春ドラマはキー局ほぼ総崩れ 準キー局、ローカル局の下剋上時代に突入か(2024年6月8日『Yahooニュース』)

武井保之ライター, 編集者
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今期No.1話題作『アンメット ある脳外科医の日記』関西テレビ放送公式サイトより
春ドラマが続々と最終回を迎えている。今期の見応えがあったドラマ、ストーリーやクリエイティブに引き込まれたドラマといえば、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ)、『約束 ~16年目の真実〜』(読売テレビ)、『滅相も無い』(毎日放送)、『季節のない街』(テレビ東京、ディズニープラス)、『VRおじさんの初恋』(NHK)、『おいハンサム!!2』(東海テレビ)などが挙げられるだろうか。
振り返ると、キー局のゴールデンタイム枠ドラマがない。ここ最近、話題作を毎期送り出していたTBSからも、ひねりの効いた刺さるドラマで存在感を示していた日本テレビからも、ワンクールを通してSNSやネットをにぎわす話題作がなかった。
一方、対照的に準キー局ドラマが豊作だった。巧みなストーリーテリングの作品作りで定評がある“ドラマのカンテレ”のほか、若い世代向けのチャレンジングなドラマ作りに積極的に臨む読売テレビ毎日放送も、尖った作風で存在感を強めている。
ローカル局でも、ドロドロ愛憎劇でブランドを確立している東海テレビは、前期の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』に続いて、今期も期待通りの良作を出してきた。東海テレビといえばドキュメンタリーに定評があるが、ちょっと笑えて心温まる良質な人間ドラマでも、キー局、準キー局に勝るとも劣らぬ制作力を示している。
生き残りをかけた準キー局のドラマ施策
今期が象徴しているのは、ドラマ界の下剋上だ。時代の荒波に揉まれるテレビ業界は、この10年の過渡期において、時代に即した業態への変容と進化に取り組んできた。
そんななか、キー局でも厳しい経営環境に置かれたなか、まさに存続の危機に瀕した準キー局ローカル局は、テレビ局の本分である制作において、生き残りをかけた改革を行ってきた。
そのなかでも最注力したのが、社会への影響力があり、作品によっては大化けするポテンシャルを持つコンテンツであるドラマだ。配信によって従来のような煩雑な手間がかからず海外からの収益を上げる環境が整ったことも背景にある。
そもそも予算がかかるドラマだが、制作費の大小に関わらず、ヒット作は生まれる。もちろん制作費が大きいほうが作れる作品の幅や選択肢は広がる。しかし、それだけがすべてではないのが、クリエイティブの世界のおもしろさだろう。今期の『滅相も無い』がそれを如実に示している。 

 

 

そうした準キー局などの取り組みの成果は、ここ数年でじわじわと表れていた。SNSで話題になったり、新しさを感じさせる深夜枠ドラマが少しずつ増えていると感じる人も少なくないことだろう。
キー局の多くが従来の“地上波テレビドラマ”を作り続けるなか、準キー局ローカル局はテレビドラマ制作から脱却し、世界に通用するような、テレビを見ない人にも届くドラマを制作するべく、挑戦を繰り返しながらクリエイティブを磨いてきた。
そこからは、ありがちなテレビドラマの様式とは異なる、悪役に正義の動機があるわけでもなく、ラストで丸く収まるわけでもない、予定調和ではないドラマが生まれているように感じる。
そのチューニングが時代の流れとうまくはまって、世の中の空気や視聴者の嗜好を捉えたのが今期ではないだろうか。
リアルタイムでドラマを視聴する人が減っているなか、制作がキー局、準キー局ローカル局かは、もはや視聴者にとって関係ない。そこで価値があるのは、興味関心に刺さるドラマか、感情を揺さぶられ心を動かされるドラマか、おもしろいドラマか、だけだろう。
ドラマ界は下剋上の時代に入っている。