額減税」だが、その“嘘”に決して騙されてはいけない。
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“見せかけ減税”と言われる理由 「定額減税」よりも「社会保険料などの負担増」が上回る
電気代もガソリン代も上がる
「賃上げと所得減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」
 岸田首相はそう語って1人4万円の定額減税を6月分の給料で実施させ、企業に給料明細への減税明記を義務づけたうえ、政府広報や官邸ホームページで減税を宣伝しまくっている。
 だが、減税に隠れて増税社会保険料の負担増が進んでおり、物価高と重なって家計の負担は減税分以上に重くなることはどこにも“明記”されていない。
 本誌・週刊ポストは定額減税の裏で、国民負担がどれだけ重くなっているかを試算した。
 まずは増税と医療費アップだ。この6月から「森林環境税」が導入され、住民税に1人1000円が上乗せされて徴収される。医療費の窓口負担も6月から値上げされ、初診時が最大219円アップ。
「物価高騰対策」で昨年1月から行なわれていた電気代、ガス代の補助も5月で打ち切られ、6月分から値上げされる。
 値上げ額は標準世帯(月使用量が電気400キロワット時、ガス30立方メートル使用のケース)で電気代は年間約1万6800円、ガス代は約5400円上がる。これに太陽光発電などの再エネ賦課金の引き上げ(標準世帯で年間約1万32円)を加えると年間の電気・ガス代の負担増は合計3万2232円になる。
 ガソリン値上げも待ち受けている。
 今年4月が期限だったガソリン補助金は「大型連休前の値上げを避ける」と当面継続されているが、今年秋にも打ち切られるとの見方がある。マイカ保有の有無で家計への影響は大きく異なるが、総務省の家計調査の2人以上世帯の年間ガソリン購入量(2022年平均で約431L)で計算すると、補助金打ち切りでガソリン価格が1L=15円上がる場合は年間約6465円の負担増だ。
 長引く物価高騰による家計の負担増は非常に大きい。この6月以降も食品600品目以上の値上げが予定され、円安で物価高騰は止まらない。
 みずほリサーチ&テクノロジーズが今年3月に発表した調査レポート「長引く物価高で家計負担はどうなる?」では、物価上昇による食料、エネルギー、その他の家計の負担増を年収別に試算している。それによると、年収500万~600万円の世帯(平均約2.9人)では2024年度の1年間で7万3290円の負担増と試算している。
計算ずくのスケジュール
 さらに岸田首相が胸を張る「賃上げ」にも負担増がついてくる。
 今年の春闘は平均5.17%の大幅賃上げと騒がれているが、名目賃金が上がった分、給料から天引きされる税・社会保険料が増えるからだ。
 年収500万円のサラリーマン(ボーナス4か月支給)のケースで試算すると、5.17%賃上げになれば、給料が年25万8500円(月額約2万1542円)増える。それによって年金・医療・介護の保険料は合計年3万5856円もアップするのだ。
 国民にすれば、給料が増えても物価上昇に追いつかず、実質賃金は25か月連続で低下、生活は苦しくなる一方だ。そのうえ社会保険料負担がずっしり重くなる。
 掲載の図を見ていただきたい。
 年収500万円の3人世帯のこれからの負担増を積み上げると、年間ざっと13万円。それに対して3人世帯の減税額は合計12万円であり、差し引きは約1万円の負担増だとわかる。
 経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。
「電気・ガス料金の補助金打ち切りをはじめ、今年6月からの増税、医療費値上げなど数々の負担増は岸田政権がスケジュールを組んでいたものです。
 つまりこの6月から国民への大幅な負担増が実施される。それを隠すために、わざわざ定額減税を6月分の給料から集中的に実施させる。住民税は12か月間毎月払うものなのに、6月分だけゼロにして残り11か月間で払わせるなど小手先の誤魔化しも甚だしい。明らかに手取りを多く見せて負担増を隠すためです。
 国民は6月の給与明細を見て喜んでも、減税分がなくなる8月か9月分の給料からは社会保険料などの負担が急に重くなり、“おかしいな”と気づくはずです。岸田さんはその前に解散・総選挙をやってしまいたいと考えているのではないか」
 腹立たしいのは、岸田政権は国民に“見せかけ減税”で負担増を強いながら、自民党議員が派閥の裏金を自らの政治資金にする際の寄付金控除などはお咎めなしにするなど、やりたい放題を認めていることだ。
 こうした議員の“特権”を野放しにして、名ばかり減税で国民を誤魔化せると思っているとしたら大間違いなのだ。
週刊ポスト2024年6月21日号
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