小林製薬のサプリメントを摂取した人が腎臓の病気などを発症した問題で、いま健康食品の安全性に関心が高まっている。
一方、サプリメントや健康食品って、そもそもどれくらい健康に役立つの?などといった健康食品自体への疑問の声も上がっている。
そこで、独自調査を行ってみたところ、不適切な広告表示や、有効成分の根拠となる論文の信頼性の問題など健康食品に対する疑問点が続々と…
私たちは、サプリや健康食品とどう向き合えばいいのか。
(科学文化部 記者 島田尚朗 植田祐 絹川千晴)
健康食品ブームで増える“不適切表示”
WEB広告やパッケージ NHKが独自調査
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渡辺さんは「これは消費者庁への『届け出表示』の範囲を超えた、“はみ出し表示”の可能性がある」と指摘した。
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また、こちらの「NHKの番組で特集」と表示していたヤフーの広告。
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さらに取材を進めると、ある広告には事実とは異なる表示がされていることも明らかに。
「○○医師も愛飲」というフレーズが写真とともに掲載されていたが、医師本人に直接確認したところ「商品が送られてきて試しに飲んだことはあるが、“愛飲”はしていない」と答えた。
この広告の製品の販売者に取材したが、返事はない。
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また、目のピント調整の向上をうたうサプリメントのある広告は、現役眼科医として掲載されている画像がそもそも医師とは関係のないモデルが演じたネットの写真素材で「画像はイメージです」などの注釈も無かった。
この広告は、さきほどの「NHKの番組で特集」の広告と、同じ製品のものだった。
この製品の販売企業は私たちの取材に対し、番組で特集されたという表示や写真素材の使用について「外注先による広告であり、当社の確認を経ていないものであることが確認されたので、速やかに表示を修正するよう依頼した。今運用しているものは再度確認のためすべて停止し、外注先にすべて広告を提出してもらい、チェックしたものを配信するようにしていく」としている。
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渡辺大祐弁護士
「やや誇張した、いわゆる“攻めた”表現をしたほうが訴求力があり、売れてしまうという現実があり、行き過ぎた表現をしてしまう企業はあります。なかには、景品表示法違反の措置命令や課徴金の納付命令を受けてでも、商品を売り上げたほうがいいと考える事業者もないとは言い切れません」
そもそも健康食品って?
医薬品のような効果・効能をうたえない食品だが、一定の条件を満たした「保健機能食品」だけは、「おなかの調子を整える」など健康の維持や促進につながるという「機能性」を表示できる。
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機能性表示に根拠無しのサプリが…
去年6月、ある機能性表示食品の広告に表示されていた「機能性の表示」に、根拠がないとされて、処分される事例が初めて出た。
福岡市の通販業者が販売していた2つのサプリメントで「中性脂肪を低下させる」や「血圧をぐーんと下げる」などと表示していたが、これが優良誤認にあたるとして措置命令を行ったのだ。
会社側は、機能性表示成分3つの有効性に関する論文を根拠として提出したが、論文内で「効果があった」とされた成分量と比べ、製品に含まれている成分量が少なかったことなどから「表示に合理的根拠がない」とされた。
機能性表示食品の届け出で出された論文が、根拠として不十分だと指摘されたのだ。
消費者庁は、同じ根拠で届け出ていた機能性表示食品88製品についても調査。その後、すべての製品について撤回が申し出られたという。
機能性の根拠の研究論文を調べてみると…
機能性の根拠が十分でないとされた製品が流通している実態。
機能性の表示の根拠とされる研究論文やその使い方に問題があり、広告の誇張表示につながっていると指摘する研究も発表されている。
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ことし2月、染小英弘医師らの研究グループが発表した健康食品の機能性についての32の論文を無作為に抽出して詳しく調べた。
すると少なくとも8件に誇張表示があったという。
例えば、ある健康食品メーカーのサプリのパッケージには「肌(顔)のうるおい、保湿力を守ります」と書かれていた。
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その根拠となっていた臨床試験の論文を確認すると、試験では、顔と手の「水分量」と「蒸散量」の変化を4週間後と8週間後の、8つの項目で調べていた。
その結果、有意差があったのは「顔の蒸散量・8週間後」の1つの項目だけだった。
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研究グループ 染小英弘医師
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製品の広告では、この結果を引用して「目の疲労感を軽減する」としており、染小医師はこうした誇張された表示は消費者に誤解を与えかねないと指摘する。
