日本版DBS 明確な運用基準へ議論を(2024年4月11日『山陽新聞』-「社説」)

 子どもを性犯罪から守るための重要な一歩としなければならない。

 政府が、教師など子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」制度の創設法案を国会に提出した。今国会で成立させ、2026年ごろの制度開始を目指している。

 英国のDBS(前歴開示・前歴者就業制限機構)を参考にした。政府は当初、昨秋の臨時国会への法案提出を目指していたが、性犯罪歴の照会期間を刑の終了から10年とした点などが「不十分」と与党から批判され、先送りになっていた。

 当初の方針を修正した今回の法案では、照会期間を最長20年とするなど対策を強化した。対象となる犯罪歴は裁判所で有罪判決が確定した「前科」で、自治体の条例違反も含む。こども家庭庁が情報照会システムを構築し、雇用主が就労希望者や既に勤めている人の性犯罪歴を確認する。

 学校や認可保育所など、法律上、認可の対象となる施設は性犯罪歴の確認が義務となる。一方、公的な監督の仕組みが整っていない学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは国が設ける「認定制」の対象とする。参加は任意で、認定を受ければ従業員の性犯罪歴を確認する義務を負い、広告で認定事業者と表示できるメリットがある。

 日本版DBSは一度でも性犯罪を起こしたら子どもに接する職業に就けないとのメッセージになり、抑止力につながることが期待されよう。

 ただ、法案には抜け穴があるとの指摘がある。示談成立による不起訴処分や行政上の懲戒処分などは照会できないためだ。また、フリーランスのベビーシッターなど個人事業主は制度の対象外となる。

 性被害に遭った当事者からは、照会できる情報の対象や、性犯罪歴の確認を義務付ける職種を広げるべきだとの意見が出ている。

 法案に曖昧さがあるため、現場が混乱する懸念もある。法案では既に働いている人に性犯罪歴が確認された場合、雇用主は子どもと接触しない業務への配置転換などの安全措置を取る。難しい場合は解雇も許容され得るとした。性犯罪歴がなくても、子どもや保護者の相談を受け、「性加害の恐れがある」と判断されれば、同様の安全措置を取るよう雇用主に求めている。

 問題は、解雇が許容される基準や、「性加害の恐れ」に当たる基準などが明らかでないことだ。政府はガイドラインで示す方針だが、法の成立後になるという。運用基準を明確にするために、国会で議論を尽くしておくべきだ。

 子どもの安全を守るために一定の就業制限はやむを得ないとしても、性犯罪歴がある人が社会復帰を阻まれてはならない。再犯を防ぐ更生プログラムの充実や、子どもと接触しない仕事に就くための職業訓練やあっせんも同時に進める必要がある。