失った視聴者の信頼を取り戻すことができるか。公共放送のお目付け役としての手腕が問われる。
新しいNHK経営委員長に、古賀信行・野村ホールディングス名誉顧問が就いた。任期満了で退任した森下俊三氏の後任だ。
経営委は最高意思決定機関である。予算をチェックするほか、業務執行のトップである会長の任免権を持つ。
古賀氏は大手証券出身で、経団連ナンバー2の審議員会議長も務めた。今月、経営委員に就任し、互選で委員長に選ばれた。
視聴者の受信料に支えられているNHKは公共性が高い。経営委はジャーナリズムの理念を理解することが欠かせない。
前任の森下氏は経営委員を3期9年、うち委員長を約4年務めた。だが、在任中に問題が噴出し、資質に疑問符が付いた。
2018年にかんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡って、経営委は日本郵政グループの抗議に同調する形で、当時の上田良一会長を厳重注意した。
個別番組への介入を禁じる放送法に抵触しかねない言動を主導していたのが当時、委員長代行だった森下氏らだ。
経営委は、厳重注意を巡る正式な議事録を公開していない。市民らの訴えを受け、東京地裁は今年2月、NHK側に議事録の録音データ開示などを命じる判決を下した。NHK側は控訴している。
古賀氏は就任の記者会見で、一連の問題について「事実関係を知らないので、言及するつもりはない」と述べた。しかし今後は、それでは済まされない。正式な議事録を作成して開示し、不信の払拭(ふっしょく)に努めるべきだ。
稲葉延雄会長は個別の番組について「執行部側の自主自律を担保していただくことが大切だ」と古賀新体制の経営委に注文した。
昨年には、認可されていないBS番組のネット配信関連費用を予算に計上していた不祥事が発覚した。総務省の有識者会議は、経営委の監督機能強化の必要性を指摘している。
NHKはネット配信の必須業務化など大きな転換期を迎えている。受信料のあり方にもかかわる。古賀氏には、視聴者の目線でNHKを監督する責任がある。