トランプ氏裁判、全34罪状に有罪評決 中林美恵子さんらとThink!(2024年6月1日『日本経済新聞』)

 

 

日経電子版「Think!」は、各界のエキスパートが注目ニュースにひとこと解説を投稿する機能です。5月24日〜31日の記事では、早稲田大学教授の中林美恵子さんが「トランプ氏裁判、全34罪状に有罪評決」を読み解きました。このほか「JR東、Suicaやクレカの会員ID統合へ」「北朝鮮偵察衛星打ち上げ失敗」といったテーマの記事に投稿が寄せられました。振り返ってみましょう。(投稿の引用部分はエキスパートの原文のままです)

「トランプ氏裁判、全34罪状に有罪評決」をThink!

トランプ氏裁判、全34罪状に有罪評決 大統領選に打撃(5月31日)
AP
 
トランプ前米大統領が自身の不倫の口止め料を不正に処理したとして罪に問われている裁判で、陪審団は30日、同氏を34件の罪状すべてで有罪とする評決を下した。判事が量刑を決める判決は7月11日に決まる。トランプ氏は控訴するとみられる。11月に控える大統領選への立候補は可能だが、再選に向けて逆風が強まりそうだ。米主要メディアが一斉に報じた。
 

中林美恵子さんの投稿】今回の裁判は4つの裁判で最も軽罪なので大きな影響にならないという見方もあるが、3月に会った私の元上司(および共和党重鎮)は、このニューヨークの裁判が最も大事と言っていた。理由は2つだ。第一に「誰にも分かりやすい」から。他の刑事裁判に比べて一般人に簡単に理解できるケースとのこと。第二に、他の裁判は、大統領の免責特権やら議会襲撃と前大統領本人との関係やら証明に困難なものが多い。よって審判は遅れに遅れ、おそらく大統領選前には進まない。つまり選挙前に評決が出るのは、この裁判ということ。それにしても、陪審員全員一致の今日の評決の早さに驚いた。証拠や証言が相当明快だった可能性がある。

「JR東、Suicaやクレカの会員ID統合へ」をThink!

JR東、Suicaやクレカの会員ID統合へ 5000万人経済圏に(5月27日)
JR東日本は2024年度末以降、グループの会員IDを統合する。交通系ICサービス「モバイルSuica(スイカ)」や共通ポイント「JREポイント」など20種類以上を集約し、鉄道や生活サービスに分散する累計5000万人規模のデータ基盤をつくる。鉄道収入の底上げが難しいなか、縦割りを崩したサービス開発を促して経済圏を拡大する。
D4DR社長 藤元健太郎さん
【藤元健太郎さんの投稿】東京に住んでいると生活に密着した様々な行動データを活用できる優位なポジションにJR東日本グループがいることは誰もが実感できるだろう。一方で私も昨日えきねっとのアプリが不具合で,一旦削除して再インストールし直してやっと新幹線の予約をした体験をしたばかりで使い勝手に課題は多いのも事実だ。高い信頼感を活かした情報銀行として個人情報を活用した利便性の高い交通,旅行,商業,エンタメを提供する最高の理想像を掲げていただき,そこに向けて情報基盤とUI/UXを最適化するDXを実現してもらえれば,たちまち日本のデジタルサービスのリーディングカンパニーのポジションになるポテンシャルは十分と言えるので期待したい。

北朝鮮偵察衛星打ち上げ失敗」をThink!

北朝鮮、偵察衛星打ち上げ失敗 沖縄に一時避難呼びかけ(5月27日)
共同
 
北朝鮮朝鮮中央通信は28日未明、国家航空宇宙技術総局が27日に軍事偵察衛星を打ち上げ、失敗したと報じた。1段階飛行中に空中爆発したと明らかにした。新しく開発したエンジンに事故の原因があると説明した。
CCSIアジア太平洋CEO、経済安保アドバイザー 竹内舞子さん
竹内舞子さんの投稿】今回は4年半ぶりの日中韓首脳会談の直後というだけでなく、米国のメモリアルデー、戦没将兵追悼記念日当日の打ち上げでした。もし今日、人工衛星打ち上げが成功していれば、大統領選を控える米国にとっては極めて強い挑発となったはずです。これまでも5月末は、2022年には日米豪印4か国(QUAD)の首脳会合直後、23年は米国メモリアルデーの翌日の夜に発射が行われていますが、それとは次元の違うさらに強いメッセージを込めた挑発といえます。

農林中金、無理を重ねた30年」をThink!

