NHKネット配信 テレビ契約済みなら無料、ただ乗り抑止を模索中 必須化で何が変わる?(2024年6月20日『産経新聞』)

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NHK番組のインターネット配信を従来の「任意業務」からテレビ、ラジオ放送と同じ「必須業務」とする改正放送法が5月、国会で成立した。NHKはこれに基づくネットサービスを令和7年度後半に始める方針で、稲葉延雄会長は「歴史的な転換点だ」と述べ、ネット上に質の高い情報を提供したいと意気込む。NHKのネットサービスは「NHKプラス」などが既にあるが、必須業務化で何が変わるのか。今後の検討課題は何か。現時点での情報をまとめた。
配信対象と受信料
法改正によってネット配信が必須業務となるのは、地上波テレビと地上波ラジオ、国際放送。BS放送は権利処理やコストの問題から、当面の間は見送られる。地上波も同じ理由で米大リーグ中継など一部は除外される。配信は放送終了後も7日間をめどに一定期間、続けられる。
テレビと同一サービスを提供することになるため、ネットのみで番組を視聴する人にも受信料の支払いを求める。地上波契約(月額1100円)と同水準になる見込みで、すでにテレビを設置して受信契約を結んでいる世帯は対象外だ。
小池英夫専務理事は「同時配信はNHKプラスのような形で提供する」と説明しており、アプリのダウンロードやログインIDの取得などをした人が受信契約の対象となる。テレビと違い、スマートフォンやパソコンを持っているだけでは支払い義務は生じない。
番組記事が市場に影響
今回の改正では、番組関連情報の配信も義務付けられた。ニュースや特集などの番組内容を文字にした記事をウェブサイトに掲載するほか、ヤフーなど外部プラットフォームへの配信も想定される。
この場合、配信先では受信契約がなくとも閲覧できるため、NHKは受信契約を呼びかける掲示などを検討している。小池氏は「ただ乗りの抑止は重要だが、具体的な認証方法はまだ示せない」としている。
一方、放送された以外の取材内容も含んでいた「NHK政治マガジン」などは、今年3月に更新を終了した。
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NHKのネット業務の広がりに対し、名古屋大大学院の林秀弥教授は総務省の会合で「主要ポータルサイトに配信されるとページビューは増加すると考えられ、市場競争への影響は無視できない」と指摘。メディアの多元性や言論の多様性を維持できるのか、懸念の声は少なくない。
日本民間放送連盟の遠藤龍之介会長は14日の定例記者会見で「番組関連情報で何をやるのかがあいまいだ。(公正な競争に支障が生じないよう)民放や新聞社の話を聞き丁寧にくみ取ってほしい」と要望した。
9~10月めどに業務規定
今後、NHKは9~10月をめどに、ネット配信に関する業務規程を作成する。番組関連情報を提供するサイトの名称とその内容のほか、外部プラットフォームや交流サイト(SNS)にどの範囲まで提供するのかといった業務の中身を、具体的に盛り込む方針だ。
作成の際、市場調査を実施した上で、学識経験者やメディア関係者を含めた会議体を設け、公正な競争が阻害されないかなどの観点から意見を聞く。ネット業務の枠組みは令和7年度予算に反映される。これまでネット関連業務の予算は200億円の上限が設けられていたが、上限の撤廃が検討されている。
そもそも、なぜNHKのネット配信を必須業務化する必要があったのか。
稲葉氏は、偽情報が蔓延するネット空間に「健全な民主主義の発達に寄与するため、信頼性の高い情報を安定的に提供したい」と公共放送の責務を強調する。一方で、人口減少やテレビ離れで受信料収入の減少が続く現状にあって、ネット受信料という新たな収入源は、NHKの将来に欠かせないものとみられている。
いずれにしろ、受信契約の義務を負う国民が納得できる制度やチェック機能を実現できるのか、サービス開始までに乗り越えるべき課題は少なくない。(大森貴弘