また国民に負担を押しつけるだけの大風呂敷に終わらないか。失敗の教訓を十分に学ばないまま、官製プロジェクトを推し進めようとする姿勢に疑念が拭えない。
経済産業省が国産旅客機開発の新戦略を発表した。今後10年間に官民で5兆円を投じ、脱炭素に対応した次世代機の開発・量産を目指す。
日本企業はこれまで、欧米航空機メーカーに部品を供給する下請けに甘んじてきた。経産省は「完成機も造れる基幹産業に育てたい」と説明する。
だが、同じ発想で進められた三菱重工業のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」開発は1年余り前に中止となった。
双発プロペラ機YS11以来40年ぶりの「日の丸旅客機」として2008年に始まったが、商用飛行に必須の「型式証明」を取得できなかった。1500億円とされた事業費は約1兆円に膨らみ、国が出資した500億円も失われた。
経産省は、型式証明の知見不足や市場環境の変化を失敗の理由に挙げる。その上で「民間1社では困難。国が前面に出て支援する枠組みが必要だ」と強調する。
今回は航空関連企業に加え、水素エンジンを開発する自動車メーカーにも参加を呼びかけ、日本の技術力を結集するという。脱炭素化を目的に発行する国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を財源に、国も思い切った支援を行う方針だ。
しかし、旧MRJの失敗を徹底検証したとは思えない。型式証明取得のノウハウは官民ともなお乏しい。次世代エンジン開発では欧米勢が大きく先行する。経産省は車向けの技術を生かせば追いつけると期待するが、識者は「転用は容易ではない」と疑問視する。
航空機は部品点数が約300万点と車の100倍で、裾野の広い有望産業だ。ただ、主役である民間企業は三菱重工の巨額損失を目の当たりにして腰が引けている。
過去には、税金を投じて国が仕掛けた半導体産業の再生策が民間の十分な協力を得られず、頓挫した例もある。
民間企業の新事業への挑戦を後押しするため、税制などの環境を整備する。それこそが国に求められる役割だ。