鹿児島県警察本部
鹿児島県警が異例の事態に揺れている。国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕された県警前生活安全部長が、県警トップの本部長が不祥事を隠蔽(いんぺい)しようとしたと訴える一方、本部長らは全面的に否定。同県警に対し、警察庁は監察に乗り出す方針だ。
「県警職員の犯罪行為を野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」。今年3月に退職するまで生活安全部長だった本田尚志容疑者(60)は5日、勾留理由開示手続きが行われていた法廷で、内部情報を漏らした理由を述べた。
ストーカー事案の被害女性の氏名などが記されていた内部文書を札幌市のライターに送ったとして逮捕された本田容疑者。この日の法廷では、昨年12月に発生した県警枕崎署員(5月に逮捕)による盗撮事件について、野川本部長から「泳がせよう」などと言われ、「本部長指揮の印鑑を押さなかった」と主張した。
一方、野川本部長は7日、報道陣に対し、「私が隠蔽の意図をもって指示を行ったことは一切ございません」と否定した。
本田容疑者の主張には不可解な点もみられる。県警などによると、本田容疑者がライターに郵送した書面には盗撮事件について、3月に退職した前刑事部長が「捜査を止めた」という趣旨の記述もあったという。
本田容疑者は10日に発表したコメントで、前刑事部長の氏名を記載した理由について「送ったのが自分だと分かるかもしれないと思い、隠蔽を指示した人物の名を変えた」と釈明した。前刑事部長は「捜査指揮に携わったことはなく、野川本部長から指示を受けたこともない」としている。
県警を巡っては不祥事が相次ぎ、今年に入って逮捕者は4人に上る。4月には捜査情報を外部に漏らしたとして、曽於署員が地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕された。容疑者の氏名や事件の対応状況を記載した一覧表などが漏れ、304人分の個人情報が流出していたという。
この漏えい先の疑いがあるとして、県警はニュースサイト「ハンター」の運営会社(福岡市)代表取締役の男性(64)宅を捜索した。この捜索で本田容疑者がライターに送った内部文書が発見され、逮捕につながったとみられる。
県警の「不祥事」を度々伝えてきた同サイト。捜索で携帯電話やパソコンも押収されたという男性は「警察を批判するメディアを捜査し、情報源を特定した。報道への脅しだ」と憤る。捜索時に令状を閲読させず、パソコンの返却時には同意を得ずに一部データを削除されたと主張する。これに対し、県警は「令状の明示や削除時の同意など適正捜査や任意性を確保している」と反論している。
元警察大学校長の田村正博・京都産業大教授(警察行政法)は「県警の最高幹部だった前生活安全部長が重要な個人情報を意図的に漏えいした事実は深刻な問題だ。警察への不信感が高まっており、県警には徹底的な調査と説明責任が求められる。警察庁や公安委員会の対応も重要だ」と話す。