農林中金、無理を重ねた30年 JAへ還元3000億円の重荷(5月29日)
農林中央金庫が1.2兆円規模の資本増強に踏み切る方針だ。米金利の高止まりで保有債券の収益が悪化。含み損の処理などで2025年3月期に5000億円超の最終赤字に陥るためだ。最高益を更新する他の大手銀行と対照的に巨額の資本増強を迫られる姿は、JAグループを背負って無理を重ねた30年間を象徴している。
東京大学理事(CFO)菅野暁さん
【菅野暁さんの投稿】グローバルな金利上昇局面でリスク管理が十分でなかったことから大きな損失を出したことについての問題は当然ありますが、一方でJA全体の事業構造も大きな問題だと考えます。農協のビジネスモデルが本来の農業のサポート業務では収益があげられず、保険販売等の金融収益に頼っており、厳しい収益状況の中で農林中金から系統への高いレベルの還元が構造的に組み込まれていたのではないかと思います。しかしこれが、マイナス金利の状況では実現困難な金額であったことが、今回の損失の真因だったのではないでしょうか。周期的に大きな損失を計上するのは、JA全体の事業構造のしわ寄せが農林中金にきていることも大きな理由であると思います。

イスラエル軍、ガザ・エジプト境界を全域制圧」をThink!

イスラエル軍、ガザ・エジプト境界を全域制圧(5月30日)
ロイター
 
イスラエル軍は29日、パレスチナ自治区ガザとエジプトの境界地帯全域を制圧したと発表した。ガザとエジプトをつなぐ地下トンネルを掌握し、ガザへの武器密輸を阻止すると主張した。境界地帯ではイスラエル軍とエジプト軍の銃撃戦が発生し、緊張が高まっている。
東京大学先端科学技術研究センター教授 池内恵さん
池内恵さんの投稿】イスラエルは、1978年のキャンプデービッド合意と翌年の平和条約締結によりアラブ世界で最初に対イスラエル和平に踏み切ってくれたエジプトとの関係を危機に晒している。イスラエル側は、表向きの批判とは別にエジプト治安当局との水面下での秘密の意思疎通はできていると主張して、エジプトなど友好国からの批判に向き合わない傾向が強くなっているが、友好国をいわば裏表のあるいわば「嘘つき」として扱って得られる外交的利益は少ない。またエジプトが民主主義や世論を治安当局が圧殺できる国家であると前提にしているが、軍の一般兵卒の離反といったエジプトの体制を揺るがしかねない緊張を隣国にもたらしていることへの自覚に乏しい。

「埼玉県滑川町『消滅しない町』の20年戦略」をThink!

埼玉県滑川町「消滅しない町」の20年戦略 子育て支援結実(5月28日)
埼玉県滑川町をご存じだろうか。同県中部に位置する小さな自治体だ。東京の池袋駅(豊島区)から東武東上線で約1時間。この町がいま「人口が安定し、100年後も消滅しない町」として注目を集めている。支えるのは若い世代の流入・定着だ。全国に先行して約20年前に導入した子育て支援が実りの時を迎えている。
同志社大学大学院ビジネス研究科 准教授 奥平寛子さん
【奥平寛子さんの投稿】この事例の秀逸さは、子育て支援施策を単なる自治体間の補助金合戦に終わらせなかった点にあります。新たな分譲住宅地の開発によって、東武鉄道の立場からすると鉄道利用者も増えて嬉しいでしょうし、町の立場からは子育て世代と税収が増えます。まさにウィン・ウィンの結果ですね。子育て支援策も、こうした民間企業の戦略と補完的になるように進めるのが効果的といえそうです。