性犯罪歴の照会 子どもの安全確保を最優先に(2024年6月24日『読売新聞』-「社説」)

 子どもたちを性犯罪から守るため、新しくできた制度を適切に運用していくことが重要だ。
 教育現場で働く人を採用する際、雇用主が国に当人の性犯罪歴を照会できるようにする制度を盛り込んだ「こども性暴力防止法」が成立した。英国の制度がモデルで、「日本版DBS」と呼ばれる。
 学校や保育所などでは、教職員らの性犯罪歴を確認することが義務づけられる。学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者も、制度を利用できる。新規採用者だけでなく、現職者も対象となる。
 性犯罪を起こした教員が、再び教育現場でわいせつ事件で摘発されるケースが、これまで複数確認されている。最近は、大手学習塾の講師が多くの教え子を盗撮する悪質な事件もあった。
 新制度の創設は、子どもが卑劣な性犯罪に巻き込まれるのを防ぐための第一歩だと言える。民間事業者にとっては、制度に参加することで、保護者の安心につながるという利点もあるだろう。
 職員に性犯罪歴があるとわかれば、雇用主は、子どもと接点がない仕事に配置換えする措置を取らねばならない。解雇はできないのかなど、雇用主にとっては判断が難しい面もあるのではないか。
 国は、現場が混乱したり、 恣意しい 的な運用が行われたりしないよう、制度の運用方法について指針などで明確にすべきだ。性犯罪歴は極めて高度な個人情報である。情報の管理体制についても厳格なルールを定める必要がある。
 雇用主は、就業希望者に対し、過去に性犯罪を起こしていないかどうかを国に照会することを丁寧に説明することも大切になる。
 新制度では、性犯罪歴を照会できる期間を刑の終了から最長20年としたが、与党内からは「無期限とすべきだ」という声も出ている。また、フリーランスのベビーシッターや家庭教師などは個人事業主のため、照会の対象外だ。
 今回の法律は施行後3年をめどに見直すことになっている。その間に課題を洗い出し、より良い制度を目指してもらいたい。
 再犯の防止だけでなく、初犯を防ぐことも大事だ。そのための措置として、塾では防犯カメラの設置が進んでいる。職員への研修を徹底し、不審な言動があった場合には子どもや保護者が相談しやすい体制を整備してほしい。
 信頼していた大人から性被害を受けた子どもの心身には大きな傷が残る。これ以上、そうした被害を繰り返してはならない。