貧困の先にあった代理出産 心の揺れ、丁寧に演じる 石橋静河「燕は戻ってこない」(2024年6月11日『産経新聞』)

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「燕は戻ってこない」に主演する石橋静河
「燕は戻ってこない」NHK総合 火曜午後10時
作品に臨む際、原作は読まない主義。だが、本作の主演が決まり、桐野夏生氏による原作小説を手にした。代理出産という非常にデリケートなテーマだからだ。
 
代理出産に限らず、若い女性の貧困、地方社会の生きづらさ…。いろんな問題が込められた小説。映像に変えて世に届けなくては、と思いました」
演じているのは、リキこと大石理紀29歳。北海道から上京し、質素なアパートに住む月給手取り約14万円の非正規労働者だ。困窮した日々を送るリキは、生殖医療エージェントを通し、元トップバレエダンサーで自身の遺伝子を継ぐ子供を切望する草桶基(稲垣吾郎)と、年齢的に不妊治療を諦めた妻の悠子(内田有紀)の代理出産を引き受ける。
三者の子宮を用いる代理出産は、日本では倫理的観点から認められていない。リキの目当ては高額な謝礼金だ。「リキは『子宮を貸せばいいんでしょ』という軽い感覚で、その先にある身体的、精神的な苦痛や変化など何も分かっていない」と、自身は最初はリキの行動を理解できなかったが、「貧困故に生殖医療ビジネスに巻き込まれた側面が大きいのかな」と捉え、次第に寄り添うようになっていったという。
現代は体外受精代理出産卵子凍結など生殖医療技術が進んでいる。だが、それは、本当に自分が産んでいいのかとリキを悩ませ、リキが産んだ子供を愛せるのかと悠子を葛藤させる。
「今って何に対しても選択肢が多いから、何を選んだらいいか分からなくなる。リキたちも代理出産という子供を持つ手段を知らなかったら、こんなふうな思いを抱くことはなかった。選択肢が多いことは必ずしも幸せではないと思います」
物語は佳境に入った。便宜上、基は悠子と偽装離婚してリキと偽装結婚。リキの出産後に悠子と再び結婚し、子供を引き取るという算段だ。
「妊娠してからリキに母性が芽生える。それまで受動的に生きてきたけれど、自身の考えを持つようになる。たくましくなる。同時に、いろんな壁や問題が生まれて、一人一人が翻弄される。それに驚き、考えながらドラマを堪能してほしいです」と力を込める。
タイトルの「燕は戻ってこない」に込められた意味とは。それを問うと、「それは桐野さんにしか分からないのでは。でも、いろんなふうに解釈できると思います」と、ほほ笑んだ。
 
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