後発薬の安定供給へ再編を(2024年5月25日『日本経済新聞』-「社説」)

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小林化工の製造不正をきっかけに後発薬の供給不安が広がった
 
 医療費抑制策の柱である後発医薬品で供給不安が続いている。この問題で厚生労働省の検討会が安定供給に必要な産業構造のあり方を報告書にまとめた。小規模林立で脆弱な業界を再編し、強じんな供給体制をつくるのが柱だ。後発薬業界は指摘を重く受け止め、早期実現を目指してほしい。
 供給不安は後発薬メーカーの小林化工が起こした製造不正がきっかけだった。2021年に業務停止命令を受けると、他のメーカーでも工程に問題がみつかり、薬の出荷停止が広がった。その結果、違反がないメーカーへの発注が急増し、玉突き的に多くの薬で出荷が制限されるようになった。
 供給不足は3年以上たっても解消していない。24年4月の日本製薬団体連合会の調査によると、後発薬全品目のうち16%で出荷が制限され、14%で出荷停止となっている。
 直接の原因はメーカーの経営体質だ。ただし、底流には後発薬業界の構造的な課題と薬事行政の不備がある。報告書はこうした構造要因を分析し、薬を確保する目先の対策と別に、5年の集中期間を設けて改革するよう求めた。
 最大の問題は小規模なのに多品目を生産する産業特性にある。後発薬を供給する190社の67%は売り上げが年10億円に満たない。小規模林立のメーカーが約1万1千品目もの薬をつくっている。
 多品目の生産は製造工程が複雑で非効率になりがちだ。生産能力や人的資源が限られる小さな企業では、その管理が行き届かずに品質不良のリスクが増大する。こうした脆弱な構造を放置した薬事行政の責任も小さくない。
 報告書は再編や協業で産業構造を変える必要性を強調し、各社に取り組みを強く求めた。実現には医薬品卸や病院、薬局の協力が欠かせない。金融面や法令整備など政府のサポートも必要だろう。
割安な後発薬の浸透は医療費の増大を抑えるために重要である。政府と業界は危機感を持って体制を立て直してほしい。