あらゆる政策を総動員して賃上げの定着を図り、所得や生産性の向上につなげる。官民を挙げて投資を強化し、持続的な経済成長を実現する。これらが骨太で描く経済のシナリオである。
方向性は妥当だが、問われるべきはその実効性だろう。
労働市場改革や成長分野への戦略的投資などの骨太の政策には、かねて必要性が指摘されてきたものが多く、目新しさがあるわけではない。むしろ大事なのは、こうした積年の課題を今度こそ確実に解決できるかどうかである。岸田文雄政権にはそのための実行力を求めたい。
骨太は日本経済が過去30年の停滞から脱する「歴史的チャンス」にあると指摘した。春闘での賃上げを受けて日銀が異次元緩和を転換するなど経済の潮流は確かに変化しつつある。
一方で折からの物価高は家計を苦しめており、行き過ぎた円安が景気を下押しする懸念もある。その中で成長型経済へと移行するには、経済構造の転換を着実に果たす必要がある。
政府が特に重視したのが賃上げの定着だ。中小企業にも行き渡るようリスキリング(学び直し)による全世代の能力向上支援や、下請法を強化して人件費を取引価格に転嫁しやすくすることなどを明記した。物価高に賃上げが追い付かなければ豊かさを実感できない。企業の稼ぐ力を高めることも含めて取り組みを強めなくてはならない。
骨太は経済・財政・社会保障の持続可能性を保てるよう、人口減少が本格化する2030年代以降も実質1%を安定的に上回る経済成長を確保する考えを示した。かつての骨太で名目3%程度、実質2%程度を上回る成長が必要とされたことと比べると、慎重とはいえ現実的でもある。この成長率を少しでも上昇させられるよう、生産性向上などで潜在成長率を高める構造改革を徹底すべきである。
腰を据えた政策運営が求められるのは当然だ。岸田首相は21日に新たな物価高対策を示したが、足元の経済をテコ入れする対症療法を繰り返すばかりでは新たなステージへの移行も覚束(おぼつか)ないと認識しておきたい。