研究グループ 染小英弘医師
「機能性表示食品はたくさん世に出ていますが、そのすべてが信頼に足るかというと、残念ながらそうではないと現時点では言わざるをえないと思います。消費者庁も事後チェックなどはしていますが、それでも改善の余地があるものがこれだけ多いということは、何か手を打たなければいけないのではないでしょうか」
※この飲料メーカーではその後、目の疲れを自覚している人を対象にした臨床試験を行い、機能性の根拠として追加で届け出ている。
“研究レビュー”の信頼性は…
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届け出るのは、製品を販売したい事業者や機能性関与成分の製造メーカー、代行業者など、さまざま。
ただ、「研究レビュー」を提出すれば、企業はコストのかかる臨床試験などを自社で行う必要はない。
現在機能性表示食品の9割以上の届け出に「研究レビュー」が使われている。
小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」も、「研究レビュー」で届け出されていた。
東京農業大学の上岡洋晴教授の研究グループは、この「研究レビュー」の「信頼性」が低下していると指摘する。
上岡教授は、2022年4月1日から10月31日までに届け出があった研究レビュー519編の中からランダムに抽出した40編のレビューの「信頼性」を国際的な評価ツールで調査した。
内容は▽「レビューの実施前に、レビュー方法を事前に登録して、公表していたか」▽「包括的に文献を検索したか」▽「除外した研究リストを明示して、除外理由を示したか」など16項目。
その結果、95%にあたる38編が、信頼性について「極めて低い」という評価となった。残る2編も「低い」という評価だった。
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上岡教授は、過去にも▼制度が始まった2015年と▼2017年から2018年にかけて消費者庁に届け出された「研究レビュー」の「質」を、別の評価ツールを使って調べているが、比較の結果、新たに届け出されたレビューのほうが、その「書き方」や「方法」の質が下がっていると指摘している。
なぜなのか?
上岡教授は、あくまで「推測」と前置きしつつ、調査から見えてきた、ある可能性を指摘した。
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東京農業大学 上岡洋晴教授
「2017年度に爆発的に届け出が増えてきた。その中で、前に出たレビューを見て『この程度で消費者庁が届け出を受けるのなら、それをマネして、形を整えればいいのでは』と、伝言ゲームのような形でレビューが書かれ、不十分な記載のものも増えてきたのではないかと。しっかり書く必要があるのに、どれもずいぶんスリムで簡略化しているんです」
「レビューの方法論の質が低いということは、機能性の効果がないという可能性を含むことを意味する。実は機能性がないものを消費者が購入しているかもしれないのです」
こうした現状について、健康食品に関連する600社以上が加盟している団体に取材すると、次のように答えた。
日本健康・栄養食品協会
「制度の開始から、届け出事業者への支援を行って参りましたが、さまざまな課題が指摘されていることについて真摯に受け止めております。届け出の資料の科学的根拠の質の向上や、広告表示で誤認を与えないための助言に引き続き取り組んで参ります」
私たちはどうすれば?
不適切な広告表示や、根拠となる論文の疑問などが指摘される中、私たち消費者は、何をもって健康食品を選べばいいのか。
広告調査を監修した渡辺弁護士は、例えば機能性表示食品であれば、消費者庁のホームページで届け出情報を検索し、広告の表現が行き過ぎていないか確認するなど、広告の表示をうのみにしないことだと語った。
機能性表示食品は、消費者庁のホームページにある「機能性表示食品の届出情報検索」というデータベースで、商品名や成分名などを入力し、検索を押せば、届け出の内容を確認することができる。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240608/K10014474071_2406081317_0608131914_02_09.jpg)
検索の結果、表示された一覧は少し複雑に見えるかもしれないが、比較的分かりやすい項目として「表示しようとする機能成分」の欄がある。
ここに表示されている文言が、基本的には「広告として表示できる機能性」となるので、これを大きく超えるような表現をしていないかを、確認してみると一つの目安になる。
一方で、食品安全に詳しい専門家は、一般の消費者がデータベースを見て根拠が信用に値するものなのか判断するのは難しい側面もあり、私たち自身が食品への正しい知識を身につけることが大切だと指摘する。
立命館大学 畝山智香子 客員研究員
「現状では、食品はもともと何をしてもいい安全なものではないことや、リスクに関する情報は十分伝わっていないと思います。そういう状況を改善するのは難しいですが、企業を100%信じるでも消費者の理解を求めるだけでもなく、社会全体で健康食品への理解を深めていくことが大切です」
健康食品は、あくまで健康の維持を補うものであって、病気の治療につながるものではない。
足りない栄養素ばかりに気をとられるのではなく、本当にその健康食品が必要かどうかを考えることが大切だ。