アパレルの環境負荷 大量消費・廃棄を見直す時(2024年6月14日『毎日新聞』-「社説」)

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アパレル産業と環境問題を考えるセミナー。会場にはオーガニックコットンを利用した衣類も展示された=東京都千代田区で2024年6月5日午後6時2分、田中泰義撮影
 生活に欠かせない衣服が環境に与える負荷は大きい。アパレル企業も消費者も変わらなければならない。
 近年、国内では年間約40億点の衣類が市場に供給されている。一方で、約19億点に相当する約48・5万トンが廃棄されているとの推計がある。毎年、1人当たり十数点捨てた計算になるという。
 アパレル産業では生産過程で大量の端材が生じる。企業が余剰在庫を廃棄するケースもある。
 中でも2000年代に広がった「ファストファッション」が大量生産・消費に拍車をかけた。だれもが気軽に流行を楽しめるようになった半面、低価格なだけに不必要な買い物が増えた。
 水資源や気候変動に及ぼす影響も大きい。
 原材料から服1着を生産するまでに消費する水は浴槽11杯分に上る。排出される二酸化炭素は、ペットボトル約255本の製造に匹敵する。
 生産拠点の途上国では、染料による水質汚染が起きた。低賃金などの人権問題も表面化している。
 海外では規制強化の動きがある。欧州連合EU)は、売れ残った衣服の廃棄を禁止する「エコデザイン規制」を導入する。
 日本では、政府が環境に配慮した「サステナブルファッション」の実践を呼びかけている。経済産業省は、供給量を減少に転じさせ、40年には現状のほぼ半分の20億点にすることを目指している。
 長く着用できる良質な衣服を開発することは時代の要請だ。若者の間では、多少高価でも環境負荷の小さな製品を選んだり、再利用したりする意識が高まっている。
 消費者の行動は企業の経営方針に影響を与える。企業もサプライチェーン(供給網)や労働環境などの情報を開示し、消費者に賢い選択を促すべきだ。第三者機関が農薬使用の有無など生産過程を審査する国際認証を取得すれば、顧客の信頼も得られる。
 「つくる責任つかう責任」は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げているテーマの一つだ。
 身近な衣服への関心が高まれば、他分野での行動変容にもつながるだろう。資源循環型社会の構築に向けた一歩にしていきたい。