「銀行」でありながら…(2024年6月24日『毎日新聞』-「余録」)

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巨額の投資損失について、記者会見で説明する農林中央金庫の奥和登理事長=東京都千代田区で2024年5月22日午後4時14分、福富智撮影
 
 「銀行」でありながら、巨額の投資運用で「和製ヘッジファンド」の異名をとる。農林中央金庫は、全国の農協などから預かった約56兆円もの資金を主に海外で運用し、配当などで年間3000億円規模の利益を還元してきた。そんなビジネスモデルが曲がり角にさしかかっている
▲米欧での金利上昇の影響で保有する債券に2兆円超の含み損を抱え、今年度に1兆5000億円の最終赤字に陥る見込みとなった。米リーマン・ショック後の2008年度以来16年ぶりの赤字決算。JAグループに資本支援をあおぎ、運用体制を立て直すという
▲関係者からは「今回の方が事態は深刻」との声が漏れている。リーマン危機時はハイリスク・ハイリターンの証券化商品を大量に抱え失敗した。これを教訓に「安全資産」とされる米欧国債中心の投資戦略に切り替えたにもかかわらず、奏功しなかった
▲今後は株式などへの投資を増やす方針だ。だが、銀行に対する規制がかかり、本当のヘッジファンドのように運用できるわけではない
▲市場では「運用額を大幅に減らすのが賢明」と指摘されている。もっと余裕を持って運用でき、失敗しても損失額は限られる。そうできないのは、本業の農業関連事業で赤字に苦しむ農協の経営を利益還元で支え続ける必要があるからだ
▲「三度目の正直」とばかりに捲土(けんど)重来を期す農林中金だが、「二度あることは三度ある」とのことわざもある。農協とのいびつな関係を改めないままでは、先行き不安が否めない。