「子供の顔見たかったな」29歳で子宮全摘 子宮体がん患者は…(2024年4月8日『NHKニュース』)

「子どもの顔を見てみたかったなって思うこともあるんです」

女性は29歳の時に「子宮体がん」と診断され、子宮の全摘を行いました。

今、増加傾向にある「子宮体がん」は若い世代でも直面するケースがあります。同世代にもっと知ってほしいと、取材に応じてくれました。

(ネットワーク報道部 記者 金澤志江)

“なんともないっしょ”と思ってた

新潟市のヒダノマナミさんに異変があったのは、8年ほど前。

生理の周期ではないのに、下着に血が。
不正出血がみられるようになりました。

ただ、もともと生理不順だったこともあって、気にすることはなかったといいます。

当時28歳。
勤めていたアパレル会社で責任のあることを任せられるようになり、仕事が楽しくなっていた時期でした。

ヒダノマナミさん

 

「仕事も忙しかったし、血がちょっとついてるくらいだから大したことないかなと思っていて、痛みもなかったので『何ともないしょ』って思っちゃっていました。子宮体がんはそもそも知らなかったし、がんになるなんて全く浮かばなかったですね」

「病院に行ったほうがいいよ」

異変に気付いてからしばらくして、同僚にすすめられ、近くのクリニックを受診しました。

すると、「子宮にポリープがある」と言われます。
経過観察をしていましたが、次第に症状は悪化します。

生理の時の経血が大量になり、トイレが血だらけになるようなことも。
腹痛と吐き気もひどくなり、ついに救急車で搬送されました。

ヒダノさん
「四つんばいになってはってトイレに行って吐きながら、血も大量に出ていたので貧血で目もチカチカしてきて。本当にやばいなという状態でした。その時はもう必死で、自分ではもうどうしようもないから家族に救急車を呼んでもらって」

“なんで私が”

いくつかの病院をまわった後、告げられた病名は「子宮体がん」。
ヒダノさんにとって、聞き慣れない病名でした。

最初に不正出血があってから1年がたっていました。

ヒダノさんは、子宮と卵巣を摘出する手術を受けることになりました。

担当の医師が説明で書いた図

手術後、医師が子宮の図を書きながら、ヒダノさんに症状について説明します。

『子宮の中は全部がんで埋まっていましたよ』

診断結果は「ステージ4」でした。

ヒダノさん
「ステージ4って結構パワーワードじゃないですか。この時が1番『ああ、がんなんだ』っていう感じで大泣きしたのをよく覚えています。どこかで『なんとかなるでしょ』みたいなのをずっと思っていて、先生も『たいしたことなかったよ』って言ってくれるはずだと思ったけど、意外とすごいひどいんだな、なんで私がって」

増加傾向にある子宮体がん

子宮がんは2種類に分かれています。

子宮下部にあたる子宮けい部にできる「子宮けいがん」は、2年に1度の検診や予防のためのワクチン接種が国で推奨されています。

一方、子宮の上部の子宮体部にできる「子宮体がん」は、特有の予防方法は確立されておらず、国が指針として定めている検診もありません。

国立がん研究センターの統計では「子宮けいがん」のり患者数は減少傾向ですが、「子宮体がん」は増加傾向にあります。

東京医科歯科大学の寺内公一教授は、ライフスタイルの変化が背景にあると指摘します。

東京医科歯科大学 寺内公一 教授

 

「女性ホルモンを原因とするケースが多く、その場合、肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣の欧米化に伴う生活習慣病の増加と関連することが知られています。また妊娠やお産をしていないことも関連することが知られています」

「子宮の内膜は、月経の周期とともに増殖をしては剥奪するということを繰り返していますが、妊娠・出産をしないと何十年も継続することになりますので、少子化も子宮体がんの増加と関連するということもあると思います」

“子どもの顔を見てみたかった”

子宮の全摘が標準治療とされる子宮体がん。

患者は40代から増え、50~60代が一番発症しやすいと言われています。

一方、若い世代も発症していて、2019年は20代と30代で735人がり患していました。

子宮以外にも転移があり、全摘する以外に選択肢がなかったというヒダノさん。

その後、抗がん剤治療も行いました。

体調が回復し、生活に余裕ができたいま、考えるのは子どものことだといいます。

ヒダノマナミさん

 

ヒダノさん
「当時はとにかく『子宮と卵巣をとります』と言われても、子どもうんぬんよりも自分が生きることに必死だったんだと思います。いまになって『子どもの顔を見てみたかったな』みたいな感情が強く出てきているので、ちょっとしんどいです」

「妊婦さんをみると結構つらくなっちゃうのでなるべく見ないようにとか。そういうネガティブな感情ももちろんあります。でも、もう人生は変えられないから」

早期発見であれば出産まで温存できるケースも

寺内教授によると、子宮体がんは最終的には子宮の全摘が必要となりますが、女性ホルモンが原因の患者が強く妊娠を望み、早期発見であることや筋肉へどれぐらい食い込んでいるかなど一定の条件を満たせば、ホルモン治療で妊娠・出産まで温存できる可能性があるケースもあるといいます。

だからこそ、自覚症状があることが多いとされる子宮体がんは、早期の受診が大切だといいます。

寺内教授
「今は出産年齢が高くなり、発見された時には出産を経験していない方もどんどん増えていて、妊よう性(子どもを産む力)を温存できるかという問題が大きくなっています。子宮体がんでは月経とは異なる出血がみられるのは90%というデータもあります。若い女性であれば月経が不規則だとその後の子宮体がんにつながることも知られているので、そういう方は早めに婦人科を受診してもらう必要があります」

“若い世代に知ってほしい”

若い人たちにも子宮体がんについて知ってほしい。

ヒダノさんはみずからの闘病の様子をブログで発信しています。

抗がん剤で髪が抜けたあとどんなウィッグを使っているか。
入院の際に何が役立ったか。

自分が子宮体がんと診断されたときに得られなかった、当事者が知りたい情報を細かく記しています。

みずからの体験をSNSYouTubeでも伝えてきたヒダノさん。

がん患者どうしのコミュニティーも生まれています。

YouTube配信の様子

 

ヒダノさん
「若い世代でも、子宮体がんになるっていうことを伝えていきたいですし、若い女の子に見てほしいです。不正出血で異変を感じた段階で何かの病気かもしれないと思ってしっかり婦人科を受診して診断をうけていれば、もしかしたら子宮を残すことができて、子どもがいたかもしれないとか、そういう思いがあるので。不調を感じたらすぐ医者に行ってもらいたいです」

子宮体がんは早期発見できる機会はある。
そして、子宮体がん患者は一人じゃない。

ヒダノさんは、きょうも発信を続けます。

4月8日(月)ニュースーン、9日(火)首都圏ネットワークで放送