日本型ライドシェア 地域の足守る議論さらに(2024年6月24日『毎日新聞』-「社説」)

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ライドシェアの開始に向けて取り付けられた表示板=福岡市南区で2024年6月12日、吉田航太撮影
 住民の足を確保するために、多様な公共交通のあり方について議論を深める必要がある。
 マイカーで顧客を運ぶライドシェアの「全面解禁」について、政府が結論を先送りした。海外のようにIT企業の参入を認めるかどうかなど、さらなる規制緩和を巡って賛否が分かれているためだ。
 コロナ禍でタクシー運転手の不足が顕在化したことを受け、議論を進めていた。4月以降、タクシー会社が運行主体となる「日本型」のサービスが東京などで始まったが、地域や時間帯は限られる。
 経済界には、運転手不足の緩和や雇用創出につながるとして全面解禁を求める声が根強い。
 過当競争を恐れるタクシー業界は反対しており、国土交通省も慎重な立場だ。過去に参入規制を緩和した結果、賃金にしわ寄せが及んだ苦い経験がある。
 ただ、人口減少下、人手不足は深刻な社会問題だ。マイカーが主体の地方でも、高齢化で免許返納が進めば公共交通の利用は増える。新たな技術の活用やビジネスモデルの刷新で乗り切る取り組みが求められる。
 スマホのアプリでタクシーを呼ぶサービスは広がっている。海外でライドシェアが普及し、危機感を持った業界が改革を進めた。
 全面解禁に課題が多いのは確かだ。飲酒チェックを含む体調管理や事故対応、車両整備などを巡り、事業者と運転手の責任を明確化することが欠かせない。
 とりわけ懸念されるのは運転手の待遇である。規制緩和が進めば、個人事業主として業務を請け負う形態になると想定される。働く時間を選べる一方、労働者として守られない可能性がある。飲食宅配やネット通販では、配送運転手の過重労働や突然の契約打ち切りが問題になっている。
 欧米では、最低賃金の適用を認めるなど働き手の保護を強化する動きがある。先行事例の課題や対策、国内の利用状況を検証し、より良い制度とすべきだ。
 自動運転など新技術の開発が進み、公共交通は過渡期にある。顧客は多様な選択肢からサービスを選ぶことができ、運転手や事業者は新たな雇用や成長の機会を得る。そうしたビジネスモデルの構築に知恵を絞る時だ。